伝播と調節
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 15:54 UTC 版)
SINEによりコードされるRNAはタンパク質を一切コードしないが、逆転写によりゲノム上の別の領域に挿入される。長鎖散在反復配列 (LINE) は自身を逆転写およびゲノムへ再導入するタンパク質をコードするため、SINEはLINEと共進化したと考えられている。SINEは、LINEの2つのリーディングフレームにコードされているタンパク質と共選択されてきたと考えられている。Open reading frame 1 (ORF 1) は RNA に結合し、LINEタンパク質-RNA複合体構造を形成させ維持するシャペロンとして働くタンパク質をコードする。Open reading frame 2 (ORF 2) はエンドヌクレアーゼ活性と逆転写酵素活性をあわせもつタンパク質をコードする。このタンパク質により、LINE mRNAはDNAに逆転写され、このタンパク質のエンドヌクレアーゼ領域が認識する配列モチーフに基づいてゲノムに組み込まれることができる。 LINE-1 (L1) の転写およびレトロトランスポーズが最も頻繁に起こるのは、生殖系列(英語版)および発生初期である。したがってSINEがゲノム上で最も移動しやすいのもこれらの期間である。発生初期を過ぎた体細胞では、転写因子によってSINEの転写はダウンレギュレートされる。ウイルスベクターを介した水平伝播により、SINEが個体間および種間を移動することもある。 SINEとLINE の間には配列相同性があることが知られており、このためLINEが逆転写および再統合に用いている機構をSINEが利用することができる。加えて、一部のSINEはLINE がコードするのエンドヌクレアーゼではなく、ランダムな二本鎖DNA切断を伴う格段に複雑なゲノムへの再統合を行うシステムを用いると考えられている。そのシステムにおけるDNA切断は逆転写酵素をプライミングするために利用され、最終的な結果としてSINEを転写したものがゲノムへと統合される。しかし、どちらにしろSINEの再導入が他のDNA要素によってコードされる酵素に依存していることには変わりなく、非自律的レトロトランスポゾンに分類される。 SINEがLINEのレトロトランスポゾン機構を利用するよう進化してきたとする理論は、異なる種の分類群におけるLINEとSINEの存在および分布を調査する研究によって支持されている。たとえば、齧歯類と霊長類のLINE および SINEは、挿入サイトモチーフにおいて非常に強い相同性を示す。このような証拠は、SINE転写産物の再統合がLINEによりコードされるタンパク質産物と共選択されたとする仮説の基礎となっている。この仮説は、LINEおよびSINEが解析されている20を超える齧歯類について、齧歯類だけでなく他の哺乳類でも高頻度で見つかるそれぞれLINEとSINEのファミリーであるL1とB1を詳細に分析することにより実証されている。この研究では、LINEおよびSINEの活動の文脈における系統を明確にしようと試みている。 この研究では、L1 LINEが消失していることが初めて明らかになった候補分類群[訳語疑問点]を取り上げ、前述の仮説から予想される通りB1 SINEが活動している証拠がないことを明かにした。また、活動しているL1 LINEを持たない属に最も近い属で、L1 LINEを持つ属においても、B1 SINEがサイレンシングされているという事実から、B1 SINEのサイレンシングがL1 SINEが消失する前に発生したという事実も示唆されている。活性のあるL1 LINEを持つがB1 SINEを持たない属はもう1つ発見されているが、逆に活性のあるB1 SINEを持つがL1 SINEを持たないという属は見付かっていない。この結果はLINEによってコードされるRNA結合タンパク質、エンドヌクレアーゼ、および逆転写酵素と共選択されてSINEが進化したという説から予測されるものであり、この説を強く支持している。
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