合唱の省略について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/02 01:48 UTC 版)
「ダフニスとクロエ (ラヴェル)」の記事における「合唱の省略について」の解説
『ダフニス』は管弦楽の編成が大きく、しかも合唱団までを必要としたために、他の作品に比べて上演にはコストがかかった。合唱を省略したいディアギレフと合唱を不可欠とするラヴェルとの間で意見が対立したが、結局ラヴェルは「ヨーロッパの主要都市では完全な合唱入りで演奏する」ことを条件として、重要ではない都市の公演では合唱抜きにすることに同意し、第1場の終わりに合唱のみで演奏される部分(「間奏曲」)を、管弦楽に編曲した。 ところがディアギレフは、1914年6月に ロンドンのドルリー・レーン劇場(英語版)で行うイギリス初演を合唱抜きにしようとした。このことに激怒したラヴェルはロンドンの4つの新聞社に抗議の声明文を送り付け、さらに交友関係のあったイギリスの作曲家レイフ・ヴォーン・ウィリアムズにも声明文のコピー送り、その内容をできるだけ広めてほしいと頼んだ。『ザ・モーニング・ポスト(英語版)』紙には次のようなラヴェルの意見文が掲載された。 私の最も重要な作品である『ダフニス』は6月9日、火曜日にドルリー・レーン劇場で上演される予定です。このことは私のもっとも喜びとするところであり、私の芸術上の経歴の中でもっとも名誉となることのひとつになるはずのことでした。ところが、私はロンドンの聴衆の前で演じられるものが私の作品の本来の姿ではなく、仮のアレンジであることを知りました。これはド・ディアギレフ氏の求めに応じて、あまり重要でない都市での上演を容易にするために書くことを受け入れたものです。ド・ディアギレフ氏はおそらく、ロンドンは「あまり重要ではない都市」だとみなしているのでしょう。なぜなら、彼はドルリー・レーンで、はっきりを約束したにもかかわらず、合唱ぬきの新版で上演しようとしているからです。私は深く悲しみ、驚き、このやりかたは作曲者と同じくらいロンドンの聴衆のことを馬鹿にするものだと考えます。 — ラヴェル、アービー・オレンシュタイン 井上さつき訳『ラヴェル-生涯と作品』音楽之友社、2006年12月、ISBN 4-276-13155-3、88頁より引用 ディアギレフはこれに反論したが、ラヴェルはさらに長い声明文を『コメディア(フランス語版)』紙に送り付けてディアギレフの誤りを指摘した。結果、ラヴェルとディアギレフとの間で、主要都市では合唱を入れることがあらためて確認され、ロンドン公演は合唱入りで行われた。 現在では、第1場の終末から第2場にかけての合唱(「間奏曲」)を省略した際の管弦楽版の楽譜が全曲版スコアの末尾に収録されており、その他の部分については必要な代替処置がパート譜に記されている。
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