テキストと順番
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/09 10:50 UTC 版)
『カンタベリー物語』の中世の写本は全部で83あることがわかっていて、その数は、中英語で書かれた本では『Ayenbite of Inwyt』(ケント方言)を除いて他に並ぶものはない。これは『カンタベリー物語』の人気の高さを表している。83の写本のうち55は完全版だったと見られ、残り28(もしくはそれ以上)は断片だが、それが個別の話の写しなのか、あるいは、一部なのかを特定することは難しい。話の細かな差異は明らかに筆耕のミスである。しかし、それ以外はチョーサー本人が絶えず加筆・修正をしていたことを暗示している。これこそ『カンタベリー物語』の決定版だというものは存在しない。話の順番についても同様である。話の繋がりから、『カンタベリー物語』の各話を以下の断片に分けることができる。 断片話断片1(A) 総序、騎士、粉屋、親分、料理人 断片2(B1) 法律家 断片3(D) バースの女房、托鉢僧、刑事 断片4(E) 学僧、貿易商人 断片5(F) 騎士の従者、郷士 断片6(C) 医者、赦罪状売り 断片7(B2) 船長、尼寺の長、チョーサー、メリベ、修道院僧、尼院侍僧 断片8(G) 第二の尼、僧の従者 断片9(H) 大学賄人 断片10(I) 牧師 この順番は、写本のうちもっとも美麗なエルズミア写本(Ellesmere manuscript、略称:El)の順番で、数世紀にわたって、そして現在でもなお、多くの編者がこの順番に従っている。現在、エルズミア写本の筆耕はチョーサーの下で働いていたアダム・ピンクハースト(Adam Pinkhurst)だということがわかっている。しかし、現存する中で最古の写本と見られているHengwrt写本(Hengwrt Chaucer、略称Hg)は順番が異なっていて、抜けている話もある。Hengwrt写本にしてもチョーサーの死後編纂されたもので、チョーサーのオリジナルのものはない。また、ヴィクトリア朝には断片2の後に断片7を置くことが多かったり、他にもいろいろな順番がある。 印刷されたもので最古のものはウィリアム・キャクストン(William Caxton)による1478年の版だが、その元となった写本は現在では失われている(しかし83の写本の中には数えられている)。
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