剛体の慣性モーメント
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/10 04:34 UTC 版)
ここでは、剛体の並進運動を棚に上げ、重心を通る軸の周りの回転運動についてだけ記述する。軸とz軸を重ね、軸に沿っての運動はないものと考える。この場合に重要になる物理量が慣性モーメントI(一般的な慣性モーメントについて→慣性モーメント)である。慣性モーメントは、 I = ∑ k m k r k 2 {\displaystyle I=\sum _{k}m_{k}r_{k}^{2}} が定義であり、剛体を構成する各粒子の、質量と軸からの距離の2乗の積であり、決して変形しない剛体にとって固有に定められた定数である。 一般に剛体では粒子が連続的に分布している(連続体)ので、慣性モーメントは次のような積分として計算される。 I ⟶ ∫ V r 2 d m = ∫ V r 2 ρ ( r ) d V {\displaystyle I\longrightarrow \int _{V}r^{2}\,dm=\int _{V}r^{2}\rho (r)\,dV} = ∭ V r 2 ρ ( r ) d x d y d z {\displaystyle {}=\iiint _{V}r^{2}\rho (r)\,dx\,dy\,dz} ここで、積分領域のVは剛体の体積を表す。 慣性モーメントは慣性能率とも呼ばれ、次のような重要性がある。 角運動量の大きさLと角速度ωは比例するが、Iはこのときの比例定数である。また、トルクの大きさNは角加速度 ω ˙ {\displaystyle {\dot {\omega }}} と比例し、このときの比例定数もIである。 剛体の、質量が m k {\displaystyle m_{k}} であるk番目の質点が軸から垂直方向に座標 r k {\displaystyle r_{k}} で外力によって質点が受ける運動量を p k {\displaystyle p_{k}} とし、角速度ωとすると、Lは L = ∑ k r k p k = ∑ k r k m k v k = ∑ k m k r k 2 ω {\displaystyle L=\sum _{k}r_{k}p_{k}=\sum _{k}r_{k}m_{k}v_{k}=\sum _{k}m_{k}r_{k}^{2}\omega } したがって、 L = I ω ⋯ ( 1 ) {\displaystyle L=I\omega \cdots (1)} となる。 また、 d L d t = N {\displaystyle {\tfrac {dL}{dt}}=N} から、 N = I d ω d t {\displaystyle N=I{\frac {d\omega }{dt}}} ところで、Iは、剛体の全質量をMとすると、 I = M k 2 {\displaystyle I=M\,k^{2}} と表すこともできる。このとき、kは剛体の回転半径という。この式の意味は、剛体の慣性モーメントは、考えている軸にkだけ離れた位置に全質量Mが集中している回転体として求めた量とみなすことができることである。 ここで慣性モーメント自体の力学的意義について説明する。(1)から、トルクNを一定にしたとき、角加速度は慣性モーメントIに反比例することがわかる。慣性モーメントを大きくしたとき、すなわち剛体の質量か回転半径を大きくしたとき、角加速度は小さくなる。すなわち回転の速度を変えるのに時間が懸かることになり、これは例えば、その剛体が回転しにくいが、一度回り始めると止めにくいことを表す。慣性モーメントIとは、回転の慣性の大きさを表す量、すなわち回転の(あるいは回転の速度を変える)難易性の目安を表している。ある回転の安定性、永続性の尺度とも言える。この理を利用して、安定した回転を保つために、大きな弾み車が発電機や各種のエンジンに取り付けられている。
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