線型代数群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/01 09:54 UTC 版)
定義
代数的閉体 k に関して、k 上の代数多様体 X に関する構造の多くはその k 有理点の集合 X(k) にエンコードされていて、それにより線型代数群を初等的に定義することができる。まず、抽象群 GLn(k) から k への関数が正則 regular であるとは、それが n 次正方行列 A の成分と 1/det(A) の多項式としてかけることをいう。ここで det は行列式である。すると、G が体 k 上の線型代数群 linear algebraic group とは、ある自然数 n に関する抽象群 GLn(k) の部分群 G(k) である。ここで G(k) は適当な正則関数のなす集合の零点として定義される。
任意の体 k に関して、k 上の代数多様体は k 上のスキームの特別な場合として定義される。スキームの言葉では、体 k 上の線型代数群 G とは、ある自然数 n に関する体 k 上の GLn の滑らかな閉部分群スキームである。特に G は GLn 上の適当な正則関数のなす集合の零点として定義され、これらの関数は「任意の可換 k 多元環 R に対して G(R) は抽象群 GLn(R) の部分群である」と言う性質を満たさなくてはならない。(したがって、k 上の代数群 G は単に抽象群 G(k) ではなくて、むしろ可換 k 多元環 R に対する群 G(R) の族全体である——これが関手的観点からスキームを記述する哲学である。)
どちらの言葉を用いるにせよ、線型代数群に関する準同型 homomorphism の概念がある。例えば、k が代数的閉体のときは、G ⊂ GLm から H ⊂ GLn への準同型は抽象群に関する準同型 G(k) → H(k) であって、G 上の正則関数で定義されるものである。これにより k 上の線型代数群は圏をなす。特に、これにより線型代数群の同型とは何を意味するのかが定まる。
スキームの言葉を用いると、体 k 上の線型代数群 G は特に k 上の群スキーム group scheme である。つまり、k 上のスキームであって k 有理点 1 ∈ G(k) と k 上の射
を持ち、群の積と逆に関する通常の(結合律・単位元・逆元に関する)公理を満たす。さらに線型代数群は滑らかで k 上有限型であり、アフィン・スキームである。逆に、どんな体 k 上の有限型アフィン群スキームもある自然数 n に関して k 上 GLn への忠実表現を持つ[2]。例としては上述の加法群 Ga の GL2 への埋め込みがある。その結果、線型代数群を行列群、あるいはより抽象的に体上の滑らかなアフィン群スキームと思うことができる。(「線型代数群」という用語を体上の有限型アフィン群スキームの意味で使う著者もいる。)
線型代数群を十分に理解するためには、より一般の(滑らかでない)群スキームを考える必要がある。例えば、k を標数 p > 0 の代数的閉体とする。このとき x ↦ xp で定義される準同型 f: Gm → Gm は抽象群としての同型 k* → k* を誘導するが、f は代数群としての同型ではない(なぜなら x1/p は正則関数ではないから)。群スキームの言葉を用いると、f が同型でないより明快な理由がある:f は全射であるが、非自明な核 μp(1の p 乗根からなる群スキーム)を持つ。このような問題は標数ゼロのときには生じなかった。実際、標数ゼロの体 k 上の有限型群スキームは k 上滑らかである[3]。体 k 上の有限型群スキームが k 上滑らかである必要十分条件はそれが絶対被約 geometrically reduced、つまり を k の代数的閉包としたとき底変換 base change が被約であることである[4]。
アフィン・スキーム X はその正則関数のなす環 により決定されるので、体 k 上のアフィン群スキーム G もその環 と(G の積と逆に由来する)ホップ代数構造により決定される。これは k 上のアフィン群スキームの圏と k 上の可換ホップ代数の圏の間の(矢印を反対にする)圏同値を与える。例えば、乗法群 Gm = GL1 に対応するホップ代数はローラン多項式環 k[x, x−1] であり、余積は x ↦ x ⊗ x で与えられる。
基本的な概念
体 k 上の線型代数群 G に対して、単位成分 identity component (点 1 を含む連結成分)は指数有限な正規部分群である。よって群の拡大
がある。ここで F は有限代数群である。(代数的閉体 k に対して、F は抽象有限群と同一視できる。)このため、代数群の研究の多くは連結群に焦点を合わせている。
抽象群論における様々な概念は線型代数群へ拡張できる。線型代数群が可換・べき零・可解であるとは何を意味するかを定義するのは、抽象群論における定義の類似から、単純である。例えば、線型代数群が可解 solvable であるとは、線型代数部分群からなる組成列であって、その商群が可換となるものを持つことである。同様に、線型代数群 G の閉部分群 H に対し、その正規化群・中心・中心化群は自然に G の閉部分群スキームと見做せる。もしそれらが k 上滑らかならば、上で定義した線型代数群である。
体 k 上の連結線型代数群 G が持つ性質は抽象群 G(k) によってどの程度決定されるのかを問うことができる。この方面における有益な結果として、もし体 k が完全(例えば標数 0 )、あるいは G が簡約(後述)ならば、G は k 上単有理的 unirational であるというものがある。加えて k が無限体ならば群 G(k) は G においてザリスキー稠密 Zariski dense である[5][6]。例えば、上述の仮定の下で、G が可換・べき零・可解である必要十分条件は G(k) が対応する性質を持つことである。
連結性の仮定をこれらの結果から除くことはできない。例えば G を有理数 Q 上の 1 の立方根の成す群 μ3 ⊂ GL1 とする。すると G は G(Q) = 1 なる Q 上の線型代数群で G においてザリスキー稠密でない。なぜなら は位数 3 の群であるから。
代数的閉体上では、代数群に関して代数多様体としてより強い結果がある:代数的閉体上のすべての連結線型代数群は有理多様体である[7]。
- ^ Kolchin 1948.
- ^ Milne 2017, Corollary 4.10.
- ^ Milne 2017, Corollary 8.39.
- ^ Milne 2017, Proposition 1.26(b).
- ^ Borel 1991b, p. 218, Theorem 18.2.
- ^ Borel 1991a, Corollary 18.4.
- ^ Borel 1991a, Remark 14.14.
- ^ Milne 2017, section 10.e.
- ^ Borel 1991a, section 7.1.
- ^ Milne 2017, p. 170, Theorem 9.18.
- ^ Borel 1991a, Corollary 11.3.
- ^ Milne 2017, p. 359, Corollary 17.25.
- ^ Springer 1998, p. 256, Theorem 15.2.6.
- ^ Borel 1991a, 18.2(i).
- ^ Milne 2017, Corollary 14.12.
- ^ Borel 1991a, Theorem 10.6.
- ^ Borel 1991a, Theorem 15.4(iii).
- ^ Borel 1991a, Theorem 11.1.
- ^ Milne 2017, Theorems 7.18 and 8.43.
- ^ Borel 1991a, Corollary 11.2.
- ^ Milne 2017, Definition 6.46.
- ^ Bröcker & tom Dieck 1985, pp. 151ff., section III.8.
- ^ Conrad 2014, section D.3.
- ^ Conrad 2014, after Proposition 5.1.17.
- ^ Conrad 2014, Proposition 5.4.1.
- ^ Springer 1998, 9.6.2 and 10.1.1.
- ^ Milne 2017, Lemma 19.16.
- ^ Milne 2017, Theorem 22.2.
- ^ Renner, Lex (2006), Linear Algebraic Monoids, Springer.
- ^ Milne (2017), Theorem 14.37.
- ^ Deligne & Milne (1982), Corollary II.2.7.
- ^ Deligne & Milne (1982), Remark II.2.28.
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