基本契約がある場合
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 20:13 UTC 版)
最判平成15年7月18日は、「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、民法489条及び491条の規定に従って、弁済当時存在する他の借入金債務に充当され、当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には、貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない」と判断し、基本契約のある場合の他の債務への過払金の充当を認めた。例外的に充当を認めない特約の存在の立証責任は貸主側にあることになろう。 しかし、この理論でいっても、弁済によって過払金が発生しても、その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には、上記過払金は、その後に発生した新たな借入金に充当できるか問題となる。なぜなら、過払金発生時に充当すべき債務が存在しないからである。最判平成19年6月7日は、カードローンのリボルビング払い方式について、借入れが別個であっても、同一の基本契約に基づく新たな借入れがあった場合、弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものとして過払金発生後の債務への充当を認めた。この場合の合意の存在は借主側に立証責任があることになろう。 この判例が出た後、時効の起算点についても問題となった。継続的な金銭消費貸借取引においては長期間に及ぶことから、時効の起算点をいつにするかによって過払金の額が大幅に異なることになる。貸金業者側は、過払金が発生した時点で、過払金を請求することができるのだからその時点から時効が進行すると主張しており、一部の下級審でこの考えをとった裁判例も存在した。この点について最判平成21年1月22日は貸金業者側の主張を退け、原則として取引終了時を時効の起算点とすると判断した。その理由として、過払金充当合意には、一般には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものとされる。そうすると、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。したがって、過払金返還請求権について上記内容と異なる合意が存在するなどの特段の事業がない限り、取引終了時を消滅時効の起算点とすると判断された。
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