フェロモンの受容機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/10 04:41 UTC 版)
両生類、爬虫類、哺乳類においては嗅上皮と異なる嗅覚に関する感覚器が知られている。これは鋤鼻器(VNO)あるいはヤコプソン器官といい、哺乳類では鼻腔の入り口近く、鼻中隔の下部に、トカゲやヘビでは口腔内に開口している管状の器官である。爬虫類の例えばヘビ等では嗅上皮よりも鋤鼻器が嗅覚の主体であり、ヘビやオオトカゲが頻繁に舌を出入りさせるのは、舌に空気中から吸着した臭い物質の分子を鋤鼻器に運び、外界の様子や獲物を探っているためである。 しかし、ヘビやトカゲ以外の両生類、爬虫類、哺乳類ではフェロモンの受容が鋤鼻器の主たる機能である。鋤鼻器にもGタンパク共役受容体が発現しており、これがフェロモンの受容体となっている。フェロモンを受容した信号は嗅球のすぐ上にある一次中枢の副嗅球を通じて脳の扁桃体や視床下部に送られてホルモンなどの分泌に影響を与えると考えられている。 ヒトにも鋤鼻器が存在していることが知られているが、胎児期にそこに接続する神経系の大部分が退化してしまい一次中枢の副嗅球も存在しない。そのためヒトではこの受容機構が機能している可能性は低いと考えられていた。近年のフェロモン研究では、鋤鼻神経系はふつうの匂いを感じる嗅覚神経とは独立した副嗅覚系(Accessory Olfactory System)と呼ばれている。鋤鼻神経系で感知したフェロモンの信号は視床下部に直接つながっており、大脳新皮質には届かないため、何かの匂いを感じたという意識を生じる事が無いまま直接ホルモンなどに影響を与えると考えられている。 また、ヤギやヒトにおいて通常の嗅覚系でフェロモン受容体の遺伝子が発現していることが報告されている。現在までのところその受容体が正常に働いているかどうかは不明であるが、鋤鼻器だけでなく、通常の嗅覚系でもフェロモンを受容できる可能性があることが示唆されている。なお、フェロモンはタンパク質が揮発せず、上記のように匂いとして認識できないことから、フェロモンが匂いと呼べるかどうかという議論がある。
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