回転触媒説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:45 UTC 版)
ATP合成酵素がATPの合成を生物体内で行っていることは古くから知られていたが、その反応素過程は分子生物学など生物学的発展の目覚しいごく最近に明らかになりつつある。ATP合成酵素の反応素過程に革新的な説として、ポール・ボイヤーと吉田賢右による「回転触媒仮説」があげられる。 これはATP合成酵素は位相をずらしながらATPの合成を行っているのではないかとする説であり、当初ボイヤーの提案した説は「振り子運動」であった。しかしながら吉田によってβサブユニットがATP合成酵素に3個含まれることが証明されると、振り子運動ではなく「回転している」と言うイメージが強まった。 1994年、ジョン・ウォーカーらによってウシATP合成酵素 F1 部位の立体構造が決定されると回転触媒仮説を支持する結果が得られた。F1部位の3つのβサブユニットにそれぞれATP、ADP、カラの状態、が交互になっていることが判明した。これは回転触媒説を十分に支持する結果ではあったが、現実の回転を直視する結果とはいえなかった。 1997年、ネイチャー (vol. 386, pp. 299–302) に野地、吉田らの研究による "Direct observation of the rotation of F1-ATPase" という題の論文が掲載された。これはATP合成酵素の F1 部位の回転を実際に観察したという画期的な実験法を述べた論文であり、この論文を通じて「ATP合成酵素は回転している」というボイヤーの説が現実のものとなった。この観察は一分子細胞生物学の基礎となりうる歴史的なものであった。同年、ボイヤー、ウォーカー、スコウ(イオン輸送ATPアーゼの発見)が、ATP合成酵素の研究に寄与したとしてノーベル化学賞を受賞した。
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