場の空気 インターネット上での「場の空気」

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場の空気

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/05 13:29 UTC 版)

インターネット上での「場の空気」

日本のインターネット上で一部のコミュニケーションにおいては、発言内容をベースにやりとりするというよりも、むしろ互いに発言同士を連鎖させていくことが重視されており、これを社会学者北田暁大つながりの社会性と呼んでいる[19](ネガティヴに作用するとブログ炎上などを引き起こすことになる[20][21][22])。

批評家・社会学者の濱野智史は、日本において一部のネットサービス(2ちゃんねるニコニコ動画mixiなど)の多くはこのような場の空気を読む文化に基づいているとしており[23]、他の先進国とは違って、内容ベースの熟議を行う電子公共圏の構築(討議プロセスを含む電子民主主義の実現)が困難になるなどの弊害が指摘されている[21][24]。他方で、インターネット上でも場の空気を読むことが求められているのは日本の現実世界での暗黙のルールをオンライン上にも無意識に持ち込んでしまっているからに過ぎず、現代社会の「人間関係の流動化」が今後も加速していけば(すなわち空気が読めないほどに流動性が上昇すれば)、インターネット上での場の空気にひきずられたサイバーカスケード的な現象はおさまっていくのではないかという見方もある[25]

批判

物事の判断が「場の空気」に支配される事象は、古今東西を問わずしばしば見られ、先にも述べたように様々な弊害を引き起こし得る。

山本七平は、例として旧日本軍対米開戦戦艦大和沖縄出撃、日中国交回復イタイイタイ病事件、自動車公害に関する世論等を挙げ、細かいデータおよび明確な根拠があるにもかかわらず、科学的根拠の全く無い判断が「空気」によって最終的に決定されたと指摘している。この事象をもって、山本は「それ(空気)は非常に強固で、ほぼ絶対的な支配力をもつ『判断の基準』であり、それに抵抗する者を異端として、『抗空気罪』で社会的に葬るほどの力をもつ超能力である」と述べた[26]

白田秀彰は、学校社会において空気の支配が蔓延していると指摘した。子供たちは場の空気に怯え、設定されるキャラクターに戦々恐々としている。学生が新しい「場」に入ったときに、この「場」が強制してくるキャラクターを受け入れ、それを演じうることが「場の空気が読める」ということであり、場が設定したキャラクターを演じつづけられる限りは、彼はそれなりに人気を得たり、居場所を得ることができる[27]。しかし、彼がこうしたキャラクターを演じるのを放棄した場合は、いじめの標的になるか、逃避行動としての不登校を選ぶことが多い。最近では、日本の高校で電子メールをめぐる空気の支配が蔓延しており、絵文字がない、極端な短文、返信が少しでも遅いなどといったことがあると「キレてる」「空気が読めない」と思われるのだという。そのため、「そのような風潮になじめない人にとっては大学で初めて個人的自由が得られる」と指摘された(スクールカーストも参照)。

劇作家鴻上尚史は、著書「“世間”と“空気”」(講談社現代新書)において、「日本人が、世間を喪失したのが大体バブル期だ。世間を喪失した現代人は、相手や周囲の顔色を見ながら言動の適否を判断せざるを得ない。空気しか知らない世代が、社会人になるのが心配だ」と述べている。具体例として、子役オーディションで、1980年代前半までは、「君のクラスはどんなクラス?」と聞くことができたという。子供にとっての世間とは、クラスのことであった。しかし、1980年代後半以降、「君のグループはどんなグループ?」と聞かざるを得なくなり、21世紀に入ってから、その傾向が強まっているとする。KYという語が、既に流行語ではなく、世相を反映した語だというのである。

色川大吉は、「ある昭和史―自分史の試み」で場の空気を「天皇を頂点に一君万民、自分達を超越し利害を調停してくれる絶対者を常に求め、仲間内さえ良かれという社会体制に起因するものであり、日本特有のもの」とした。

集団思考の問題については欧米でも複数の報告や研究事例があるが、日本では「個人主義が未発達の日本」という文脈の上で「場の空気」の論題を日本人論のひとつとして論じられる文書がある。

脚注


注釈

  1. ^ (福田健 2006)での「場の空気」の定義におおむね沿ったもの
  2. ^ 対象に含まれる精神(アリア)、あるいは卑近にその場面を支配する雰囲気を表現する主旨でのairの用法は英語にもあり、例えば1800年代の書籍には "Blackstone, a celebrated commentator on the laws of England, he it was, who first gave to the law the air of science." あるいは "(the) vulgar air and attitude・・"といった用例が見られる(RECOLLECTIONS OF CURRAN AND SOME OF HIS COTEMPORARIES. (CHARLES PHILLIPS, 1818))。
  3. ^ (内藤誼人 2004, p. 26-27, p.31-32)によると、カナダでの調査およびアメリカでの調査でも「場の空気」を読めない人に対する、集団からの評価は次第に低くなる、との結果が出ている。

出典

  1. ^ 林四郎ほか「例解新国語辞典第六版」2002年1月 「空気(くうき)」の項の2
  2. ^ 「田舎の高等学校を卒業して東京の大学に這入つた三四郎が新しい空気に触れる、さうして同輩だの先輩だの若い女だのに接触して色々に動いて来る、手間は此空気のうちに是等の人間を放す丈である、あとは人間が勝手に泳いで、自ら波乱が出来るだらうと思ふ、さうかうしてゐるうちに読者も作者も此空気にかぶれて此等の人間を知る様になる事と信ずる、もしかぶれ甲斐のしない空気で、知り栄のしない人間であつたら御互に不運と諦めるより仕方がない、たゞ尋常である、摩訶不思議は書けない。」岩波版漱石全集1993.12
  3. ^ 山本七平 1977, p. 12-20, p.47-54.
  4. ^ 山本七平 1977.
  5. ^ 内藤誼人 2004, p. 36.
  6. ^ KYは否定形(読めない)だけではなく、「空気(を)読め」など、空気を読むことをお願いする言い方の略ともされる場合がある。
  7. ^ ユーキャン新語・流行語大賞公式サイト 2007年度候補語解説
  8. ^ 内藤誼人 2004, p. 40.
  9. ^ 内藤誼人 2004, p. 41.
  10. ^ 阿部孝太郎「日本的集団浅慮の研究・要約版」『商學討究』第57巻第2/3号、小樽商科大学、2006年12月、73-84頁、ISSN 04748638NAID 110004856535 
  11. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 23.
  12. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 30-32.
  13. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 61-66.
  14. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 120-150.
  15. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 157-162.
  16. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 180.
  17. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 180-183.
  18. ^ 冷泉彰彦「関係の空気」「場の空気」, p. 180-210.
  19. ^ 北田暁大 『嗤う日本の「ナショナリズム」』 日本放送出版協会、2005年、203頁など。ISBN 978-4140910245
  20. ^ 北田暁大「ディスクルス(倫理)の構造転換」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』 河出書房新社、2010年、159頁。ISBN 978-4309244426
  21. ^ a b 濱野智史「まえがき」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』4頁など。
  22. ^ 荻上チキ 『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』 PHP研究所、2008年、236頁。ISBN 978-4569701141
  23. ^ 「ポストised、変化したことは何か1」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』461頁。
  24. ^ 濱野智史 『アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』 エヌ・ティ・ティ出版、2008年、135-136頁。ISBN 978-4757102453
  25. ^ 「流動化する社会の中で」『ised 情報社会の倫理と設計 倫理篇』447頁。
  26. ^ 山本七平.「空気」の研究, p. 16, 22.
  27. ^ 白田秀彰の「インターネットの法と慣習」 意思主義とネット人格・キャラ選択時代:Hotwired [1]





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