ご当地Vtuber
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/19 09:08 UTC 版)
ご当地VTuber(ごとうちブイチューバー)は、日本国内の特定の地域に拠点を置き、その地域の文化、観光、特産品などの魅力を発信することを主な目的として活動するバーチャルYouTuber(VTuber)の一種である[1][2]。「地域振興系VTuber」とも呼ばれる[2]。地方創生や地域活性化への貢献が期待されており[1]、地方公共団体(自治体)や地元企業、メディアなどとの連携も活発に行われている[3][4]。
従来のご当地キャラクター(ゆるキャラ)と比較して、VTuberはYouTubeやX (旧Twitter)などのSNSを通じてリアルタイムでの双方向コミュニケーションが可能であり、特に若年層への訴求力が高いという特徴を持つ[1][3][5]。
歴史・起源
バーチャルYouTuber自体は、2016年末に活動を開始したキズナアイを契機として2017年頃から急速に広まり、2018年にはネット流行語大賞で「VTuber」が金賞を受賞するほどのブームとなった[6]。
この流れの中で、地域に特化した活動を行うVTuberも登場し始めた。2018年頃から各地で「地元を盛り上げるVTuber」が現れ[1]、「ご当地VTuber」というカテゴリーが形成され始めた。
「ご当地VTuber」の起源については、いくつかの初期事例が挙げられる。
- 七海波音(静岡県静岡市清水区)は、2017年10月2日にキャラクターとしての活動を開始し、「ご当地VTuber」という呼称を最初に使い始めたとされる[7][要出典]。ただし、VTuberとしてのYouTube活動開始は2018年11月である[8][要出典]。
- 茨ひより(茨城県)は、2018年8月3日に日本初の自治体公認VTuberとして発表された[9]。茨ひよりは県のインターネット動画サイト「いばキラTV」のアナウンサーとして活動を開始し、自治体によるVTuber活用の先駆けとなった[9]。
- 春日部つくし(埼玉県)は2018年2月26日に「バーチャル埼玉県民」としてデビューした個人勢VTuberである[要出典]。後に2021年に埼玉県から「埼玉バーチャル観光大使」に任命された[10]。
- 大蔦エル(愛知県)は中京テレビ所属のVTuberアナウンサーとして2018年9月30日に本格活動を開始した[要出典]。
- 舞鶴よかと(福岡県)は2018年7月にチャンネルを開設し、博多弁を話すご当地VTuberとして活動を開始した[要出典]。
2019年には、大蔦エル、舞鶴よかと、根間うい(沖縄県)、せんのいのり(福島県)の4名がご当地VTuberユニット「日本烈島(にっぽんれっとう)」を結成し、地域を超えた連携の動きも見られた[11]。
2020年代に入ると、自治体が公募で観光大使を選出したり(埼玉県の春日部つくし[10]、高知県四万十市の花琴いぐさ[12]など)、既存の個人・企業VTuberを公認したりする(静岡県沼津市の西浦めめ[13]、北海道釧路市の鬼霧シアン[14]など)事例が全国的に増加した。また、新聞社(下野新聞社[15]、静岡新聞社・静岡放送、山形新聞社など)や民間団体がVTuberを起用する動きも活発化している。
活動形態と特徴
ご当地VTuberの活動は、運営主体、活動範囲、公式性の有無などによって多様な形態をとる。
運営主体
ご当地VTuberの運営主体は、大きく以下の3つに分類される[16]。
- 個人運営(個人勢):個人の熱意や地元愛に基づき活動するVTuber。資金や技術的な制約がある場合が多いが、自由度の高い活動が可能。沢ところ(埼玉県所沢市)[1]などが該当する。
- 企業運営(企業勢):民間企業が運営するVTuber。テレビ局(中京テレビの大蔦エル[要出典])や地域企業(あしびかんぱにーの根間うい[17])、VTuberプロダクションなどが運営する。比較的安定した運営基盤を持つことが多い。
- 自治体・公的機関運営:地方公共団体や観光協会などが直接運営、または委託して運営するVTuber。茨ひより(茨城県)[9]や岩手さちこ(岩手県)[要出典]などが該当する。広報活動としての性格が強い。
活動内容
ご当地VTuberの活動内容は多岐にわたるが、主に以下のようなものが挙げられる。
- 地域情報のPR:観光地、グルメ、イベント、文化、歴史などの紹介[2]。方言を用いたり、地元の「あるあるネタ」を取り上げたりすることもある[1]。
- 特産品・地元企業の紹介:地域の特産品や地場産業、地元企業の商品・サービスの紹介、販売促進[18]。
- イベント出演・地域交流:地域の祭りやイベントへの出演(オンライン・オフライン)、施設での交流企画など[要出典]。
- 文化発信・教育:地域の伝統文化、方言、歴史などを紹介し、理解促進を図る[17]。
- ふるさと納税連携:自治体と連携し、ふるさと納税のPRや返礼品開発に関わる[4][19]。
- 一般的なVTuber活動:ゲーム実況、歌ってみた、雑談配信など、エンターテイメント性の高いコンテンツ配信も行うことが多い[1]。
特徴
ご当地VTuberは、一般的なVTuberや従来の地域キャラクターと比較して、以下のような特徴を持つ。
- 地域密着性:特定の地域に焦点を当てた活動を継続的に行う[1]。
- インタラクティブ性:ライブ配信などを通じて、視聴者とリアルタイムで双方向のコミュニケーションが可能[6]。
- デジタルプラットフォーム活用:YouTubeやSNSを主な活動基盤とし、情報拡散力を持つ[1]。
- 人格性:単なるマスコットではなく、個性やストーリー性を持った「人格」としてファンとの関係性を構築する[2]。
主な事例
日本全国で多数のご当地VTuberが活動しており、ほぼすべての都道府県に存在するとも言われる[2]。以下に代表的な事例を挙げる。(活動地域、デビュー年等は確認できる範囲で記載)
- 茨ひより(茨城県、2018年) - 日本初の自治体公式VTuber[9]。
- 大蔦エル(愛知県、2018年) - 中京テレビ所属のVTuberアナウンサー。名古屋観光文化交流特命大使[20]。
- 舞鶴よかと(福岡県、2018年) - 博多弁で福岡の魅力を発信する個人運営(後に企業化)VTuber[要出典]。
- 春日部つくし(埼玉県、2018年) - 個人勢から埼玉バーチャル観光大使に就任[10]。
- 根間うい(沖縄県、2019年) - 高い地域認知度を誇る沖縄発の企業運営VTuber[17]。YouTubeチャンネル登録者数は10万人を超える(2023年時点)[21]。
- 花琴いぐさ(高知県、2021年) - 個人勢から四万十市観光大使に就任[12]。
- 鬼霧シアン(北海道、2020年) - 釧路市観光大使を経て、VTuberとして初の北海道観光大使に就任[22]。
- V-NYAREN(ブイニャーレン、長崎県、2023年) - 長崎市を拠点とするVTuberグループ。長崎創成プロジェクト事業に認定[要出典]。
- 栃宮るりは(栃木県、2023年) - 下野新聞社公認VTuber[15]。
- 木乃華サクヤ(静岡県) - 静岡新聞社・静岡放送公認VTuber。
- 久礼奈為めくる(山形県) - 山形新聞社公式VTuber。
- 沢ところ(埼玉県、2021年) - 所沢市を拠点とする個人勢VTuber。「ご当地VTuber図鑑」ウェブサイトを運営[1]。
地域振興への活用と連携
ご当地VTuberは、地域振興や観光プロモーションの新たな担い手として、地方自治体や企業、メディアとの連携を深めている。
- 自治体との連携:
- 企業との連携:
- メディアとの連携:
これらの連携は、従来の広報手法ではリーチしにくかった若年層への情報発信[5]や、SNSでの情報拡散[4]を目的として行われることが多い。
評価と課題
ご当地VTuberは地域活性化の新たな手法として注目されているが、その評価は定まっておらず、課題も存在する。
評価
- 地域活性化への貢献:観光客誘致や特産品販売促進への貢献事例が報告されている。志摩スペイン村とVTuber周央サンゴのコラボレーション(ご当地VTuberではないが連携事例として)では、来場者数が大幅に増加し、関連グッズの売上が急増した[26]。
- 若年層への訴求力:SNSや動画配信に親しむ若年層に対して、地域の魅力を効果的に伝える手段として評価されている[4]。
- 関係人口の創出:地域外のファンを獲得し、観光や移住、ふるさと納税などを通じて地域との継続的な関わりを持つ「関係人口」の創出に繋がる可能性が指摘されている[24]。
- 地域コミュニティの活性化:地元住民にとって、自分たちの地域が新しい形で発信されることへの誇りや、共通の話題を提供することによる地域内コミュニケーションの活性化[4]。
課題
- 持続可能性と効果測定:活動を継続するための資金確保や運営体制の構築が課題となる。特に個人運営や小規模な運営体制の場合、活動休止に至るケースもある[1]。また、地域活性化への具体的な貢献度や費用対効果を測定し、示すことが難しい[24]。
- ターゲット層の限定:主なターゲットが若年層やインターネットユーザーに偏りがちであり、高齢者などデジタルに不慣れな層へのアプローチが課題となる[1]。
- コンテンツの質と独自性:多数のVTuberが存在する中で、独自性を保ち、質の高いコンテンツを提供し続ける必要がある。地域PRとエンターテイメント性のバランスも求められる[16]。
- 炎上リスク:戸定梨香の事例のように、表現内容が社会的な論争を招き、活動に影響が出るリスクがある[27]。
関連イベント
ご当地VTuberに関連するイベントも開催されている。
- ご当地VTuberサミット:2025年2月に静岡市清水区で第1回が開催され、全国のご当地VTuberが集結し交流や意見交換を行った[要出典]。翌2026年にも第2回が予定されている[要出典]。
- 地域PR動画コンテスト:静岡県内などで、ご当地VTuberが制作した地域PR動画の出来栄えを競うコンテストが開催されている[要出典]。
- 地域イベントへの出演:各地の祭りや産業祭、PRイベントなどに、ご当地VTuberがオンラインまたはオフライン(モニター出演など)で参加する例が増えている[28]。
関連用語・類似概念
- バーチャルYouTuber:ご当地VTuberが属する上位概念。
- ゆるキャラ(ご当地キャラクター):地域PRという目的は共通するが、主に着ぐるみでのリアルイベント活動が中心であり、表現形態やインタラクティブ性が異なる[1]。ご当地VTuberは「デジタル版ご当地キャラクター」とも位置づけられる[1]。
- ご当地アイドル:地域を拠点に活動するアイドルグループ。リアル、すなわち現実空間での活動が中心だが、地域振興への貢献という点で類似性がある。
- 企業VTuber:企業が自社のPRやブランディング目的で運営するVTuber。ご当地VTuberの中にも企業運営のものは多いが、地域貢献を主目的としない場合もある。
- 自治体VTuber:地方自治体が主体となって運営または公認するVTuber[要出典]。ご当地VTuberの一形態。
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n [1] 「ご当地」VTuberの可能性-ご当地VTuber「沢ところ」へのインタビューから見えてきたコト
- ^ a b c d e [2] 地方創生の要となるか?いま最も注目されているご当地VTuber5選|@DIME アットダイム
- ^ a b c d [3] 若者向け地域情報発信の新戦力 VTuberの力 | 2024年1月号 | 事業構想オンライン
- ^ a b c d e f g [4] “VTuber”が地域を盛り上げる!地方創生×VTuberのコラボ事例を紹介! | uyet media
- ^ a b [5] 【広報さん必見】企業・自治体でVTuberを運用してPRを行う方法 ...
- ^ a b [6] 地域おこしを担う「ご当地VTuber」増加のワケ 既存の「ゆるキャラ」カバーする多様な可能性(1/2 ページ) | マグミクス
- ^ 実は…静岡県が「ご当地Vチューバー」大国だった!? デビュー“全国初”も 県内外に地域の魅力発信|あなたの静岡新聞
- ^ 七海波音 YouTube
- ^ a b c d e [7] [茨城県]バーチャルユーチューバーを起用|政治・選挙プラットフォーム〖政治山〗
- ^ a b c [8] 埼玉バーチャル観光大使に春日部つくしさん 有識者ら選考、初代大使に「埼玉の魅力伝えたい」|埼玉新聞|埼玉の最新ニュース・スポーツ・地域の話題
- ^ [9] ご当地VTuberユニット「日本烈島」結成!大蔦エル(愛知) 舞鶴よかと(福岡) 根間うい(沖縄) せんのいのり(福島)10月1日(火)から「日本烈島FANBOX」スタート | 中京テレビ放送株式会社のプレスリリース
- ^ a b [10] 花琴いぐさ、地元の観光大使に 四万十川に暮らす妖怪Vtuber [高知県]:朝日新聞デジタル
- ^ [11] ぬまづの宝100選広報大使 - ぬまづの宝100選/沼津市
- ^ [12] 令和5年8月4日 市長定例記者会見|北海道釧路市ホームページ
- ^ a b [13] 下野新聞社公認Vチューバーきょう生配信デビュー 栃木県の魅力を全国に発信 歌、ゲーム、食リポも|県内主要,社会|もっと!PLAY とちぎ YouTube|PLAY とちぎ YouTube~インフルエンサー紹介~|下野新聞 SOON(スーン)
- ^ a b ご当地Vtuberに関する考察
- ^ a b c [14] おきなわ部【公式】
- ^ [15] 地方創生を主目的としたVTuberグループ「VRegion」発足のお知らせ | 株式会社パンクチュアルのプレスリリース
- ^ a b [16]【日本初!】 大阪府太子町とボイトレVTuberみかん先生との包括連携協定を締結|株式会社あるやうむのプレスリリース
- ^ a b c [17] 名古屋ご当地VTuber大蔦エル 「名古屋観光文化交流特命大使」任命! - MoguLive
- ^ [18] 根間うい / おきなわ部 - ClaN Entertainment
- ^ [19] Vチューバー、初の北海道観光大使に 釧路拠点の鬼霧シアンさん「世界に魅力発信」|47NEWS(よんななニュース)
- ^ [20] VTuber春日部つくし、「埼玉バーチャル観光大使」の任期延長を発表! - MoguLive
- ^ a b c [21] VTuberマーケティングを活用した「地方創生」の可能性と成功のカギ
- ^ [22] 舞鶴よかとの「ここが!福岡!よかろうもん!?」 - RKBオンライン
- ^ [23] 来場者23万人超…志摩スペイン村×周央サンゴさんコラボ「何度も交渉し実現」施設側が語る大成功のワケ | Business Insider Japan
- ^ [24] なぜVチューバーの啓発動画は「性的だ」と炎上したのか…ネットと現実社会で受け止め方が違うワケ
- ^ [25] VTuber「花琴いぐさ」観光大使に就任 産業祭に11/27出演予定 | PANORA
関連項目
外部リンク
- ご当地VTuber図鑑 - 沢ところ運営のポータルサイト
- ご当地VTuberのページへのリンク