トランジスタ トランジスタの概要

トランジスタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/08/31 05:43 UTC 版)

1947年12月23日に発明された最初のトランジスタ(複製品)
様々なパッケージのトランジスタ

通称として「」がある(真空管を「球」と通称したことに呼応する)。たとえばトランジスタラジオなどでは、使用しているトランジスタの数を数えて、6石ラジオ(6つのトランジスタを使ったラジオ)のように言う場合がある。

デジタル回路ではトランジスタが電子的なスイッチとして使われ、半導体メモリマイクロプロセッサ・その他の論理回路で利用されている。ただ、集積回路の普及に伴い、単体のトランジスタがデジタル回路における論理素子として利用されることはほとんどなくなった。一方、アナログ回路中では、トランジスタは基本的に増幅器として使われている。

トランジスタは、ゲルマニウムまたはシリコンの結晶を利用して作られることが一般的である。そのほか、ヒ化ガリウム (GaAs) などの化合物を材料としたものは化合物半導体トランジスタと呼ばれ、特に超高周波用デバイスとして広く利用されている(衛星放送チューナーなど)。

歴史

一般には実用化につながった1947-1948年の、ベル研究所による発見および発明がトランジスタの始祖とされる。しかし、それ以前に増幅作用を持つ固体素子についての考察は何件かある。1925年、ユダヤ人物理学者ユリウス・E・リリアンフェルト英語版が一種のトランジスタの特許カナダで出願した。これの構造は現在電界効果トランジスタ (FET) と呼ばれているものに近い[2]。リリアンフェルトはこのデバイスについて研究論文などを公表した様子がない[要出典]。また、1934年にはドイツの発明家オスカー・ハイル英語版が同様のデバイスについて特許を取得している[3]。Radio Craft誌1947年4月号には放射能を使う鉱石増幅素子の概念が発表されてた。日本でも1940年代にNHK技術研究所に勤務していた内田秀男が増幅作用のある「三極鉱石」の研究を進めていた記録が残されている[4][5][6][7][8][9]

1947年ベル研究所の理論物理学者ジョン・バーディーンと実験物理学者ウォルター・ブラッテンは、半導体の表面における電子的性質の研究の過程で、高純度のゲルマニウム単結晶に、きわめて近づけて立てた2本の針の片方に電流を流すと、もう片方に大きな電流が流れるという現象を発見した。最初のトランジスタである点接触型トランジスタの発見である。固体物理学部門のリーダーだったウィリアム・ショックレーは、この現象を増幅に利用できる可能性に気づき、その後数か月間に大いに研究した。この研究は、固体による増幅素子の発明として、1948年6月30日に3人の連名で発表された。この3人は、この功績により、1956年ノーベル物理学賞を受賞している。transistor という用語はジョン・R・ピアース英語版が考案した[10]。物理学者で歴史家のロバート・アーンズ英語版によれば、ベル研究所の特許に関する公式文書には、ショックレーらが、前述のリリアンフェルトの特許に基づいて動作するデバイスを作ったことが書かれているが、それについて後の論文や文書は全く言及していないという[11]

点接触型トランジスタは、その構造上、機械的に安定した動作が難しい。機械的に安定した、接合型トランジスタは、「3人」のうち最初の発見の場に立ち会うことができなかったショックレーが発明した。シリコンを使った最初のトランジスタは、1954年にテキサス・インスツルメンツが開発した[12]。これを成し遂げたのは、高純度の結晶成長の専門家ゴードン・ティール英語版で、彼は以前ベル研究所に勤務していた[13]

日本でも、官民で研究や試作が行われた。最初の量産は、1954年頃に東京通信工業(現ソニー)が開始し、翌1955年に同社から日本初のトランジスタラジオ「TR-55」が商品化された[14][15]。その後相次いで大手電機メーカも量産を開始し、1958年あたりには主要な電機メーカーからトランジスタラジオが商品化される。このとき東京通信工業の主任研究員であった江崎玲於奈はトランジスタの不良品解析の過程で、固体におけるトンネル効果を実証する現象を発見・それを応用したエサキダイオードを発明し、1973年ノーベル物理学賞を受賞している(この段落の内容に関する詳細はトランジスタラジオ#歴史を参照)。

世界初のMOSトランジスタは、1960年にベル研究所のカーング[英 2]とアタラ[英 3]が製造に成功した[16]

1960年代に入ると、生産歩留まりが上がってコストが下がったことや、真空管でしか扱えなかったテレビやFM放送 (VHF) のような高い周波数でも使えるようになったため、各社から小型トランジスタラジオやトランジスタテレビが発表される。さらに高い電力やUHFでの使用が可能になる1970年までには、家庭用テレビやラジオから増幅素子としての真空管が姿を消す。

特性の向上ばかりでなく、集積回路が発明され、集積度を高めて、LSI(大規模集積回路)へと発展した。

動作の原理

NPN型トランジスタの模式図

ここではNPN接合(端子は順にエミッタ、ベース、コレクタ)のバイポーラトランジスタ(後述)を例にとり説明する。

  1. 前提として、エミッタとコレクタはN型半導体であるため電子が過剰にあり、ベースはP型半導体であるため電子が不足(正孔を持つ)している。すなわち単体ではそれぞれをキャリアとして電流が流れる。また、ベースは幅を数μm程度に非常に薄くしてある(実際には、エミッタとベースとの接合面積も小さく、また、エミッタの不純物濃度はベースやコレクタと比べ高くしてある)。
  2. まずエミッタ - コレクタ間に、エミッタ側を (-) として電圧をかける。このとき電流は流れない。
    1. エミッタの電子がコレクタ側 (+) に引き寄せられてベースに流れ込み、そこにある正孔と結合する。ベースの正孔は数に限りがあり、全てが電子と結合してしまうとベース内にキャリアが存在しなくなる。その結果電子の移動が停止する(エミッタ - ベース間には空乏層が形成されている)。
    2. また、コレクタ内の電子も (+) 極に引き寄せられて移動するが、コレクタへは新たな電子の流入がないため、コレクタの電子が全て (+) 極の正孔と結合した時点で電子の移動が停止する。
  3. ここで更にエミッタ - ベース間に、エミッタ側を (-)(pn接合に対する順方向)として電圧をかける。このときトランジスタ全体に電流が流れる。
    1. ベースには新たに正孔が流入するため、エミッタに存在する電子がベースに向かい移動する。
    2. 移動した電子のうち一部はベース内の正孔と結合するが、ベースは非常に薄い層であるため、大部分の電子はコレクタに引き寄せられてベースを通過してしまう。
    3. 結果、電流がトランジスタ全体に流れ、エミッタ - コレクタ間の電流はエミッタ - ベース間の電流に従って変化することになる(増幅)。各部はそれぞれ「ベース電流を土台とし」「エミッタが放出した電子を」「コレクタが受け取る」という名前通りの働きをする。

1960年代までの初期に多用されたPNP型のトランジスタの場合では、電源の極性(電流の向き)を逆(エミッタを (+)、コレクタ・ベースを (-))にして、電子と正孔を入れ替えれば、同様の働きを行う。

増幅作用

  • エミッタ - ベース間にわずかな電流を流すことで、エミッタ - コレクタ間にその何倍もの電流を流すことができる。
  • エミッタ - ベース間のわずかな電流変化が、エミッタ - コレクタ間電流に大きな変化となって現れる。
  • エミッタ - ベース間の電流を入力信号とし、エミッタ - コレクタ間の電流を出力信号とすることで、増幅作用が得られる。
  • コレクタ電流 (IC) がベース電流 (IB) の何倍になるかを示す値を直流電流増幅率と呼び hFE で表す。この値は数十から数百にまで及ぶ。 である。

スイッチング作用

  • 増幅時同様、エミッタ - ベース間の電流(ベース電流)によってエミッタ - コレクタ間のより大きな電流(コレクタ電流)を制御できる仕組みを利用する。
  • ベースに与える小さな信号によってより大きな電流を制御できるため、メカニカルなリレースイッチの代わりに利用されることもある。
  • 電流の大小ではなくON / OFFだけが制御の対象であるため、一定の線形性が求められる一般的な増幅作用の場合とは異なり、コレクタ電流とベース電流との比が直流電流増幅率よりも小さくなる飽和領域も使われる。
  • この作用により、論理回路などのデジタル回路を作ることができる。



  1. ^ : transfer of a signal through a varister または transit resistor
  2. ^ : Kahng
  3. ^ : Atalla
  4. ^ : bipolar transistor
  5. ^ : field effect transistor
  6. ^ : unipolar transistor
  7. ^ : insulated gate bipolar transistor
  8. ^ : grounded-trench-MOS assisted bipolar-mode field effect transistor
  9. ^ : uni-junction transistor
  10. ^ : programmable uni-junction transistor
  11. ^ : static induction transistor
  12. ^ : power bipolar transistor
  13. ^ : power transistor
[ヘルプ]
  1. ^ [1]
  2. ^ Lilienfeld, Julius Edgar, "Method and apparatus for controlling electric current" アメリカ合衆国特許第1,745,175号 1930-01-28 (filed in Canada 1925-10-22, in US 1926-10-08).
  3. ^ GB application 439457, Heil, Oskar, "Improvements in or relating to electrical amplifiers and other control arrangements and devices", published 1935-12-06, issued 1934-03-02  European Patent Office, filed in Great Britain 1934-03-02, (originally filed in Germany 1934-03-02).
  4. ^ アキバに見た ヴィンテージ・ラジオの宝庫
  5. ^ トランジスタは日本人が発明していた!!」、『三洋電機社内報』1996年、 13頁。
  6. ^ 内田秀男無線と実験通巻275号』第35巻第3号、誠文堂新光社1948年3月、 7-9頁。
  7. ^ 『電波技術』1957年1月号。
  8. ^ 「復刻・内田秀男と『無線と実験』 トランジスター開発を目指して」、『おとなの工作読本』11号、誠文堂新光社、 97頁。
  9. ^ 杉本哲 『初歩のトランジスターラジオの研究』 山海堂、1958年版 pp. 4-6、1967年版 pp. 6-7。
  10. ^ David Bodanis (2005). Electric Universe. Crown Publishers, New York. ISBN 0-7394-5670-9. 
  11. ^ Arns, Robert G. (October 1998). “The other transistor: early history of the metal-oxide-semiconducor field-effect transistor”. Engineering Science and Education Journal 7 (5): 233–240. doi:10.1049/esej:19980509. ISSN 0963-7346. http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=730824. 
  12. ^ J. Chelikowski, "Introduction: Silicon in all its Forms", Silicon: evolution and future of a technology (Editors: P. Siffert, E. F. Krimmel), p.1, Springer, 2004 ISBN 3540405461.
  13. ^ Grant McFarland, Microprocessor design: a practical guide from design planning to manufacturing, p.10, McGraw-Hill Professional, 2006 ISBN 0071459510.
  14. ^ TR-55ソニー公式サイト
  15. ^ 50年前のソニーが生んだもの日経エレクトロニクス雑誌ブログ、2005年8月5日
  16. ^ W. Heywang, K. H. Zaininger, "Silicon: The Semiconductor Material", Silicon: evolution and future of a technology (Editors: P. Siffert, E. F. Krimmel), p.36, Springer, 2004 ISBN 3540405461.


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