香椎宮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/09 03:41 UTC 版)
概要
福岡市北部、立花山南西麓に鎮座する。古代には神社ではなく霊廟に位置づけられ、仲哀天皇・神功皇后の神霊を祀り「香椎廟(かしいびょう)」や「樫日廟」などと称された。「廟」の名を持つ施設として最古の例であったが[1]、平安時代中頃からは神社化し、類例のない特殊な変遷を辿った。上記のように天皇・皇后の神霊を祀るという性格から、戦前の近代社格制度においては最高位の官幣大社に位置づけられ、現在も勅祭社として10年に一度天皇からの勅使の参向を受ける神社である。
境内の社殿のうち、特に本殿は江戸時代後期の再建時のもので、「香椎造(かしいづくり)」と称される独特の構造であり国の重要文化財に指定されている。祭事としては、10年に一度勅祭が斎行されるほか、現在も仲哀天皇・神功皇后の命日に神事が行われている。
社名
史料上で見える呼称は次の通り[2][3]。いずれも読みは「かしい」(歴史的仮名遣では「かしひ」)。
- 香椎廟 - 『万葉集』[原 1]、六国史(複数)
- 香椎宮 - 六国史(複数)
- 香椎廟宮 - 『日本三代実録』[原 2]
- 哿襲宮 - 『筑前国風土記』[原 3]
- 樫日廟 - 六国史(複数)
- 香襲宮 - 『続日本後紀』[原 4]
- 香襲廟宮 - 『日本三代実録』[原 5]
- 橿日廟 - 『延喜式』[原 6]
- 橿日廟宮 - 『延喜式』[原 7]
- 借飯廟宮 - 『諸神根源抄』
香椎宮の創建以前にあったとされる仲哀天皇の行宮(仮宮)は、『日本書紀』において「橿日宮」、『古事記』において「訶志比宮」[4]、『新撰姓氏録』[原 8]では「橿氷宮」と表記されている。
「香椎」とは『和名抄』にも糟屋郡香椎郷として見える古い地名であるが、『筑前国続風土記』ではその由来について、椎の木に仲哀天皇の棺を掛けたときに異香が漂ったことに由来するとしている[5]。そのほか、「かしい」は首都や大村の意味とする説がある[5](「香椎#歴史」も参照)。
祭神
祭神は次の4柱[2]。
祭神について
文献では祭神に関して、
- 神功皇后祭神説 - 『兵範記』、『宇佐託宣集』、『諸神記』、『伊呂波字類抄』
- 仲哀天皇祭神説 - 『宋史日本伝』
- 神功皇后・応神天皇・住吉大神の祭神3柱説 - 社伝、『筑前国続風土記』
- 神功皇后・武内宿禰・応神天皇・住吉大神の祭神4柱説 - 『二十二社註式』
などの諸説が存在する[6]。近世の『筑前国続風土記』では「神功皇后、相殿左八幡大神、右住吉大神」と記載されており、明治4年(1871年)の神祇官への届け出もそれを踏襲している[7]。その後、大正4年(1915年)に仲哀天皇の神霊が摂社の古宮から本殿に遷座・合祀されたため、以後は祭神を上記4柱としている[7]。
香椎宮の社伝や『福岡県神社誌』の解釈では、元々は仲哀天皇・神功皇后の両方が祭神であったとしており、初めに仲哀天皇の神霊が天皇崩御時から行宮跡地の廟(かつての摂社古宮大明神)に祀られ、次いで神功皇后の神霊が神亀元年(724年)の新廟(現在の本宮)に祀られ、これらの並列する二廟が「香椎廟」と総称されたとする[6]。上記の文献に見える神功皇后祭神説は、後世に神功皇后信仰が盛んになったためとする[6]。
なお『宇佐託宣集』や『八幡愚童訓』では、香椎宮の神を「大帯姫(おおたらしひめ)」と記している[6]。このことから、オオタラシヒメ伝承が神功皇后伝説の元伝承になったと見なす説や、『延喜式』神名帳で豊前国宇佐郡に見える「大帯姫廟神社」(現・宇佐神宮の三之御殿)と香椎宮とを関連づける説がある[6]。
原典
- ^ a b c 『万葉集』第6 957番-959番(神道・神社史料集成参照)。
- ^ a b 『日本三代実録』貞観18年(876年)正月25日条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ a b 『萬葉集註釈』巻4所引『筑前国風土記』逸文。
- ^ 『続日本後紀』承和5年(838年)3月甲申(27日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『日本三代実録』貞観18年(876年)正月25日条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ a b 『延喜式』巻18(式部上)神宮司条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ a b c 『延喜式』巻18(式部上)橿日廟条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『新撰姓氏録』摂津国皇別 韓矢田部造条。
- ^ 『続日本紀』天平9年(737年)4月乙巳(1日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『続日本紀』天平宝字3年(759年)8月己亥(6日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『続日本紀』天平宝字6年(762年)11月庚寅(16日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『日本後紀』弘仁元年(810年)12月壬午(16日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『続日本後紀』天長10年(833年)4月壬戌(5日)条(神道・神社史料集成参照)。
- ^ 『延喜式』巻23(民部式)太宰府仕丁条。
出典
- ^ 霊廟建築(国史).
- ^ a b c d 香椎宮御由緒 & 1983年, p. 1.
- ^ a b c d 神道・神社史料集成.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 香椎宮(平凡社) & 2004年.
- ^ a b c 香椎(角川) & 1988年.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 香椎宮(神々) & 1984年.
- ^ a b 香椎宮御由緒 & 1983年, pp. 23–24.
- ^ a b c d e f g h i j k l m 神社由緒書。
- ^ a b c 角川日本地名大辞典 & 1988年, p. 33.
- ^ a b c d e f 香椎宮(角川) & 1988年.
- ^ a b c d 中世諸国一宮制 & 2000年, pp. 579–580.
- ^ a b 社領(国史).
- ^ 香椎宮御由緒 & 1983年, p. 23.
- ^ 香椎宮(日本大百科).
- ^ a b 香椎宮本殿 - 国指定文化財等データベース(文化庁)
- ^ a b 香椎宮本殿(福岡市文化財保護課「福岡市の文化財」)。
- ^ 不老水(環境省「名水百選」)。
- ^ 万葉歌碑(香椎潟)(福岡市文化財保護課「福岡市の文化財」)。
- ^ 香椎宮御由緒 & 1983年, p. 5.
- ^ a b c d e f 香椎宮御由緒 & 1983年, pp. 36–40.
- ^ “福岡神社参拝帳”. jinja-sanpaicho.com. 2020年8月14日閲覧。
- ^ 香椎宮御由緒 & 1983年, p. 2.
- ^ 香椎宮勅祭(年中行事) & 2009年.
- ^ 祭典・行事(公式サイト)。
- ^ a b 香椎宮春季氏子大祭神幸式(年中行事) & 2009年.
- ^ 香椎宮奉納獅子楽(ふくおか社会教育ネットワーク「福岡県の文化財」)。
- ^ 香椎宮奉納獅子楽(福岡市文化財保護課「福岡市の文化財」)。
- ^ 福岡市の文化財年度別一覧>平成18年度指定(福岡市の文化財<個人サイト>)。
- ^ 06/0957(山口大学「万葉集検索システム」)。
- ^ 06/0958(山口大学「万葉集検索システム」)。
- ^ 06/0959(山口大学「万葉集検索システム」)。
- ^ 『古事類苑 第9冊』(国立国会図書館デジタルコレクション)727コマ参照。
香椎宮と同じ種類の言葉
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