ハミルトン力学による導入
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/05 07:33 UTC 版)
「ポアンカレの回帰定理」の記事における「ハミルトン力学による導入」の解説
ポアンカレの回帰定理の主張は、ハミルトン力学における相空間上の点の時間発展を数学的に抽象化した測度空間上の保測変換の満たす性質として、定式化される。ハミルトン力学では、一般化座標 q=(q1,…,qn) と正準共役な正準運動量 p=(p1,…,pn) の組からなる正準変数 (q, p) によって、系の状態が記述される。(q, p) で指定される状態は相空間上の点であり、その時間発展は相空間の軌道 (q(t), p(t)) として、表現される。 (q(t), p(t)) の時間発展は、ハミルトンの正準方程式 d q i d t = ∂ H ∂ p i {\displaystyle {\frac {dq_{i}}{dt}}={\frac {\partial H}{\partial p_{i}}}} d p i d t = − ∂ H ∂ q i ( i = 1 , ⋯ n ) {\displaystyle {\frac {dp_{i}}{dt}}=-{\frac {\partial H}{\partial q_{i}}}\quad (i=1,\cdots \,n)} で記述される。但し、H=H(q, p) は系のハミルトニアンである。この時間発展によって T t : ( q ( 0 ) , p ( 0 ) ) → ( q ( t ) , p ( t ) ) {\displaystyle T_{t}:(q(0),p(0))\rightarrow (q(t),p(t))} を与える写像 Tt が定まる。写像 Tt は性質 T t ∘ T s = T t + s {\displaystyle T_{t}\circ T_{s}=T_{t+s}} T t ∘ T − t = I {\displaystyle T_{t}\circ T_{-t}=I} を満たしており、その集合 {Tt} は流れ(flow)と呼ばれる。リュービルの定理によれば、相空間上の体積要素 d q 1 d p 1 ⋯ d q n d p n {\displaystyle dq_{1}dp_{1}\cdots dq_{n}dp_{n}} は、 {Tt} による時間発展に対して、不変である。これは、{Tt} が測度を不変に保つ保測変換であることを意味する。 ハミルトニアン H(q, p) が時間に陽に依存しない場合、エネルギー E は保存量であり、軌道 (q(t), p(t)) は H ( q , p ) = E =: c o n s t . {\displaystyle H(q,p)=E=:\operatorname {const.} } で与えられる相空間内の等エネルギー面 ΩE 内に留まることとなる。この等エネルギー面 ΩE 内の領域 A の面積は、 μ ( A ) = ∫ A d σ | | ∇ H ( q , p ) | | {\displaystyle \mu (A)=\int _{A}{\frac {d\sigma }{||\nabla H(q,p)||}}} で与えられる。ここで、dσ は ΩE の面積要素、∇H(q, p) は勾配ベクトルである。すなわち、 ΩE(とその完全加法族𝔉)に測度 μ が導入される。 ポアンカレの回帰定理では、ΩE の面積が有限であるという仮定 μ ( Ω E ) < + ∞ {\displaystyle \mu (\Omega _{E})<+\infty } が置かれる。これは、一般化座標 q や正準運動量 pが無限に増大することがないという仮定に相当する。
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