ヘストン・ブルメンタルのレシピ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/10 05:46 UTC 版)
「ベーコン・アイスクリーム」の記事における「ヘストン・ブルメンタルのレシピ」の解説
ヘストン・ブルメンタルのレシピではアイスへの風味付けは行わず、卵の味を活かす。ブルメンタルの書いた料理本では、彼のレシピは5つの要素に分解されている。アイスクリーム、キャラメル・フレンチトースト、トマトのコンポート、メープルシロップで固めたパンチェッタの薄切り、紅茶のゼリーである。レシピ通りならこのアイスを作るのには時間が掛かる。ベーコンは脂肪を付けたまま軽くローストし、牛乳を注いで10時間待つ。卵と砂糖を加え、温度を管理して加熱する。卵に長時間火を入れることで風味は増す。そうしてから漉し器にかけて、フードプロセッサーで撹拌し、冷やし固める。後にブルメンタルはレシピを改良し、ベーコンを焼く前に真空パックでベーコンを牛乳に浸す時間をさらに10時間とっている。彼は盛りつけにも変化を加えていて、固まっていないアイスクリームを中身だけ取り除いた卵の殻に注入するやり方を採っている。それを客席で液体窒素に当てて激しくかき混ぜ、料理の印象を強めるのである。 バークシャー、ブレイのレストラン「ファット・ダック」のオーナーであるヘストン・ブルメンタルは分子料理学に従って変わった料理を作ることで有名なシェフでもある。彼のレストランはミシュランで三つ星を獲得し、その他にも多数の賞を受賞している。ブルメンタルは2001年頃から分子料理学によって味の良いアイスクリームを作る試みを行っていて、その成果の一つに粒マスタードとカニのアイスクリームがある。 「風味のカプセル化」という概念を解説した記事の中でブルメンタルは、風味というものが溶液に分散させるよりカプセル化して「爆発」させたほうが鮮烈であることの説明として、卵を加熱すればするほどタンパク質は固まるという話をしている。これによりアイスクリームに卵の風味のポケットが生まれ、口の中でアイスが溶けると同時に風味が放たれるのである。 "[ブルメンタルの]ベーコン・アンド・エッグ・アイスクリームは彼の「風味のカプセル化」の思想の賜物だ。この原理とはつまり、歯でコーヒー豆をかみ砕きながら熱いお湯を飲めば、粉にしたコーヒーを湯に溶かすよりも味がよく分かるというものだ。かつて彼はこの手法でアイスクリーム用のエッグカスタードに火を長く入れ、ほとんどスクランブルエッグにしてしまったそうだ。それをクリーム状にし、アイスクリームをつくると、強烈な卵の風味が…。でも彼は満足はしなかった。彼はスモークしたベーコンの甘みとエッグ・アイスクリームの味を調和させることを目指したんだ。そしてほら、それを完成させたというわけだ" — ジェイ・レイナー「オブザーバー」 ブルメンタルの説明によれば、伝統的なアイスクリームとは風味を加えた冷凍エッグカスタードである。しかし彼の手法を使ったアイスクリームはそうではない。彼は砂糖が卵黄のタンパク質と相互作用を起こすまでかき混ぜ、タンパク質のネットワークを作る。全体が白くなったら、そこで風味付けの材料を投入し、加熱する。アイスクリームの素をかき混ぜながら、液体窒素でできるだけ素早く冷やす。これが彼のアイスクリームである。 ブルメンタルのベーコン・アンド・エッグ・アイスクリームはいまや彼の代表作の一つになっている。この料理以外にも彼が作りだしたユニークな味は多く、「The Wizard of Odd」とも称されるブルメンタルのレストランは食通たちがその味に惹かれて訪れるのである。2006年に新年叙勲者リストが発表された際、ブルメンタルは食に対する貢献が認められ、大英帝国勲章第4位を受勲した。しかし彼は向上心を失わなかった。彼にはいつかベーコンと卵の次はオレンジジュースと紅茶といった具合に時間差で風味が変化するアイスクリームを作るという野望があり、味を変化させる技術をつかんだら、ムール貝とチョコレートで試したいと語っているのである。
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