写像の冪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/22 05:53 UTC 版)
集合 X とその部分集合 Y ⊂ X に対し、写像 f: X → Y はそれ自身と合成することができる。この合成写像をしばしば f2 で表す。同様に自分自身との合成を繰り返して ( f ∘ f ) ( x ) = f ( f ( x ) ) = f 2 ( x ) ; ( f ∘ f ∘ f ) ( x ) = f ( f ( f ( x ) ) ) = f 3 ( x ) ; ( f ∘ f ∘ ⋯ ∘ f ⏟ n times ) ( x ) = f ( f ( ⋯ ( f ( ⏟ n times x ) ⋯ ) ) ) ⏟ n times = f n ( x ) {\displaystyle {\begin{aligned}&(f\circ f)(x)=f(f(x))=f^{2}(x);\\&(f\circ f\circ f)(x)=f(f(f(x)))=f^{3}(x);\\&(\underbrace {f\circ f\circ \cdots \circ f} _{n{\text{ times}}})(x)=\underbrace {f(f(\cdots (f(} _{n{\text{ times}}}x\underbrace {)\cdots )))} _{n{\text{ times}}}=f^{n}(x)\end{aligned}}} という合成写像の列が得られる。このようにある写像を自身と繰り返し合成することで得られる合成写像を反復合成写像などと呼ぶ。 自然数 n に対し帰納的に定まる写像の反復合成冪 (functional powers) f ∘ fn = fn ∘ f = fn+1 は以下のように拡張すると便利である。 規約として、f0 := idD(f) とする(右辺は f の始域 D(f) 上の恒等写像である)。 f: X → X が逆写像 f−1 を持つならば、写像f の負の整数を指数とする合成冪を、逆写像の自然数冪 f − k := ( f − 1 ) k = f − 1 ∘ ⋯ ∘ f − 1 ( k > 0 ) {\displaystyle f^{-k}:=(f^{-1})^{k}=f^{-1}\circ \cdots \circ f^{-1}\quad (k>0)} と定める。 注意 f が環に値をとる写像(特に f が実数値や複素数値函数)のときは冪の記法に誤解の余地が生じる。すなわち、f2(x) = f(x) • f(x) のように、f の n 個の元ごとの積に対して fn という記法を用いている可能性があることに注意すべきである。 三角函数の慣習的な記法は、少なくとも(正の)自然数冪については後者(元ごとの冪)の意味で用いられている。たとえば、sin2(x) = {sin(x)}2 の意味である(三角函数の項などを参照)。ただし、負の整数冪については事情が異なり、特に (−1)-乗は、例えば tan−1(x) = arctan(x) (≠ 1/tan(x)) のように、逆函数の意味(合成冪)として用いるのが普通である。 ある場合には、f についての式 g(x) = f r(x) が適当な g の満たす性質から整数ではない r について成立することが導かれることがありうる。これを分数回反復 (fractional iteration) と呼ぶ。たとえば、写像 f の1/2回反復 (half iterate) とは g(g(x)) = f(x) を満たす写像 g のことである。別な例として、f を後継函数 (successor) として f r(x) = x + r とすることが考えられる。この考え方を一般化して、反復回数を表す添字を連続パラメータに取り替えることを考えることもできるが、このような系は流れ (flow) と呼ばれる。 反復合成写像および流れはフラクタルや力学系の研究に自然に現れる。
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