HSPA
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/10 01:21 UTC 版)
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下りの高速化をHSDPA (High-Speed Downlink Packet Access)、上りの高速化はHSUPA (High-Speed Uplink Packet Access) または EUL と呼ぶ。また、3GPP (Third Generation Partnership Project) Release 7にて、HSPA Evolution としてさらなる高度化が行われた。
HSDPA
HSDPAは、3GPP Release 5にて規定されている。物理チャネル速度としてセル当たり下り方向最大14.4Mbpsのパケット通信が可能である[2]。
3GPP FDDのRelease '99規格に対して、物理レイヤでは以下のチャネルが追加された。
- 下り方向
- HS-PDSCH (High Speed Pysical Downlink Shared Channel)
- HS-SCCH (Shared Control Channel)
- 上り方向
- HS-DPCCH (Dedicated Physical Control Channel(uplink) for HS-DSCH)
また、MACレイヤでは以下の機能を有するMAC-hsが物理レイヤと隣接する形で新設された。
- 基地局側
- フロー制御 - 上位レイヤに対して、無線側の通信速度に応じた適切なデータ送出速度を指示する機能。ただし、3GPP上では本機能を実現するアルゴリズムは規定されず、実装依存となっている。
- スケジューリングおよび優先制御 - 上位ノードから通知された優先度情報を考慮しつつ、システム全体の総合的な通信効率を向上させることを目的として、端末にタイムスロットを配分する機能。ただし、3GPPにおいては本機能を実現するアルゴリズムは規定されず、実装依存となっている。
- パケット合成型HARQ - Hybrid Automatic Repeat Requestの略。受信側で復号失敗データが破棄されずに再送データと組み合わせて復号されることを考慮した上で、再送パターンを決定する。複数のHARQプロセスが独立に動作する。
- TFRIの選択 - TFRI (Transport Format Resource Index) はタイムスロットに割りあてたコード数、変調方式、データサイズを表しており、HS-SCCHを用いて端末に送信される。端末から送信された品質情報を用いて適切なTFRIを選択することで適応変調・符号化 (AMC: Adaptive Modulation and Coding)を実現する。ただし、3GPP上では本機能を実現するアルゴリズムは規定されず、実装依存となっている。
- 端末側
- パケット合成型HARQ - 受信失敗データを廃棄せずに再送データと組み合わせて復号を行う。複数のHARQプロセスが独立に動作する。復号成功時にはACK、復号失敗時にはNACKをHS-DPCCH上で伝送する。
- 順序制御 - 送信側のHARQがプロセスごとに独立に動作するため、初回送信時の時系列順に受信成功するとは限らない。本機能では、初回送信時の順序性を保持した上でデータを上位レイヤへ受け渡す。復号失敗の確認応答が基地局側で復号成功と誤判定してしまうなどの理由で、あるHARQプロセスについてデッドロックが発生することがある。本機能ではこのようなデッドロックを回避するために、受信されるべきデータの待ち時間(Timer T1)が設定されている。待ち時間が満了すると、端末で受信されたデータは強制的に上位レイヤに受け渡される。
以上のように、HSDPAでは基地局と端末にMAC-hsを追加することで機能を実現しているが、逆に言えば、その他のレイヤには大きな変更が加えられていない。この点から、既にR99通信網を整備している事業者にとっては設備の大幅な入れ替え無しにHSDPAが導入可能であると言える。
HSDPAの要素技術(基地局スケジューラ、HARQ, AMC等)は、auなどが既に商用展開しているEV-DOと本質的には同一である。しかし、EV-DOでは占有帯域が1.25MHz (Rel. 0、Rev. Aの場合。Rev. Bでは20MHzにまで拡大予定) であるのに対し、HSDPAでは5MHzと広帯域であるため、HSDPAシステムのみで帯域を占有してしまうことは好ましくない。よって、HSDPAではEV-DOと異なり、端末からは受信品質に対応したインデックスであるCQI(Channel Quality Indicator)をHS-DPCCH上で送信するのみに止まり、実際にタイムスロット単位で送信されるデータサイズは、送信時に使用可能な基地局送信リソースに基づいて基地局で決定する方式が採用された。これにより、音声ユーザやR99パケットユーザが存在することで基地局送信リソースが変動したとしても、問題なく通信を行うことが可能となっている。対してEV-DOでは、ある帯域をEV-DOのみで占有可能なため基地局送信リソースが変動せず、端末側において、所要の誤り率で受信可能なデータレートと受信品質が常に対応することになる。このため、端末から所望のデータレートを直接的に基地局に通知することでAMCを実現している。
端末カテゴリ
HSDPAでは受信能力のカテゴリ分けを行うことで、目的にあわせた端末の製造を可能としている。
HSDPAにおける初回送信データの符号化手順では、まず符号化前のデータビットを仮想的なIRバッファサイズに合わせて符号化した (First Rate Matching)。 後に、再度、物理チャネルのサイズに応じたビット系列の間引き(puncturing)を実施する (Second Rate Matching) 。このような2段階の符号化(正確にはRate Matching)を行うことで、再送データの符号化率を柔軟に設定することが可能となっている。その反面、受信能力的に上位カテゴリに属する端末だとしても初回の符号化率が異なるため、必ずしも下位互換性を有しないことになる。
HSDPAのタイムスロットは2msであるため、下表のタイムスロット当たりに受信可能なビット数の最大値を連続受信可能なタイムスロット間隔の最小値で除算し、更に、2000で除算すると通信速度の最大値(Mbps)が得られる。ただし、本通信速度は上記で述べたMAC-hsレイヤでの通信速度であり、実際にユーザ側で体感可能な通信速度とは異なることに注意すべきである。例えば、3GPPで規定されたCommon test environments for User Equipment (UE) conformance testingの6.10.2.4.5.1.2.1.1.1節に記載されたパラメータを参照すると、NTTドコモにおいて2006年にサービスが開始されたカテゴリ6の最高速度は3.65Mbpsとなる。
カテゴリ | 同時受信可能な コード数の最大値 |
連続受信可能な タイムスロット間隔の最小値 |
変調方式 | タイムスロット当たりに受信可能な ビット数の最大値 (bit) |
IRバッファサイズ(kbit) | 通信速度(Mbps) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 5 | 3 | QPSK/16QAM | 7298 | 19.2 | 1.22 |
2 | 5 | 3 | QPSK/16QAM | 7298 | 28.8 | 1.22 |
3 | 5 | 2 | QPSK/16QAM | 7298 | 28.8 | 1.82 |
4 | 5 | 2 | QPSK/16QAM | 7298 | 38.4 | 1.82 |
5 | 5 | 1 | QPSK/16QAM | 7298 | 57.6 | 3.65 |
6 | 5 | 1 | QPSK/16QAM | 7298 | 67.2 | 3.65 |
7 | 10 | 1 | QPSK/16QAM | 14411 | 115.2 | 7.21 |
8 | 10 | 1 | QPSK/16QAM | 14411 | 134.4 | 7.21 |
9 | 15 | 1 | QPSK/16QAM | 20251 | 172.8 | 10.13 |
10 | 15 | 1 | QPSK/16QAM | 27952 | 172.8 | 13.98 |
11 | 5 | 2 | QPSK | 3630 | 14.4 | 0.91 |
12 | 5 | 1 | QPSK | 3630 | 28.8 | 1.82 |
HSUPA
HSUPA (High Speed Uplink Packet Access) は、3GPP Release 6で2006年に規定された上り方向の高速化を行うパケット通信規格である。3GPPではHSDPAとの混乱を避けるため、EUL (Enhanced UpLink) と呼ばれており、新規に追加された物理チャネルやMACについてもE-DPDCHやMAC-eといったように"e"が修辞語として用いられている。端末あたり最高速度が0.7~5.7Mbpsに向上するが、最高速度に幅があるのはHSDPAと同様に送信能力に応じて端末がカテゴリ分けされているためである。HSDPAとは異なり、カテゴリ毎に使用可能なタイムスロット長が異なる。奇数カテゴリはタイムスロット長として10msのみ使用可能であり、偶数カテゴリでは10msの他に2msも使用可能である。最高速度5.7Mbpsは、カテゴリ6をタイムスロット長2msで運用した場合にのみ達成される。タイムスロット長10msの最高速度は2Mbpsであり、カテゴリ4~6でサポートされている。
また、HSDPAのような2段階の符号化を行っていないため、タイムスロット長を除けば上位カテゴリが下位カテゴリを包含することになる。
カテゴリ | 最大送信速度 |
---|---|
1 | 0.73 Mbit/s |
2 | 1.46 Mbit/s |
3 | 1.46 Mbit/s |
4 | 2.93 Mbit/s |
5 | 2.00 Mbit/s |
6 | 5.742 Mbit/s |
7 (3GPP Rel7) | 11.5 Mbit/s |
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- ^ 谷口功『これだけ!通信』2015年、秀和システム、95頁
- ^ 外部リンク High Speed Downlink Packet Access (HSDPA); Overall description; Stage 2
- ^ “ITU、LTEとWiMAXの「4G」名称使用を公式に認可--「発展した3G技術」も認可対象に”. CNET Japan. (2010年12月21日)
- ^ “「WiMAXはDC-HSDPAよりも速い」、UQコミュニケーションズがイーモバ対抗を鮮明に”. ITpro. (2010年9月30日)
- ^ “一部3Gサービス(1.5GHz帯/1.7GHz帯)提供終了について | スマートフォン・携帯電話” (日本語). ソフトバンク. 2020年10月4日閲覧。
- ^ 谷口功『これだけ!通信』2015年、秀和システム、96頁
- ^ FOMAハイスピードエリアの人口カバー率100%を達成 NTTドコモ
- ^ 2009年度のお客様満足度の向上やCSRなどの取組みについて NTTドコモ
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