アーメンブレイクとは? わかりやすく解説

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アーメンブレイク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/30 16:23 UTC 版)

7インチレコードの「アーメン、ブラザー」

アーメンブレイク英語: Amen break)はポピュラー音楽に広くサンプリングされたドラムソロの名称である。これは1969年アメリカソウルミュージックグループザ・ウィンストンズ英語版が発表したコンパクト盤シングルカラー・ヒム・ファザー英語版」のB面アーメン、ブラザー』に由来し、およそ6から7秒(4小節)のドラムソロがグレゴリー・コールマン英語版によって演奏された。

1980年代のヒップホップの高まりとともに、アーメンブレイクはN.W.Aの「ストレート・アウタ・コンプトン」やロブ・ベース&DJ E-Zロック英語版の「キープ・イット・ゴーイング・ナウ英語版」などのヒット曲に使われた。1980年以降、この4小節のドラムソロは、ブレイクビーツヒップホップハードコアテクノラガマフィンジャングルドラムンベースなどのハードコア音楽に沢山使われている[1]。サンプリングされた曲を掲示するサイト「WhoSampled」によると2025年3月時点で少なくとも6,734回サンプリングされ、音楽史の中で一番サンプリングされた音源の一つとなっていて、「6秒のブレイクがいくつものサブカルチャーを創った」とも評されている。

ザ・ウィンストンズのバンドリーダーであるリチャード・ルイス・スペンサー英語版著作権侵害の時効が切れる1996年まで音源が利用されていたことに気が付かなかったため、サンプリング代としてのロイヤルティーを一切受け取っていなかった。彼は盗作として非難したが、後にお世辞だったと表明した。彼は2006年に貧困とホームレスで死んだ、あのドラムソロを演奏したコールマンは自分が音楽史に影響を与えていたことに気付くことはなかっただろう、と思いを馳せた。

レコーディング

1969年のザ・ウィンストンズ

ザ・ウィンストンズはアメリカ南部を中心に活躍したワシントンD.C.出身のソウルバンドで、リーダーはリチャード・ルイス・スペンサーであった[2]。1969年初頭、アトランタでシングル「カラー・ヒム・ファザー」を録音した[3]。B面にはジェスター・ヘアーストンが映画『野のユリ』のために書いたゴスペル曲「アーメン」のアップテンポなインストゥルメンタルカーティス・メイフィールドがスペンサーのために演奏したギターリフが収録された[3][4]。 スペンサーが言うに約20分以内で作曲が終わった[3]B面は「アーメン、ブラザー」と名付けられた[4]。「カラー・ヒム・ファザー」はリズム・アンド・ブルースの売り上げトップ10のヒットになりグラミー賞を受賞したが、「アーメン、ブラザー」は少しも注目されなかった[3]混血のグループであったせいか、出演契約を取り付けるのに苦労し、1970年に解散した[3]

ドラムソロ

約1分26秒間の「アーメン、ブラザー」の演奏後、ドラム以外の楽器は演奏をやめ、ドラマーであるグレゴリー・コールマンが4小節のドラムソロを約7秒間披露する。最初の2小節は直前のビートを続け、3小節目でスネアドラムを遅らせて打つ。4小節目では最初に間を開けてリズムをずらし、シンコペーションを起こして早めのクラッシュシンバルを叩く[4]

このドラムソロは曲を長くするために加えられ、ただのリフにしては短すぎた。スペンサーは自身がこのブレイクを指示したと言うが、2015年時点で生きているバンドメンバーの一人のフィル・トロッタはコールマンだけの功績であるとした[3]

サンプリング

1980年代のヒップホップの高まりとともに、DJはレコードのドラムソロを繰り返すためにターンテーブルを使い始め、それに合わせてMCラップをするようになった[4]。1986年に「アーメン、ブラザー」はDJ向けの古いファンクとソウルからドラムだけを抜き出したコンピレーションレコード「アルティメット・ブレイクス・アンド・ビーツ英語版」に収録された[4]。1986年にソルトNペパ英語版が発表したシングル「アイ・デザイア英語版」はアーメンブレイクがサンプリングされ始めた初期の作品の一つとして知られている。1988年にはアーメンブレイクをサンプリングすることが主流となって沢山の作品が発表され、N.W.Aの「ストレート・アウタ・コンプトン」やロブ・ベース&DJ E-Zロックの「キープ・イット・ゴーイング・ナウ」などが有名である[5]

アーメンブレイクはさまざな曲に使われ始め、音楽史で一番サンプリングされた曲の一つとなった[4]。1990年代初頭のイギリスダンス・ミュージックに広くサンプリングされ、特にドラムンベースとジャングルに多用された[1][4]ロックではオアシスなどが使用し、コマーシャルやフーチュラマなどのテレビ番組に使われたりとさまざまなジャンルの音楽に使われた[4][6]

アーメンブレイクは編集が容易なため、ジャングルによく使われ、さらに有名になった[4]。イギリス人ドラマーのトム・スキナーは録音の質の「軽く歪んだ音」が魅力であるとした[4]。アーメンブレイクはピッチやスピードを変えたり、自分で打ち直したりゴースト・ノート英語版やほかのエフェクトを隠したりして、それぞれのサンプルを作り出す[4]

ロイヤルティー

アーメンブレイクを含めた「アーメン、ブラザー」の著作権所有者は、バンドリーダーのリチャード・ルイス・スペンサーだった[4]。スペンサーもコールマンもサンプリング代としてのロイヤルティーを一切受け取っていなかった。スペンサーはワシントンメトロで働いていた1996年に一人の役員がマスターテープを訪ねてくるまで、音源が利用されていることに気が付かなかった[4][7]。ジャーナリストのサイモン・レイノルズ英語版はこの状況を「精子バンクに行き、知らないうちに何百人もの子どもをもうけた男」になぞらえた[4]。スペンサーはアメリカの法律では著作権は30年で切れるため、合法な行動を起こすことができなかった[2]

スペンサーはサンプリングを盗作とみなし「騙されてレイプされた気分だ」と非難した[3]2011年には「(コールマンの)心と魂はあのドラムソロに入っている。今やそれをコピーアンドペーストして大儲けしている奴がたくさんいる」 と述べた[4]。しかし2015年には「あれはコールマンに起こった最悪なことではなかった。私はアフリカ系黒人で実際私が作った何かを使いたい者がいる。これはお世辞だよ」と表明した[3]

コールマンは2006年に貧困とホームレスで亡くなった[3]。スペンサーはあのドラムソロを演奏したコールマンは自分が音楽史に影響を与えていたことに気付くことはなかっただろうと思いを馳せた[3]2015年にイギリス人DJのマーティン・ウェブスターとスティーブ・テオバルドがスペンサーのためにGoFundMeで寄付を募り、18,000ポンド(日本円で約350万円)以上集まった[3]。スペンサーは2020年に亡くなった[8]

脚注

  1. ^ a b Butler, Mark J. (2006), Unlocking the groove: Rhythm, meter, and musical design in electronic dance music, Indiana University Press, p. 78, ISBN 978-0-253-34662-9, https://archive.org/details/unlockinggroover00butl/page/78, "Even more common, especially in jungle/drum 'n' bass, is a break ... which fans and musicians commonly refer to as the 'Amen' break." 
  2. ^ a b “Amen Break musician finally gets paid” (英語). BBC News. (2015年11月11日). オリジナルの2023年9月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20230912233116/https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-34785551 2021年2月23日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g h i j k Otzen, Ellen (2015年3月29日). “Six seconds that shaped 1,500 songs”. BBC News. オリジナルの2018年4月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180411225138/http://www.bbc.co.uk/news/magazine-32087287 2015年3月29日閲覧。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o “Seven seconds of fire”. The Economist. (2011年12月17日). ISSN 0013-0613. オリジナルの2018年10月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181014165346/https://www.economist.com/christmas-specials/2011/12/17/seven-seconds-of-fire 2019年3月20日閲覧。 
  5. ^ Dave Turner (2018年11月20日). “The 20 best tracks that sample the Amen Break”. Mixmag. 2019年12月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月8日閲覧。
  6. ^ Norton, Quinn (December 2008). “Sample This, Lawman” (英語). Maximum PC (Future US): 12. ISSN 1522-4279. オリジナルのAugust 3, 2022時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220803030042/https://books.google.com/books?id=L9IDAAAAMBAJ&pg=PA12 2022年8月2日閲覧。. 
  7. ^ Wygant, Erin; Shapiro, Ari (2017年8月7日). “Funk Band Behind 'Amen Break' Drum Riff Receives Long Overdue Notoriety”. NPR. ProQuest 2458185379. https://www.proquest.com/docview/2458185379 2024年6月1日閲覧。 
  8. ^ Family remembers Grammy winning singer/songwriter Richard Spencer” (英語). WSOC-TV (2020年12月30日). 2021年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月23日閲覧。

関連文献

関連項目

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