群選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/03/19 17:12 UTC 版)
人間における群選択
ジャレド・ダイアモンドは宗教や社会規範に縛られる人間の間ではナイーブな群選択が起きうるかも知れないと考えた。また二重相続理論では文化的群選択を考慮する。人間社会で見られる自己犠牲的な行動(例えば寄付行為)の進化に関する理論には社会選択や間接互恵性と言った非群選択的な理論がある。
群選択説への批判
古典的な群選択が成り立たない理由は次のように説明できる。利他的な(例えば餓えを避けるために繁殖を控える)個体で構成される集団に利他的でない(繁殖を控えない)個体が変異や移住によって誕生すると、その個体は他の利他的な個体より高い適応度を持つ。より多くの子を残し、利他的でない性質は遺伝によって集団中に広まる。個体の生死よりも集団の形成と絶滅は遅いために、利他的な集団は存続しない。種や群れのためと解された生物の行動はほぼ全て血縁選択と互恵的利他主義の理論によってより良く理解されることが分かっている。
ロバート・トリヴァースは次のように簡潔にまとめている[7]。
- 群選択で説明しなければならないような自然現象はない
- 大量絶滅を防ぐような動物の個体数調節は、密度依存による自然選択の結果である
- 繁殖成功度に関するデータは、動物がその時可能な限り急速に増加し、将来飢えるかどうかとは関係のないことを示している。
- 群選択説は、各個体が集団に縛られ、過剰繁殖の結果苦しむことになっても他の地域へは分散しない不自然な状況を前提としている。
また種の利益論法や群選択説が受け入れられた理由を次のように推測している。
- 利他的な形質や行動を説明する手段がなかったこと
- もっぱら非社会的な形質について研究されていたため、種の利益と個体の利益が相反するとは想定されていなかったこと
- 自然選択を人間の社会に適用するやり方が、人々を恐れさせて種の利益という考えに向かわせたこと
互恵的利他集団(相互に利他行動を行い、利他行動を行わない裏切り者は罰によって排除する集団)は一見、群選択の実例に見える。しかしこのような集団でも自分自身の利益を損ねて他者に奉仕する自己犠牲的な行為は進化しない。
至近因と究極因の混同
種の保存論法はしばしば至近要因と究極要因の混同を伴う。至近要因とは動物の行動の動機となる心理/生理的メカニズムであり、究極要因とはその心理/生理的メカニズムを形作った進化上の原因のことである。
混同の典型例は交尾(性交)である。性交は性欲や子供を持ちたいという至近要因によって引き起こされる。その結果、繁殖(個体の存続)が起きる。性欲を持たない個体は繁殖せず、そのような性質は広まらない。これがなぜ性欲が存在するのかという究極要因である。「種の保存のため」は至近要因(性欲)とも究極要因(繁殖)とも関係がない。表面的に「種の保存のために繁殖しているかのように見える」だけである。
参考文献
- リチャード・ドーキンス 『利己的な遺伝子』
- 長谷川寿一・長谷川真理子『進化と人間行動』
- 1 群選択とは
- 2 群選択の概要
- 3 マルチレベル選択説
- 4 人間における群選択
- 5 関連項目
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