ヘルクレス座ファイ星
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/03 21:26 UTC 版)
ヘルクレス座φ星 φ Herculis |
||
---|---|---|
![]() |
||
可視光のヘルクレス座φ星画像
|
||
星座 | ヘルクレス座 | |
見かけの等級 (mv) | 4.23[1] | |
変光星型 | ACV?[2] | |
位置 元期:J2000.0 |
||
赤経 (RA, α) | 16h 08m 46.1762180496s[3] | |
赤緯 (Dec, δ) | +44° 56′ 05.661355344″[3] | |
視線速度 (Rv) | -16.642 ± 0.045 km/s[4] | |
固有運動 (μ) | 赤経: -25.359 ミリ秒/年[3] 赤緯: 36.884 ミリ秒/年[3] |
|
年周視差 (π) | 13.5751 ± 0.4979ミリ秒[3] (誤差3.7%) |
|
距離 | 240 ± 9 光年[注 1] (74 ± 3 パーセク[注 1]) |
|
絶対等級 (MV) | A: 0.100 ± 0.059[4] B: 2.670 ± 0.074[4] |
|
ヘルクレス座φ星の位置(赤丸)
|
||
物理的性質 | ||
半径 | A: 3.203 R☉[5] | |
質量 | A: 3.05 ± 0.24 M☉[4] B: 1.614 ± 0.066 M☉[4] |
|
表面重力 (log g) | A: 4.05 ± 0.15 cgs[6] B: 4.30 ± 0.15 cgs[6] |
|
自転速度 | A: 8.0 ± 1.0 km/s[6] B: 50.0 ± 3.0 km/s[6] |
|
自転周期 | A: 3.708 日[5] | |
スペクトル分類 | B9 Hg Mn[7] + A8 V[6] | |
光度 | A: 166.7+5.9 −5.6 L☉[5] |
|
有効温度 (Teff) | A: 11,525 ± 150 K[6] B: 8,000 ± 150 K[6] |
|
色指数 (B-V) | -0.045[1] | |
色指数 (V-I) | -0.02[1] | |
金属量[Fe/H] | A: 0.26[6] | |
年齢 | 2.1×108 年[4] | |
軌道要素と性質 | ||
軌道長半径 (a) | 32.027 ± 0.028 ミリ秒[4] | |
離心率 (e) | 0.52614 ± 0.00086[4] | |
軌道周期 | 564.834 ± 0.038 日[4] | |
軌道傾斜角 (i) | 9.1 ± 0.4 度[4] | |
近点引数 (ω) | 350.3 ± 1.4 度[4] | |
他のカタログでの名称 | ||
ヘルクレス座11番星, BD+45 2376, FK5 601, HD 145389, HIP 79101, HR 6023, SAO 45911[3] | ||
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
ヘルクレス座φ星(ヘルクレスざファイせい、φ Herculis、φ Her)は、ヘルクレス座にある連星である[8]。年周視差に基づいて太陽からの距離を計算すると、およそ240光年である[3][注 1]。見かけの合成等級は4.23と、肉眼でみえる明るさである[1]。分光連星として知られるが、位置天文学や干渉法でも軌道が分析され、系の物理量がある程度詳しくわかっている[6][4]。主星は特異性の強い水銀・マンガン星で、変光星でもある[7][2]。
特徴
星系
ヘルクレス座φ星は、1960年代から1970年代にかけて、分光観測によって視線速度曲線が得られ、単線分光連星であると知られるようになり、軌道要素も求められた[9]。分光連星としては軌道周期が長く、離心率も大きいため、干渉法で伴星を検出できることが期待されたが、スペックル干渉法による観測でもなかなか検出には至らなかった[6]。しかし、20世紀末から21世紀にかけてアメリカ海軍研究所・アメリカ海軍天文台の試作光学干渉計(NPOI)による観測で、伴星は検出され、視覚的な軌道も求められた[6]。主星と伴星の等級差も求められ、伴星のスペクトル型も推定された[6]。これを手掛かりにスペクトルを分析したところ、自転速度による拡幅の違いから伴星の吸収線が主星の吸収線と区別され、ヘルクレス座φ星は二重線分光連星と位置づけられるようになった[6][5]。更にヒッパルコス衛星による位置天文学的情報や視線速度と総合し、それぞれの恒星の質量も見積もられるにいたった[4]。
ヘルクレス座φ星の連星軌道は、周期が約565日、離心率が0.526とだいぶ細長く、軌道傾斜角は9度とほぼ真上からみているような状態である[4][6]。主星のヘルクレス座φ星AはB9型の主系列星で、伴星のヘルクレス座φ星Bは干渉法で得られた等級差からスペクトル型A8 VのA型主系列星と推定される[6]。表面の有効温度はヘルクレス座φ星Aが約11500 K、ヘルクレス座φ星Bが約8000 Kで、質量はヘルクレス座φ星Aが太陽のおよそ3倍、ヘルクレス座φ星Bが太陽の約1.6倍と推定されている[6][4]。
特異性
ヘルクレス座φ星は、ヘンリー・ドレイパーカタログで既に、化学特異性について言及されており、モーガンによってマンガンが過剰にあることが示され、大沢が水銀・マンガン星に分類した[10][11][6]。水銀・マンガン星の特異性は高分散スペクトルでなければ判別できないものも多い中、20世紀初頭には指摘されていたことは、ヘルクレス座φ星の特異性の強さを表すものである[6]。ヘルクレス座φ星のスペクトルは、主星と伴星の成分の区別がついており、特異性を示すのは主星のヘルクレス座φ星Aで、そのスペクトル型はB9 Hg Mnとされている[6][7]。ヘルクレス座φ星Aの特異性は他の水銀・マンガン星の類型と似ており、アルミニウムは非常に欠乏している一方、スカンジウム、クロム、マンガン、亜鉛、ガリウム、ストロンチウム、イットリウム、バリウム、セシウム、水銀はとても過剰である[6]。
変光星

ヘルクレス座φ星は、ヒッパルコス衛星の観測結果から7.02日周期で0.01等変光する変光星であることが示された[1]。早期型の特異星で変光の周期や振幅から、りょうけん座α2型変光星ではないかと予想されるが、明らかとはなっていない[1][2]。
その後、TESSによる観測結果が蓄積されると、より精密な光度曲線が描けるようになり、そこから周期分析を行うと、ヘルクレス座φ星の変光周期は3.708日周期、及び1時間強の複数の周期に強い信号が現れた[5]。3.708日周期は回転変光の周期と考えられ、自転速度の視線方向成分がたった8 km/sであることからすると短い周期だが、軌道傾斜角が小さいので自転軸もそれに揃っているとすれば、自転速度の視線方向成分はわずかしかないので辻褄はあう[6][5]。周期1時間強の変光は、微妙に異なる5つの周期の振動が検出され、これらは音波を主とする非動径振動による変光と考えられている[5]。
名称
中国ではヘルクレス座φ星は、日月と五星を司るという七公(拼音: )という星官を、ヘルクレス座42番星、ヘルクレス座τ星、ヘルクレス座χ星、うしかい座ν1星、うしかい座μ1星、うしかい座δ星と共に形成する[13][14][15]。ヘルクレス座φ星自身は七公三( 拼音: )すなわち七公の3番星といわれる[15]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f ESA (1997), The HIPPARCOS and TYCHO catalogues. Astrometric and photometric star catalogues derived from the ESA HIPPARCOS Space Astrometry Mission, ESA SP Series, 1200, Noordwijk, Netherlands: ESA Publications Division, Bibcode: 1997ESASP1200.....E, ISBN 9290923997
- ^ a b c Samus, N. N.; et al. (2009-01), “General Catalogue of Variable Stars”, VizieR On-line Data Catalog: B/gcvs, Bibcode: 2009yCat....102025S
- ^ a b c d e f g “phi Her -- alpha2 CVn Variable”. SIMBAD. CDS. 2025年7月30日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o Torres, Guillermo (2007-06), “Astrometric-Spectroscopic Determination of the Absolute Masses of the HgMn Binary Star φ Herculis”, Astronomical Journal 133 (6): 2684-2695, Bibcode: 2007AJ....133.2684T, doi:10.1086/516756
- ^ a b c d e f g h Kochukhov, O.; et al. (2021-10), “TESS survey of rotational and pulsational variability of mercury-manganese stars”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 506 (4): 5328-5344, Bibcode: 2021MNRAS.506.5328K, doi:10.1093/mnras/stab2107
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Zavala, R. T.; et al. (2007-02), “The Mercury-Manganese Binary Star φ Herculis: Detection and Properties of the Secondary and Revision of the Elemental Abundances of the Primary”, Astrophysical Journal 655 (2): 1046-1057, Bibcode: 2007ApJ...655.1046Z, doi:10.1086/510108
- ^ a b c Renson, P.; Manfroid, J. (2009-05), “Catalogue of Ap, HgMn and Am stars”, Astronomy & Astrophysics 498 (3): 961-966, Bibcode: 2009A&A...498..961R, doi:10.1051/0004-6361/200810788
- ^ Kaler, James B. (2013年6月21日). “PHI HER (Phi Herculis)”. Stars. Univeristy of Illinois. 2025年7月30日閲覧。
- ^ Aikman, G. C. L. (1976), “The spectroscopic binary characteristics of the mercury-manganese stars”, Publications of the Dominion Astrophysical Observatory Victoria 14 (18): 379-410, Bibcode: 1976PDAO...14..379A
- ^ “The Henry Draper catalogue: 15h and 16h”, Annals of the Astronomical Observatory of Harvard College 96: 230, (1921), Bibcode: 1921AnHar..96....1C
- ^ Morgan, W. W. (1933-06), “Some Evidence for the Existence of a Peculiar Branch of the Spectral Sequence in the Interval B8-F0”, Astrophycial Journal 77: 330-336, Bibcode: 1933ApJ....77..330M, doi:10.1086/143476
- ^ “MAST: phi Herculis”. Mikulski Archive for Space Telescopes (MAST) Portal. STScI. 2025年7月30日閲覧。
- ^ “中國古代星座簡介”. 國立成功大學物理學系. 2025年7月30日閲覧。
- ^ 伊, 世同, ed. (1981) (中国語), 中西对照恒星图表 1950.0 (星图分册), 科学出版社, p. 6
- ^ a b 伊, 世同, ed. (1981) (中国語), 中西对照恒星图表 1950.0 (星表分册), 科学出版社, pp. 38-39
関連項目
外部リンク
- “VSX: Detail for phi Her”. The International Variable Star Index. AAVSO (2023年8月31日). 2025年7月30日閲覧。
- ヘルクレス座ファイ星のページへのリンク