シュードノットとは? わかりやすく解説

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シュードノット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/22 08:30 UTC 版)

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ヒトのテロメラーゼのRNA要素中に存在するシュードノット構造[1]
テロメラーゼRNAとほぼ同一なシュードノットの立体構造。スティックモデル(A)とバックボーンモデル(B)。各塩基はAが黄、Uが赤、Cが青、Gが緑色で示されている。1YMO

シュードノット: pseudoknot)は、少なくとも2つのステムループ構造を含む核酸の二次構造で、一方のステムの片側が他方のステムの間に位置している。シュードノットは、1982年にカブ黄斑モザイクウイルス英語版RNA中に初めて同定された[2]結び目(ノット)に似た三次構造へ折り畳まれるが、実際には結び目ではない。

予測と同定

シュードノットの構造形態は、コンテクスト依存性や塩基対形成領域の重複のため、計算生物学的手法による検出には適していない。シュードノット中の塩基対形成パターンは入れ子状になっておらず、このことが標準的な動的計画法によるRNA配列中のシュードノットの存在予測をより困難なものにしている。動的計画法では塩基対形成したステムを同定するために再帰的なスコアリングシステムが用いられるため、入れ子状になっていない塩基対はほとんど検出することができない。確率文脈自由文法といった新たな手法もシュードノットを同様の問題を抱えている。そのため、MfoldPfoldといったよく用いられる二次構造予測手法ではクエリ配列中に存在するシュードノット構造を予測することはできず、2つのステムのうちより安定なものだけが同定される。

動的計画法を用いて限られたクラスのシュードノットを同定することは可能であるが、これらの手法は網羅的ではなく、シュードノットを考慮しないアルゴリズムよりも配列長に応じた計算規模の増大が著しい[3][4]。シュードノットを含む最小自由エネルギー構造の予測はNP完全問題であることが示されている[5][6]

生物学的意義

いくつかの重要な生物学的過程がシュードノットを形成するRNA分子に依存しており、その多くは広範囲にわたる三次構造を有するものである。リボヌクレアーゼP英語版のシュードノット領域は、全ての進化の過程で最も保存さているエレメントの1つである。テロメラーゼRNA英語版のシュードノットはテロメラーゼ活性に重要である[1]。いくつかのウイルスは、宿主細胞に進入するためにシュードノット構造を用いてtRNAに似たモチーフを形成する[7]

表記法

シュードノットは一次配列上でどのようにステムが交差するか、そして何度交差するかによって多数のタイプが存在する。この違いによって、シュードノットはH、K、L、M型へと分類されている[8]。冒頭の図で示されている単純なテロメラーゼP2b-P3は、H型のシュードノットである。

RNAの二次構造は通常ドットとブラケットによる表記がなされ、丸括弧 () はステムを形成する塩基対を、ドットはループを表す。しかし、シュードノットではステムが他のステムによって分断されているため、異なるステムを表すために他のブラケットまたは文字を用いた表記の拡張が必要である。そのような場合、ステムの開始には ([{<ABCDE 、終わりには edcba>}]) が外側から順番に用いられる[9]。2つの(わずかに異なる)テロメラーゼのアラインメントをこの表記法で示すと次のようになる。

           (((.(((((........[[[[[[[[[))))).))).   ...]]].]]]]]].
drawing  1 CGCGCGCUGUUUUUCUCGCUGACUUUCAGCGGGCGA---AAAAAAUGUCAGCU  50
ALIGN         |.|||||||||||||||||||||||||  .|.|   |||||| ||||||.
1ymo     1 ---GGGCUGUUUUUCUCGCUGACUUUCAGC--CCCAAACAAAAAA-GUCAGCA  47
              ((((((........[[[[[[[[[))))  ))........]]].]]]]]].

テロメラーゼRNAのシュードノットに通常存在するUバルジが、シュードノットの安定性を増すために1ymoでは除かれている[10]

出典

  1. ^ a b Chen, JL; Greider, CW (7 June 2005). “Functional analysis of the pseudoknot structure in human telomerase RNA.”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 102 (23): 8077–9. Bibcode2005PNAS..102.8080C. doi:10.1073/pnas.0502259102. PMC: 1149427. PMID 15849264. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1149427/. 
  2. ^ “Pseudoknots: RNA structures with diverse functions”. PLoS Biol. 3 (6): e213. (June 2005). doi:10.1371/journal.pbio.0030213. PMC: 1149493. PMID 15941360. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1149493/. 
  3. ^ Rivas, E.; Eddy, S. R. (1999-02-05). “A dynamic programming algorithm for RNA structure prediction including pseudoknots”. Journal of Molecular Biology 285 (5): 2053–2068. doi:10.1006/jmbi.1998.2436. ISSN 0022-2836. PMID 9925784. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9925784. 
  4. ^ Dirks, Robert M.; Pierce, Niles A. (2004-07-30). “An algorithm for computing nucleic acid base-pairing probabilities including pseudoknots”. Journal of Computational Chemistry 25 (10): 1295–1304. doi:10.1002/jcc.20057. ISSN 0192-8651. PMID 15139042. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15139042. 
  5. ^ Lyngsø, R. B.; Pedersen, C. N. (2000). “RNA pseudoknot prediction in energy-based models”. Journal of Computational Biology: A Journal of Computational Molecular Cell Biology 7 (3-4): 409–427. doi:10.1089/106652700750050862. ISSN 1066-5277. PMID 11108471. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11108471. 
  6. ^ Lyngsø, R. B. (2004). Complexity of pseudoknot prediction in simple models. Paper presented at the ICALP.
  7. ^ “A new principle of RNA folding based on pseudoknotting.”. Nucleic Acids Res 13 (5): 1717–31. (1985). doi:10.1093/nar/13.5.1717. PMC: 341107. PMID 4000943. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC341107/. 
  8. ^ Kucharík, M; Hofacker, IL; Stadler, PF; Qin, J (15 January 2016). “Pseudoknots in RNA folding landscapes.”. Bioinformatics (Oxford, England) 32 (2): 187–94. doi:10.1093/bioinformatics/btv572. PMC: 4708108. PMID 26428288. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4708108/. 
  9. ^ Antczak, M; Popenda, M; Zok, T; Zurkowski, M; Adamiak, RW; Szachniuk, M (15 April 2018). “New algorithms to represent complex pseudoknotted RNA structures in dot-bracket notation.”. Bioinformatics (Oxford, England) 34 (8): 1304–1312. doi:10.1093/bioinformatics/btx783. PMC: 5905660. PMID 29236971. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5905660/. 
  10. ^ Theimer, CA; Blois, CA; Feigon, J (4 March 2005). “Structure of the human telomerase RNA pseudoknot reveals conserved tertiary interactions essential for function.”. Molecular Cell 17 (5): 671–82. doi:10.1016/j.molcel.2005.01.017. PMID 15749017. 

関連項目

外部リンク


シュードノット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/03 04:53 UTC 版)

核酸の二次構造」の記事における「シュードノット」の解説

詳細は「シュードノット」を参照 シュードノットは少なくとも2つステムループ構造含み一方ステム片側の鎖は他方ステムの両鎖の中間挿入されている。シュードノットは結び目ノット)型の三次元構造フォールディングするが、実際に結び目形成されるわけではない。シュードノット中の2つステム塩基対入れ子になっていないため、両者一次配列上の位置重複する。このことが、標準的な動的計画法による核酸配列中のシュードノットの存在予測不可能にしている。これらの手法では塩基対形成するステム同定のために再帰的スコアリングシステム利用するため、入れ子型でない塩基対一般的なアルゴリズム検出することはできない。しかし、限られたサブクラスのシュードノットのは修正され動的計画法によって予測することが可能である。確率文脈自由文法といった新たな構造予測技術もシュードノットを考慮することはできない。 シュードノットは触媒作用を持つさまざまな構造形成することができ、重要な生物学的過程いくつかはシュードノットを形成するRNA分子依存している。例えば、ヒトテロメラーゼRNA要素は、その活性重要なシュードノット構造含んでいる。D型肝炎ウイルスリボザイムは、活性部位にシュードノット構造を持つ触媒RNA良く知られた例である。DNAもシュードノットを形成することができるが、標準的な生理的条件下では一般的に存在しない

※この「シュードノット」の解説は、「核酸の二次構造」の解説の一部です。
「シュードノット」を含む「核酸の二次構造」の記事については、「核酸の二次構造」の概要を参照ください。

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