カイラル理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/12 09:01 UTC 版)
これまでの実験では、弱い相互作用をする左巻きフェルミ粒子しか観測されていない。ほとんどの環境で、二つの左巻きフェルミ粒子は右巻き同士または反対巻き同士のフェルミ粒子よりも強く相互作用をする。この効果は、宇宙は左巻きカイラリティを好んでおり、自然の他の力の対称性が破れていることを示唆する[要出典]。 ディラックフェルミ粒子(英語版) ψ のカイラリティは、固有値 ±1を持つ演算子γ5によって定義される。 それゆえ、どんなディラック場も、ψ に作用する射影演算子 (1–γ5)/2 or (1+γ5)/2 の演算によって、その左巻きまたは右巻き成分へ射影することができる。弱い相互作用のフェルミ粒子への結合の強さは、そのような射影演算子に比例する。この演算子は、その粒子のパリティ対称性の破れにも関わってくる。 よくある混乱の主な要因として、この演算子とヘリシティ演算子を混同してしまうことがある。質量を持つ粒子のヘリシティは基準座標系に依存するため、同じ粒子は一つの基準座標系に従って弱い力と相互作用し、別の基準系には従わないように見える。このパラドックスに対する回答は、カイラル演算子は質量0の粒子の場でのみヘリシティと同一であり、これに対するヘリシティは基準座標系に依存しない、ということである。質量を持つ粒子にとって、カイラリティはヘリシティと同一ではないので、弱い力の基準座標系依存性はない。同じく弱い力と相互作用をする粒子も全ての基準座標系へ依存しない。 左右のカイラリティが非対称な理論はカイラル理論と呼ばれ、パリティ対称な理論はベクトル理論と呼ばれることもある。カイラル理論はアノマリーキャンセレーション(英語版)の問題を持つため、標準模型のほとんどの理論は非カイラル理論である。量子色力学はベクトル理論の一例である。この理論では、全てのクォークは両方のカイラリティを持ち、同じように結合するからである。 20世紀半ばに開発された電弱理論はカイラル理論の一例である。元来、この理論はニュートリノは質量を持たず、左巻きニュートリノ(そして、それらに相補的な右巻き反ニュートリノ)が存在すると仮定していた。ニュートリノが他のフェルミ粒子と同様に質量を持つことを暗示するニュートリノ振動が観測された後、改訂された現在の電弱理論は右巻きおよび左巻きのニュートリノを含んでいる。しかしながら、それは依然パリティ対称性に従わないカイラル理論である。 ニュートリノの厳密な性質はいまだ解明されておらず、提案されている電弱理論の用いているモデルはそれぞれ異なっている。しかし、多くはニュートリノのカイラリティをすでに解明されている他のフェルミ粒子のカイラリティと同様にして扱うことで適合させている。
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