ケトルウェルの実験に対する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 01:06 UTC 版)
「工業暗化」の記事における「ケトルウェルの実験に対する批判」の解説
マサチューセッツ大学アマースト校の動物学教授であったセオドア・デビッド・サージェントは自身の研究(ただし、オオシモフリエダシャクではない蛾)に基づいてケトルウェルの研究成果に異議を唱えたが、オオシモフリエダシャクの研究者は異議に納得していない。 ケンブリッジ大学遺伝学科の遺伝学者マイケル・マジェラス(en:Michael E. N. Majerus)は1998年の著書Melanism: Evolution in Action.で、ケトルウェルの実験手法に対する批判について扱った。マジェラス自身は、この著書の第二節のはじめで、ケトルウェルの最初の捕食論文以来、蓄積された膨大なデータは、そこから導かれる基本的推論を損なうものではないと強調した上で、工業汚染による環境の影響が引き起こす差別的捕食の影響の違いは「オオシモフリエダシャクの工業暗化の主要な要素である」と述べた。生物学者ジェリー・コイン(en:Jerry Coyne)は、この本をネイチャー誌上でレビューした際、マジェラスの意見とは反対に、ケトウェルの古典的な研究手法に疑問を呈し、オオシモフリエダシャクの工業暗化について「明らかに進化の実例ではあるが、自然選択の好例としてはオオシモフリエダシャクは忘れなければならない。学校で教えるのにもっと適切な研究は他にたくさんある。」と述べ、オオシモフリエダシャクの行動に関して、より詳しい研究が必要だと結論した。ただし、コインはこのレビューにおいて「マジェラスは、もっとも深刻な問題はオオシモフリエダシャクがおそらく木の幹で休まないこと―40年以上の観察で木の幹の上にはオオシモフリエダシャクが二個体しか見つからなかったこと―だと記録した」と述べているが、この本ではマジェラスが自然状態で休息場所を確認したオオシモフリエダシャク47匹のうち、12匹が木の幹の上におり(6匹はむき出しで、6匹は隠れて)、20匹は枝の付け根に、15匹は枝に止まっていたと記されていたことから、マジェラス本人や昆虫学者ドナルド・フラックから誤読・誤解を示唆されている。 なお、実際にはコインは、オオシモフリエダシャクの工業暗化が自然選択による進化であることは疑っておらず、その自然選択の正体が鳥による捕食だと結論するには不足だと考えていただけであるが、コインのレビューはジャーナリストや創造論者に取り上げられた際に、オオシモフリエダシャクの工業暗化が自然選択による進化であることを丸ごと否定したかのように受け取られ、ケトルウェルが科学的な不正を行ったという根拠のない告発につながっていくことになる。
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