測度保存力学系
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/29 22:09 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動数学における測度保存力学系(そくどほぞんりきがくけい、英: measure-preserving dynamical system)は、力学系の抽象的形成や、特にエルゴード理論に現れる一研究対象である。
定義
測度保存力学系は、確率空間とその上の測度保存変換として定義される。より正確に言うと、それは系
-
例には次のものが含まれる:
- μ が単位円上の正規化された角度を確率測度 dθ/2π とし、T が回転の場合。同程度分布定理を参照;
- ベルヌーイスキーム;
- 区間交換変換;
- 適切な測度の定義の下での有限タイプのサブシフト;
- ランダム力学系の基底フロー。
準同型
二つの力学系 と を考える。このとき、写像
は、次の三つの性質を満たすなら力学系の準同型(homomorphism of dynamical systems)と呼ばれる:
このとき系 は の因子(factor)と呼ばれる。
さらに、準同型であるまた別の写像
で次の性質を満たすものが存在するなら、写像 φ は力学系の同型(isomorphism of dynamical systems)である:
- μ についてほとんど全ての x ∈ X に対し、 が成立する;
- ν についてほとんど全ての y ∈ Y に対し、 が成立する。
したがって、力学系とそれらの準同型の圏を構成することが出来る。
生成点
ある点 x ∈ X は、その点の軌道が測度に従って一様に分布されるとき、生成点(generic point)と呼ばれる。
記号名と生成素
力学系 を考え、X の可測な k 個の互いに素な分割を Q = {Q1, ..., Qk} とする。ある点 x ∈ X が与えられたとき、それは明らかにある Qi にのみ属することになる。同様に、反復された点 Tnx もそのような分割のどれか一つにのみ属することになる。そのような分割 Q に関する x の記号名(symbolic name)は、次を満たす自然数の列 {an} のことを言う:
ある分割に関する記号名の集合は、その力学系の記号力学と呼ばれる。分割 Q は、μ についてほとんど全ての点 x が一意な記号名を持つとき、生成素(generator)あるいは生成分割(generating partition)と呼ばれる。
演算と分割
分割 Q = {Q1, ..., Qk} と力学系 が与えられたとき、Q の T-引き戻し(pullback)は次で定義される:
さらに、二つの分割 Q = {Q1, ..., Qk} と R = {R1, ..., Rm} が与えられたとき、それらの細分(refinement)は次で定義される:
これらを元に、反復引き戻しの細分(refinement of an iterated pullback)を次で定義することが出来る:
これは力学系の測度論的エントロピーを構成する上で重要な役割を担う。
測度論的エントロピー
すると、分割 Q = {Q1, ..., Qk} に関する力学系 の測度論的エントロピーは、次で定義される:
最後に、力学系 のコルモゴロフ=シナイ(Kolmogorov-Sinai)あるいは計量(metric)あるいは測度論的エントロピー(measure-theoretic entropy)は、次で定義される:
ここで上限はすべての有限個の可測な分割について取られる。1959年のヤコフ・シナイの定理では、上限は実際には生成素であるような分割について得られることが示された。したがって例えば、ほとんど全ての実数は一意な二進展開を持つため、ベルヌーイ過程のエントロピーは log 2 である。すなわち、単位区間を区間 [0, 1/2) と [1/2, 1] に区分することが出来る。すべての実数 x は 1/2 より小さいかそうでないかのいずれかであるので、2nx の小数部分についても同様のことが成り立つ。
空間 X がコンパクトで位相を備えるものであるか、計量空間であるなら、位相的エントロピーも同様に定義することが出来る。
関連項目
- クリロフ=ボゴリューボフの定理:不変測度の存在に関する定理
- ポアンカレの回帰定理
参考文献
- ^ Ya.G. Sinai, (1959) "On the Notion of Entropy of a Dynamical System", Doklady of Russian Academy of Sciences 124, pp. 768–771.
- ^ Ya. G. Sinai, (2007) "Metric Entropy of Dynamical System"
- Michael S. Keane, "Ergodic theory and subshifts of finite type", (1991), appearing as Chapter 2 in Ergodic Theory, Symbolic Dynamics and Hyperbolic Spaces, Tim Bedford, Michael Keane and Caroline Series, Eds. Oxford University Press, Oxford (1991). ISBN 0-19-853390-X (Provides expository introduction, with exercises, and extensive references.)
- Lai-Sang Young, "Entropy in Dynamical Systems" (pdf; ps), appearing as Chapter 16 in Entropy, Andreas Greven, Gerhard Keller, and Gerald Warnecke, eds. Princeton University Press, Princeton, NJ (2003). ISBN 0-691-11338-6
例
- T. Schürmann and I. Hoffmann, The entropy of strange billiards inside n-simplexes. J. Phys. A28, page 5033ff, 1995. PDF-Dokument
保測変換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/22 03:57 UTC 版)
確率測度Pにおいて保測変換Tは任意の事象Aにおいて P ( T A ) = P ( A ) {\displaystyle P(TA)=P(A)} といった具合にAの起こりうる確率を変化させずに別又は同じ事象TAに変換するものをいう。即ち、確率測度という大きさの測り方を指定したときに、大きさを変えずに変化させる操作の総称をいう。ただし、 P ( T − 1 A ) = P ( A ) {\displaystyle P(T^{-1}A)=P(A)} であることはmeasure preserving(邦訳:測度保存)という名がついており、可逆性を満たせば保測変換になるという広いクラスとなる。
※この「保測変換」の解説は、「エルゴード理論」の解説の一部です。
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