トランジション・ファイナンス
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トランジション・ファイナンス(Transition finance)とは、脱炭素社会の実現に向けて長期的な戦略に則り、着実な温室効果ガス (GHG) 削減の取り組みを行う企業に対し、その取り組みを支援することを目的とした金融手法である[1]。
概要
パリ協定の目標達成のためには、再生可能エネルギーなどのグリーンな事業だけでなく、省エネ・燃料転換等を含む着実な脱炭素化に向けた移行(トランジション)への取り組みに対する資金供給が重要となる。トランジション・ファイナンスは、トランジションに取り組む企業を金融面から支援するものであり、国際的な議論が進められている[2]。
トランジション・ファイナンスの特徴は以下の4つの要素である。
- 資金調達者のクライメート・トランジション戦略とガバナンス
- ビジネスモデルにおける環境面のマテリアリティ
- 科学的根拠のあるクライメート・トランジション戦略(目標と経路を含む)
- 実施の透明性
国際的な動向
国際資本市場協会(ICMA)は2020年12月、「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」を公表し、トランジション・ファイナンスの国際的な指針を示した[3]。
日本の動向
日本では、金融庁・経済産業省・環境省が2021年5月、「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定した。本指針はICMAのハンドブックとの整合性が図られている。
経済産業省は、トランジション・ファイナンスを普及させるため、基本指針に整合し、モデル性を有するファイナンス事例について、情報発信や第三者評価費用の負担軽減を行うモデル事業を実施している。また、鉄鋼、化学、電力、紙パルプ、セメントなど各分野のトランジション・ファイナンスのためのロードマップも策定されている。
脚注
- ^ “トランジション・ファイナンス”. 経済産業省. 2024年5月10日閲覧。
- ^ “みずほリサーチ&テクノロジーズ : トランジションファイナンス”. www.mizuho-rt.co.jp. 2024年5月10日閲覧。
- ^ “わが国におけるクライメート・トランジション・ファイナンスとその枠組み”. 西村あさひ法律事務所. 2024年5月10日閲覧。
サステナブルファイナンス
(トランジション・ファイナンス から転送)
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サステナブルファイナンス(英語: Sustainable finance)は、新たな産業・社会構造への転換を促し、持続可能な社会を実現するための金融手法である[1]。
概要
2006年に責任投資原則(PRI)が策定された。2007年に欧州投資銀行(EIB)が「Climate Awareness Bond」を発行、2008年に初の「グリーンボンド」を世界銀行が発行した[2]。
2015年に持続可能な開発目標(SDGs)とパリ協定が採択された。国際資本市場協会(ICMA、en:International Capital Market Association)によりグリーンボンド原則、ソーシャルボンド原則、グリーンローン原則、サステナビリティ・リンク・ローン原則、サステナビリティ・リンク・ボンド原則などの策定が進んだ。
また、関連する規定としては、赤道原則(en:Equator Principles)やEUタクソノミー(en:EU taxonomy for sustainable activities)などがある。
種類
- グリーンファイナンス
- サステナビリティ・リンク・ローン[5]
- サステナビリティ・リンク・ボンド
- トランジションファイナンス[6]
- トランジション・ボンド
- トランジション・ローン
- トランジション・リンク・ローン
- SDGs債
- ソーシャルボンド
- サステナビリティボンド
気候シナリオ分析とNGFS
TCFD提言の中核的な要素の一つに「シナリオ分析」の実施がある。これは、企業が複数の気候変動シナリオ(例えば、2℃未満上昇シナリオや4℃上昇シナリオなど)を用いて、自社の事業戦略や財務計画のレジリエンス(頑健性)を評価することを求めるものである[7]。
このシナリオ分析を実施する際に、国際的な共通参照枠組みとして広く活用されているのが、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)が提供する「NGFSシナリオ」である[8]。NGFSシナリオは、脱炭素社会への移行に伴う移行リスク(例:炭素税導入によるコスト増)と、気候変動の物理的影響による物理的リスク(例:自然災害による資産の毀損)を整合的に評価できるように設計されており、金融機関はこれを用いて投融資ポートフォリオのリスク評価や、ネットゼロ目標と整合した経営戦略の策定を行っている[9]。
日本
日本国内では、初のグリーンボンドが2014年(平成26年)に日本政策投資銀行により発行された[10]。
日本政府も力を入れており、2017年(平成29年)の環境省「グリーンボンドガイドライン」、2020年(令和2年)の環境省「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2020年版」、2021年(令和3年)の金融庁・経済産業省・環境省「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」、金融庁「ソーシャルボンドガイドライン」、2022年(令和4年)の環境省「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」、「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」などの策定を進めるとともに、また金融庁より2020年(令和2年)以降「サステナブルファイナンス有識者会議」が設置されている[11]。
脚注・出典
- ^ サステナブルファイナンスの取組み:金融庁
- ^ グリーンボンド等の発展の沿革 | グリーンボンド概要 | ボンド | グリーンファイナンスポータル
- ^ グリーンボンドとは | グリーンボンド概要 | ボンド | グリーンファイナンスポータル
- ^ グリーンローンとは | グリーンローン概要 | ローン(融資) | グリーンファイナンスポータル
- ^ サステナビリティ・リンク・ローンとは | サステナビリティ・リンク・ローン概要 | ローン(融資) | グリーンファイナンスポータル
- ^ トランジションファイナンスについて 経済産業省 2022年6月
- ^ “Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures”. Task Force on Climate-related Financial Disclosures (2021年10月). 2025年8月2日閲覧。
- ^ 一般財団法人電力中央研究所 (22 March 2024). 令和5年度 委託調査報告書 NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)シナリオの活用方法に関する調査 (pdf) (Report). 金融庁. p. 87. 2025年8月2日閲覧.
- ^ 一般財団法人電力中央研究所 (22 March 2024). 令和5年度 委託調査報告書 NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)シナリオの活用方法に関する調査 (pdf) (Report). 金融庁. p. 103. 2025年8月2日閲覧.
- ^ 日本政策投資銀行:発行概要 | グリーンボンド発行促進プラットフォーム
- ^ サステナブルファイナンス有識者会議:金融庁
関連項目
外部リンク
- トランジション・ファイナンスのページへのリンク