柳京ホテル 沿革

柳京ホテル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/13 22:37 UTC 版)

沿革

建設の経緯

建設途中で放棄されていた柳京ホテル(2007年)

北朝鮮が1988年ソウルオリンピックに対抗して開催したとされる第13回世界青年学生祭典1989年)に間に合わせるべく、1987年に起工された。設計および建設は白頭山建設研究院 (Baikdoosan Architects & Engineers) による[6]。北朝鮮の威信をかけた「世界一のホテル」として、当時韓国一の高さを誇ったソウル63ビルや韓国の双竜グループ(後のSTXグループ)が1986年シンガポールに建てた当時高さ世界一のホテル・ウェスティン・スタンフォード・シンガポールよりも高く[7]することを目指したとされる。ホテル名は平壌の旧称である「柳京」から取られ、建設段階から国外へ向けての宣伝を行い、地図にも掲載されていた。

しかしあまりにも巨大な施設のため、第13回世界青年学生祭典には間に合わないことが明らかになり、急遽両江ホテルと西山ホテルが建てられた[8]。その後ホテルの完成そのものが危うくなるにつれ、北朝鮮当局は不足している資金や建設技術を日本など西側の外資を誘致することで解決しようと画策、建設中にもかかわらず外国人ツアーの経路に柳京ホテルを入れたり、投資会社 (Ryugyong Hotel Investment and Management Co.,) を設立し、カジノを設置して日本人観光客を誘致する案を打ち出したりした[7]。しかし1992年に建設は完全に中断され、15年以上にわたり備品はおろか窓も外装すらないまま放置された。この中断の原因は資金不足や電源不足、広汎な飢餓のためと推測される。

長らく放置されたことで単独の建築物としては世界最大の廃墟であると言われ、アメリカのファッション雑誌『Esquire』は2008年に「人類史上最悪の建物」という題で柳京ホテルを「傾いた北朝鮮式シンデレラ城」と紹介した[9][10]。また『CNN』の選んだ「世界で最も醜い建物」の第1位に選出されている[11]。国際メディアからは「滅びのホテル (Hotel of Doom)」「幽霊ホテル(Phantom Hotel)」と呼ばれている[12]。一時は監視員が常時監視しており、平壌直轄市内の観光コースからも外されていた。

建設再開

建設再開後の柳京ホテル。近傍にある祖国解放戦争勝利記念塔より(2010年4月)
柳京ホテル(2012年)

2008年5月、16年ぶりに建設が同年4月より再開されたことが報じられ、窓ガラスの取り付け工事が始まった[10][13]。建設には北朝鮮で携帯電話事業の展開を計画中のエジプト企業オラスコム・テレコム社(当時の会長はナギーブ・サウィーリス)が関わっていたとされ、1億8000万ドルを投資したという情報もあった[14]2012年4月15日金日成の生誕100周年までの完成を目指しているとされたが[15]、この目標もついに達成されることはなかった。

2012年9月23日北京の旅行会社高麗ツアーズのスタッフが建物内部へ入った。スタッフは玄関ロビーや会議室は完成間近とコメントした[16]が、公表されたロビーの写真では鉄骨やコンクリートがむき出しのまま工事が止まっていた。その際、建設関係者から「完工まであと2、3年を要する」と示唆された[17]。2012年11月1日欧州のホテルチェーン企業ケンピンスキーが営業を請け負うこととなり、2013年中ごろに一部開業するとの見通しを明らかにした[18]。その後ケンピンスキーのレトー・ヴィットヴァー会長が韓国メディアに対し最上部に最大150客室規模をオープンすることを発表、同社ミヒャエル・ヘンスラー中国支部長も柳京ホテルは国際基準を満たしているとし、5つの回転式レストランやスパ、宴会場、商業施設、地下には劇場や映画館を備える計画を発表するなど当初ケンピンスキーは北朝鮮での事業展開に積極的な姿勢を見せていた[19]。しかし、2013年3月にケンピンスキーの幹部は現時点では平壌でのホテル産業には参入できないとし、開業は事実上白紙となった[20]。さらに4月9日には最終的に開発を断念すると発表した[21]

2010年代後半以降

その後、しばらく建設に関する報道はなかったが、2016年12月15日韓国聯合ニュース2017年中に開業する可能性を報じた[22]。2017年4月3日、高さ555mのロッテワールドタワーがグランドオープンしたため、朝鮮半島最高峰のビルの座から陥落した。2017年7月27日にはAP通信が「ホテルの正面に看板が取り付けられた」と報じている[16]2018年には建物周囲の塀が撤去され、ライトアップショー[23][24]が行われた。2018年8月に朝鮮中央放送の社屋で火災が発生した際に、一時的に放送設備が当ホテルに移されたとの情報もある[25]

2019年には、公式ロゴが建物前面に取り付けられた[26]ものの、その後も一向に開業の発表は無い。


  1. ^ a b "Orascom and DPRK to Complete Ryugyong Hotel Construction". The Institute for Far Eastern Studies. 20 May 2008. Archived from the original on 3 July 2009. Retrieved 9 February 2010.
  2. ^ a b c d "Ryugyong Hotel". Emporis. Retrieved 9 February 2010.
  3. ^ 中 학자, ‘동양의 금자탑’ 北 유경호텔...대재앙 된다 경고”. www.ajunews.com. www.ajunews.com (2018年4月10日). 2021年10月27日閲覧。
  4. ^ Ryugyong Hotel: The story of North Korea's 'Hotel of Doom'”. edition.cnn.com. edition.cnn.com (2019年8月10日). 2021年10月27日閲覧。
  5. ^ Tallest building unoccupied - ギネス世界記録
  6. ^ Cramer, James P.; Jennifer Evans Yankopolus, ed (2006). Almanac of Architecture & Design (7th ed.). Atlanta, Georgia: Greenway Publications. p. 368. ISBN 0-9755654-2-7 
  7. ^ a b Ngor, Oh Kwee (1990-06-09). “Western decadence hits N. Korea”. Japan Economic Journal: 12. 
  8. ^ a b c d 加藤将輝、中森明夫・プロデュース『北朝鮮トリビア』飛鳥新社、2004年。ISBN 978-4-87031-619-5 
  9. ^ Eva Hagberg (2008年1月28日). “The Worst Building in the History of Mankind” [人類史上最悪の建物] (英語). Esquire. Hearst Corporation. 2008年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  10. ^ a b 金素烈 (2008年5月20日). ““北, 4月から ‘105階柳京ホテル’ の工事を再開””. デイリーNK. 2014年5月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  11. ^ Duncan Forgan (2012年1月4日). “10 of the world's ugliest buildings” [世界で最も醜い建物10] (英語). cnngo.com. CNN. 2012年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  12. ^ Will 'Hotel of Doom' ever be finished?” [‘滅びのホテル’ はいつ終る?] (英語). BBC NEWS. BBC (2009年10月15日). 2009年10月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  13. ^ “建設中断していた平壌の105階建てホテル、工事再開”. 読売新聞. (2008年5月19日) 
  14. ^ 塩山敏之 (2012年11月4日). ““史上最悪” 北の摩天楼が完成? エレベーターはあの会社製…”. イザ!. 産経デジタル. 2012年11月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  15. ^ Barbara Demick (2008年9月27日). “North Korea in the midst of mysterious building boom” [不思議な建築ブームの真っ只中の北朝鮮] (英語). latimes.com. Los Angeles Times. 2012年11月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  16. ^ a b 北朝鮮の「滅びのホテル」がいよいよオープン間近?”. ニューズウィーク日本版ウェブ. ニューズウィーク (2017年8月2日). 2018年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  17. ^ 平壌の柳京ホテル、完工まで2年 外国人に異例の公開”. 47NEWS. 共同通信 (2012年9月27日). 2014年1月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  18. ^ 柳京ホテル「来年開業」 平壌、欧州チェーンが運営”. 産経ニュース. 産経新聞 (2012年11月1日). 2012年11月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  19. ^ a b 塩山敏之 (2013年4月27日). ““北朝鮮の摩天楼” から逃げ出した欧州ホテル資本…「柳京ホテル」やはり人類史上最悪の建物に”. 産経WEST. 産経新聞. 2013年4月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  20. ^ NK News (2013年3月30日). “「平壌のランドマーク」柳京ホテル、開業延期 着工から25年余”. 産経ニュース. 産経新聞. 2013年4月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  21. ^ “スイス事業者、20年以上建設中の北朝鮮の「滅びのホテル」開業を断念”. AFPBB News. AFP (2e arrondissement de Paris: AFPBB News). (2013年4月10日). オリジナルの2018年4月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180430163932/http://www.afpbb.com/articles/-/2938057 2018年4月30日閲覧。 
  22. ^ 北朝鮮の柳京ホテル 来年開業か=着工から30年”. 聯合ニュース日本語版. 聯合ニュース (2016年12月15日). 2017年10月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月1日閲覧。
  23. ^ 平壌の「滅びのホテル」に浮かび上がる国旗、ついに一部オープンか”. www.afpbb.com. www.afpbb.com (2018年4月10日). 2021年10月27日閲覧。
  24. ^ North Korean 105-floor ‘Hotel of Doom’ Deserted for 30 Years”. medium.com. medium.com. 2021年10月27日閲覧。
  25. ^ 責任問われ処刑か…朝鮮中央テレビで火災 - BLOGOS・2018年11月10日
  26. ^ Australian student reportedly arrested in North Korea out of contact since Tuesday, family say”. www.theguardian.com. The Guardian (2019年6月27日). 2020年3月22日閲覧。
  27. ^ 朝鮮日報. (2005年6月5日) 






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