単位の混同
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 02:50 UTC 版)
「マーズ・クライメイト・オービター」の記事における「単位の混同」の解説
マーズ・クライメイト・オービター(以下MCOと略す)は、角モーメント非飽和化法(Angular Moment Desaturation:AMD)という方法で、スラスター(軌道・姿勢修正用の小型ロケットエンジン)を噴射し、リアクション・ホイールを線形(非飽和)の動作領域に保っていた。 AMDを実施した時、関連する探査機のデータは地球の地上局へ送信され、地上で処理されてAMDファイルと呼ばれるファイルに保存されていた。ジェット推進研究所のMCO航行・運行チームは、AMDファイルから取り出したデータを元に、スラスターを噴射した時に探査機にかかる力を計算していた。このような計算は、探査機の軌道を正確に把握するために欠かせないことだった。スラスターを噴射した際の速度変化(デルタV)は、噴射時間と、個々のスラスターの性能をモデルするインパルス・ビット(衝撃量)に基づいて計算されていた。 スラスター動作の計算は、MCOでは冗長性を考慮して探査機上と地上支援局の2箇所で別々に行わるようになっていた。MCOに搭載されたソフトウェアは、スラスターによる速度変化を正しく計算し、地上局へ送信していた。一方で、地上局のソフトウェアは、元々は以前にマーズ・グローバル・サーベイヤー (MGS) 計画のために書かれたものだった。MGSでは、速度変化の計算は地上局のみが行い、機上計算は行わなかった。MCOの地上局は、この古いソフトウェアの制約のため、探査機から送信されてきた速度変化のデータを無視し、AMDファイルに基づいて地上で再計算した速度変化値のみを使用していた。 MCOはMGSとは異なるスラスターを使用していたため、計画の準備段階で、地上局ソフトウェアの計算式を書き換える必要があった。その際に、ポンド重・秒からニュートン・秒への単位変換が、計算式に埋没し、見逃されてしまった。このため地上局が計算したインパルス・ビットは、実際より4.45倍大きな値だった(1ポンド重 = 4.45ニュートン)。探査機から送られたAMDファイルを元に、地上局の間違った計算式で処理されたインパルス・ビットは、スラスター噴射が探査機の軌道に与える影響をそれだけ小さく見積もっていた。その結果、地上局は、探査機が火星に接近する軌道を見誤り、探査機を予定より低い高度で火星大気に突入させる結果を招いた。 この単位の混同の影響は、さらに2つの要因により拡大された。 AMDデータの流れを最初から最後まで通した試験をしなかった。 AMDに基づいて計算された結果とは別に、計算やチェックをしなかった。 これらは以前の探査機では実施されていたが、MCOでは予算削減のために省略されていた。 ウィキメディア・コモンズには、マーズ・クライメイト・オービターに関連するカテゴリがあります。
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