スロー地震の統一的な理解をめぐる二つの立場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/25 16:37 UTC 版)
「スロースリップ」の記事における「スロー地震の統一的な理解をめぐる二つの立場」の解説
「#スロースリップの発生域の例」で紹介したように、スロースリップ(スロー地震)は多種多様である。中でも主要なものは、低周波地震、低周波微動(構造性微動)、超低周波地震、短期的スロースリップイベント、長期的スロースリップイベントの5種類である。これらのスロー地震は、その発生域・発生時期はほぼ一致するものの、異なる物理メカニズムをもつ現象であるとする考えがある。 それに対して、2007年、多種多様なスロー地震は同じ物理メカニズムをもつ、規模(あるいは現象継続期間)のみが異なる現象であるという仮説が提唱された。この仮説は、主要なスロー地震の典型的な地震モーメントが、そのスロー地震の典型的な現象継続期間の1乗に概ね比例するという観測事実に基づく。通常の地震の地震モーメントは現象継続期間の3乗に比例するため、スロー地震と通常の地震は明確に区別できる。この仮説は、多種多様なスロー地震の統一的な理解を志向するものである。多種多様なスロー地震は、時間スケールの最も短い低周波地震を単位として成長していくプレート間の滑り運動を、異なる時間スケールで観察したものと解釈される。 これらの2つの立場の論争は、未だ最終的な決着がついておらず、それぞれの立場から多くの研究成果が発表されている。例えば、2019年には、カスケード沈み込み帯で発生する短期的スロースリップイベントは、地震モーメントが現象継続時間の1乗ではなく、3乗に比例すると報告された。この観測事実に基づけば、短期的スロースリップイベントと、その他のスロー地震(特に、低周波地震、低周波微動、および超低周波地震)は異なる物理メカニズムをもつ現象と考えられる。一方、2020年には、四国西部直下のプレート境界で発生する低周波地震の解析により、低周波地震の帯域(1ヘルツ以上、周期1秒未満)から超低周波地震の帯域(0.01-0.1ヘルツ、つまり周期10秒から100秒)まで、連続的に地震波形が観測された。この観測事実に基づけば、低周波地震と超低周波地震は、同一の断層すべり現象の、それぞれ高周波成分(1ヘルツ以上)と低周波成分(0.01-0.1ヘルツ)にすぎないと考えられる。低周波地震を高周波成分に、超低周波地震を低周波成分にもつ、この断層滑り現象は「広帯域スロー地震(英: broadband slow earthquake)」と名付けられた。
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