ゲルマン祖語後期 (紀元0–200)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/07 17:41 UTC 版)
「英語の音韻史」の記事における「ゲルマン祖語後期 (紀元0–200)」の解説
ゲルマン祖語の後期から紀元2世紀に西ゲルマン祖語に至る変化を扱う。 古期i-ウムラウト: /e/が次の音節の/i/あるいは/j/の影響で/i/になる。これは弱母音が消失する前に生じたため、PIE /bereti/ > PG /bereθi/ > /beriθi/ > Goth [baíriθ] /beriθ/ "(he) carries"となる。 この変化で生じた/i/は後のi-ウムラウトを引き起こす。例:WG /beriθ/ > /biriθ/ > OE /birθ/ "(he) carries". A-ウムラウト: /u/が次の音節が狭母音でない場合/o/になる。この変化は子音の後ろに鼻音を伴う子音群あるいはjを含む子音群がある場合には生じない。このためPG /gulda/ > OE/NE gold, PG /guldjanan/ > OE gyldan > NE gildとなる。 この変化によって新しく音素/o/が生じる。 /x/の前の/n/が脱落し、母音の鼻音化と代償延長が生じる。鼻音化は古英語に至る前まで残ったが消失した。 このためPrePG /tongjonom/ > PG > /θankjanan/ > OE þencan > NE thinkとなるが、PrePG /tonktoːm/ > PG /θanxtoːn/ > /θãːxtoːn/ > OE [þóhte] > NE thoughtとなる。 語末/n/が鼻音化(後に消失)と代償延長を起こして脱落する。このためPrePG /dʱogʱom/ > PG /dagam/ > PN /daga/ > WG /dag/ "day (単数体格"となる。 鼻音の前の狭母音化:鼻音+子音の前で/e/ > /i/になる。PrePG /bʱendʱonom/ > PG /bendanan/ > /bindanan/ > OE bindan > NE bind (ラテン語 [of-fendō])。この変化は /x/の前の/n/の消失より後に生じた。 この変化PreOEで鼻音の前の母音すべてに適用された。OE niman "取る" OHG neman。 /ei/ > /iː/ (紀元100年ごろ)。北ゲルマン祖語を表す古期ルーン文字には二字の区別が見られる。 アクセントのない母音は弱化あるいは脱落する。仕組みは数百年かけて生じた複雑なものである。以下その第一段階にあたる特徴である:ゲルマン祖語から引き継いだ語末の短母音は概ね消失した。[baíriθ] /beriθ/ "(he) carries" < PG /bereθi/この変化は三音節以上の単語では広く生じた。二音節の単語では末尾の/a/と/e/は消失したが/i/と/u/は短音節 (短母音の後ろに子音が一つあるいはゼロ個つく場合)では影響を受けなかった。(1)PG /dagaz/ > Goth dags "day (nom. sing.)" (OE dæg), PIE /woida/ > PG /waita/ > Goth wáit "(I) know" (OE [wát]), PIE /woide/ > PG /waite/ > Goth "wáit" "(he) knows" (OE [wát]),(2) PIE /sunus/ > PG /sunuz/ > Goth sunus "息子 (単数主格)" (OE sunu), PIE /peku/ > PG /fehu/ > Goth faíhu /fehu/ "子牛 (単数主格)" (OE feohu), PIE /wenis/ > PG /weniz/ > /winiz/ > OHG wini "友(単数主格)" (OE wine), PIE /poːdi/ > PG /foːti/ > PreOE /føːti/ > OE [fét] "足 (単数与格)". 語末の/a/と/e/は二音節で/r/と/ns/を伴う場合には消失しなかった。PG /fader/ > NE father; PG /stainans/ > Goth stáinans "石 (複数対格)"。 語末の/a/と/e/は二音節でも北欧祖語では消失しないPN /dagaz/, Goth dags "day (nom. sg.)". PN /daga/, Goth dag "day (acc. sg.)". 語末の長母音は短音化した。しかし語末の/oː/はNWGで/u/、ゴート語で/a/になった。PG /beroː/ > early OE beru "運ぶ、一人称単数",Goth baíra; PG /geboː/ > OE giefu "贈り物 (単数主格)", Goth giba. 語中の母音、一音節語の母音は変化しなかった。 いわゆる"超長母音"は短音化し長母音になった。以下のような変化があったかどうかは議論がある。伝統的な説では語末で隣接した二個の母音が縮合して長母音になったときに曲アクセント (ギリシア語のような) が生じ、この曲アクセントの母音は他の母音が短音化してからも長音と保ったとされる。 やや新しい説では二個の母音の縮合によって3モーラの母音が生じ、さらに語末の長母音は特定の子音 (/z/・/d/)の前で長音を保ったとされる。 このような説を立てる理由は語末の長母音のうち短音化したものとしなかったものがあることによる。単数主格/-oːn/ 一人称単数/-oːn/ < /-oːm/は短音化したが複数属格/-oːn/ < /-oːm/は長いまま留まった。 上記の両説は複数属格で母音型の活用(PIE /o/,/aː/, PG /a/,/oː/)あるいは母音幹による三モーラの長母音・曲アクセント/-ôːn/を仮定している。 他に長音にとどまったとされるものに a語幹 ó語幹の複数主格/-ôz/ < early PIE /-o-es/,/-aː-es/、PrePG 単数奪格/-ôd/, /-êd/ (Gothic [ƕadrē] "whither", undarō "under")、 /ō/-語幹単数与格PG /gibâi/ > Goth gibái "gift" (しかし/a/語幹単数与格はPG /stainai/ > Goth staina "石")がある。
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