散弾銃
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/15 14:58 UTC 版)
構造による分類
- トラップ競技銃
- クレー射撃トラップ競技及びダブルトラップ競技で使用することを前提として設計された銃。ほとんどが上下二連銃[注釈 18]である。
- トラップ競技は射手から離れていく「追い矢」のクレーを撃つため、通常の狩猟銃では照星の狙点をクレーのやや上側に被せる(銃口でクレーが隠れる)ように撃つ必要があるが、トラップ銃は銃床のベントを調整し、照星をクレーに直接照準して射撃が行えるようになっている。射手から20mから50m程度の距離のクレーを狙うため、チョークはフルとインプモデの組み合わせがほとんどである。
- トラップ銃は水平射撃を行う場合、照星の狙点に対して弾道がやや上に逸れるため、狩猟に使うことはあまり推奨されない。
- スキート競技銃
- クレー射撃スキート競技で使用することを前提として設計された銃。ほとんどが上下二連銃だが、かつてはスキート競技用の自動散弾銃が製造されていたこともある。
- スキート競技は射手の目の前(約10mから15m前後)を水平に横切るクレーや、射手に向かってくる「向かい矢」のクレーを撃つため、チョークは通常の狩猟銃よりも早く散弾が散開するスキートチョークを用いる。銃床のベントは狩猟用銃にやや近い角度のため、スキート銃は遠矢を掛ける鳥猟を除く狩猟用途でも共用することが可能である。そのためスキート競技では自動散弾銃など純粋な狩猟用銃が用いられることも多い。
- フィールド競技銃(スポーティング競技銃)
- クレー射撃フィールドトラップ・フィールドスキートを始めとするフィールド競技で使用することを前提として設計された銃。スポーティング銃と呼ぶメーカーもある。ほとんどが上下二連銃である。
- フィールド射撃競技は本来は自然界の狩猟に近い環境[注釈 19]で、鳥に見立てた軌道のクレーを撃つため、一般的なトラップ競技やスキート競技の中間程度の角度のベントの銃床が組み合わされる。状況により様々な距離や角度のクレーを撃つ必要があることから、可変ベンド銃床や交換チョークなどの調整機構を備えた銃も多い。
- 狩猟用銃(狩猟銃)
- 狩猟で用いることを前提として設計された銃[注釈 20]。銃種及びチョーク、銃床のベントはその銃が目的とするゲームの種類により、様々な組み合わせの物が用いられる。高級品では狩猟家のオーダーにより普及品にない角度の銃床やチョークなどが一点品として製作されることもある。また、射手の転倒や銃の落下などの際の暴発を防ぐため、競技銃に比べて複雑で堅牢な構造の安全装置や、引き代が重い引き金が採用されることも多い。
- 普及品においては険しい山岳地帯で持ち歩くことを想定して短い銃身や軽合金製の機関部で軽量化された物や、特に強力なスラッグ装弾やサボット装弾を撃つために分厚い銃身や鋼鉄製の機関部で頑丈に作られた物。荒天下でも銃本体の錆や吸水による銃床の変形が起こらないように、ステンレスやチタンで作られた銃身・機関部や、特殊樹脂製の銃床が組み合わされた物などが存在する。
元折散弾銃
銃器の歴史上、元折式は英国でほとんどの機構が発明された[61]。
- サイドロック(地板付銃)
- 撃鉄や撃鉄ばねなどの機関部品(ロック (銃器))がレシーバー横の着脱可能な金属板(地板)に取り付けられた機関部形式。元々はマスケット銃より受け継がれた技術で、撃鉄ばねに松葉ばねが使用されていた時代に、折損した松葉ばねを素早く交換できるように考案された。構造上、元台側にも機関部品の穴を穿る必要があり、製造に非常に手間が掛かることや、金属板がレシーバーの骨組みを兼ねることからボックスロックに比べて強度が弱いため、撃鉄ばねにコイルばねが使用されるようになってからは余り使われなくなった。現在では一部の高級な元折散弾銃で採用されている。
- ボックスロック
- 撃鉄や撃鉄ばねなどの機関部品がレシーバー内に全て収納されている形式。最初のボックスロックは1875年に英国のアンソン&デイリーにより開発された[62]が、撃鉄ばねに折損の危険性が低いコイルばねが使用されるようになってから一挙に普及した。レシーバーの側壁も全て一体構造にできるため、サイドロックに比べて強度が高いが、機関部の分解がし難いことが短所でもある。最近ではボックスロックでも機関部の分解を容易にするため、ベレッタ DT10や新SKB製上下二連銃など、引金部と機関部を一体化し簡単にレシーバーから取り外せるようになった構造の物も登場してきた。
- サイドプレート
- ボックスロック散弾銃のレシーバーに、サイドロックを模した金属板を取り付けた物。サイドロックの金属板と異なり、サイドプレートの金属板は単に装飾の役割しか果たしていない。ボックスロック散弾銃の上位グレードにて採用されていることが多い。
- 両引き
- 元折二連銃において、上下若しくは左右の銃身に別々の引金が付いている形式。単引き機構が登場する以前の形式で、熟練していないと二連射が掛けづらい欠点があるが、チョークが異なる上下若しくは左右の銃身を瞬時に撃ち分けられるため、特に鳥猟を行う者の間に愛好者が多く、現在でもこの形式に対する需要は一定数存在し続けている。また、反動により左右同発などの誤動作や故障の可能性がある単引き機構と異なり、構造的な信頼性が高いことから、元々ニトロ・エクスプレスなどの極めて強力なマグナム装弾を用いるエレファント・ガンに分類される二連小銃では今日でも支配的な採用実績を持っており、この分野に強い英国(俗に云うロンドンガン)の銃器メーカーでは、二連散弾銃もこの方式で製作されることが多い。
- 単引き
- 元折二連銃において、上下若しくは左右の銃身を一本の引金で発射する形式。狩猟向けの銃に於いては、上下若しくは左右の銃身を撃ち分けるためのセレクターが付いていることが多いが、競技銃の場合はセレクターが省略されていることもある。二連射を掛ける際に、発射の反動を利用して撃鉄を切り替える形式(イナーシャ・トリガー)と、引金を二度引くだけで連続して撃鉄が落ちる形式(メカニカル・トリガー)があり、威力の大きな強装弾を用いることが多く射撃の反動に伴い意図せず引金を二度引きしてしまうリスクがある狩猟銃では前者、逆に狩猟と比較して減装薬の実包を用いることが多く、できるだけ短い間隔で二発を連続発射したい局面が多い競技銃では後者の形式が採用されていることが多い[63]。
- リリース・トリガー
- 通常の引金が「引金を引く」ことで発射が行われるのに対して、「引いた引金を離す」ことで発射が行われるものを指す。引金を強く引くことで銃口がぶれる「ガク引き」が予防されるため、元々は比較的長時間銃口でクレーを追いながら狙いを付ける必要がある、アメリカントラップ競技向けの元折単身銃において後付け改造という形で採用が始まったものであるが、近年ではスキート競技銃やスポーティング競技銃でも使われることが多くなっており、メーカーで当初からリリース・トリガーとして注文できる競技銃も現れている。リリース・トリガーは日本ではあまり知名度が無く、主に欧米で使われているものであるが、欧米でも安全上の理由からリリース・トリガーを装備した銃の場合には、銃の何処か目立つ位置に蛍光塗料や蛍光テープなどで「R」の文字を大書しておくことが、銃の所有者が取るべき最低限のマナーであるとされている[64]。
- ピストルグリップ
- 元台の握把(グリップ)が拳銃のような形に湾曲している形式。現在の単引き引金の上下二連銃はほぼ全てこの形式である。
- ストレートグリップ
- 元台の握把が湾曲しておらず、真っ直ぐになっている形式。黒色火薬時代の初期のライフルでもよくみられた形式で、特に両引き引金の水平二連銃に採用例が多い。グリップ上で握りをずらして二連射を掛ける必要がある両引き引金と特に相性がよいとされ、現在でもこの形式に対する需要は一定数存在し続けている。
- ビーバーテイル先台
- 先台が二本の銃身を包み込むように造形されている形式。現在の上下二連銃はほぼ全てこの形式であるが、水平二連銃では各射手の好みや構え方の違いにより、銃を注文する際に先台は後述のイングリッシュとビーバーテイルを、グリップはストレートとピストルタイプを選択できるようになっているメーカーが多かった。これにより、水平二連銃の在庫管理が現在よりも遙かに複雑になる要因にもなっていた。現在においては水平二連銃のビーバーテイル先台は普段上下二連銃を愛好する者でも特に構えを変更する必要などがないため、中古市場でもイングリッシュ先台より人気がある傾向がある。
- イングリッシュ先台(英国型、クラシックタイプ)
- 水平二連銃において、先台が二本の銃身の下にくっつくように小さく造形されている形式。元々英国の高級水平二連銃にて採用されていたため、このような呼び名が付いている。ビーバーテイル先台に比べ小型軽量であるが、先台の面積が非常に小さいので、クレー射撃などの連続発射で銃身が加熱した際に先台を握って銃を保持することが困難となるため、現在の上下二連銃のように先台を握り込むように構えるのには不向きとされている。なお、古い狩猟入門誌ではこの形式の銃を構える際は現在のクレー射撃の構えと全く異なり、左手は先台を握るのではなく、用心金の前に手をかぶせるように添えて銃を保持するイラスト[65]が用いられていることが多い。
- アンソン止め
- 先台の固定機構の一つで、先台先端に突き出したボタンを押し込むことで銃身との分離が行える。構造がシンプルで先台の木部の面積を最大限取れるため、流麗なチェッカリングが施されるイングリッシュ先台に採用例が多いが、猟場を移動中に他物にボタンが押されて外れてしまうリスクも存在している。
- デイリー止め
- 先台の固定機構の一つで、先台の下面に設けられたロックレバーを操作することで銃身との分離が行える。部品点数が多くなり、先台の木部に占める金具の面積も大きくなりがちな欠点があるが、アンソン止めと比較して他物に動かされる危険性が低く、ロックレバー自体に外れ止め機構を組み込むことも可能なため、今日の上下二連銃で主流のビーバーテイル先台では支配的な方式となっている。
- 有鶏頭(オープンハンマー)
- 撃鉄が機関部の外に露出している形式。戦前の、サイドロックが主流であった時代の水平二連銃にて採用されていることが多かった。この形式の場合、撃鉄はリボルバーなどと同じく機関部を閉鎖した後に指でコッキングすることとなる。現在ではほぼ廃れてしまった形式であるが、ごく一部のメーカーにこの形式を再現した銃が存在する。
- 無鶏頭(インナーハンマー)
- 撃鉄が機関部に内蔵されている形式。撃鉄は機関部の解放と同時に自動的にコッキングされる。現在の元折散弾銃はほぼ全てこの形式を採用している。
- ダマスカス銃身(鍛接銃身)
- 巻き銃身とも呼ばれる。刀剣のダマスカス鋼の様に異種の鋼材を積層鍛造して、独特の縞模様を浮き上がらせた銃身。前装銃時代の技術の遺産であり、ごく初期の高級元折散弾銃で用いられていたが、削り出しの銃身に比べ強度が劣ることや、製法が途絶えたこともあって現在ではほぼ廃れてしまい、既製装弾の箱に「ダマスカス銃身では使用禁止」という文言にかつての名残が見られるのみである。
- イジェクター(エジェクター、蹴子)
- 機関部を解放した際に、空薬莢を銃身から排出する機構。現在ではほぼ全ての元折散弾銃に標準装備されているが、かつてはイジェクターの有無によって銃のグレードに差違を設けていた時代があった。イジェクターがない銃の場合は、機関部を解放した際に薬莢後端が抽筒子(エキストラクター)によって少し持ち上げられるため、手で直接薬莢を排除する必要がある。現在でも、ハンターの間では猟場に空薬莢が飛び散ることを嫌い、敢えてイジェクターなしの銃を愛用する者も存在する。
- ダボ
- 銃身側に設けられている突起で、機関部に差し込まれて横方向から開閉レバーと連動するボルト(かんぬき)が差し込まれることで、薬室の閉鎖が成立する。かつては普及品はダボが1本、高級品はダボが2本設けられていることが多く、日本語では前者を「単一止め」、後者を「二重止め」と呼んだ[66]。
- クロスボルト
- 通常の元折れ銃で採用されている機関部下部の閉鎖機構(ダボ)とは別に、機関部の上端に開閉レバーと連動するくさび(楔)状の閉鎖機構を設けた物。英国のW.W.グリーナーにより開発されたため、グリーナー・クロスボルトとも呼ばれ、日本語では「横栓三重止め」や「十字止め」とも呼ばれた[66]。元々はダブルライフル(水平二連式のライフル銃、二連小銃とも)にて強力な装弾を使用し続けた際の機関部下部の閉鎖機構のガタツキを防ぎ、発射圧力を上下で分散して受け止めて機関部の強度を増すために考案され、散弾銃にも転用された構造であり、堅牢・高級な水平二連銃を象徴する装備でもあったが、現在ではレシーバー本体がより強固な構造となったボックスロック方式が主流となり、散弾実包の装薬量もより軽量なものが主流となったために水平二連散弾銃では存在意義が次第に希薄となり[67]、上下二連散弾銃でもクロスボルトに代わる強力な閉鎖機構の開発が各メーカーで進んだこともあり、メルケルや新SKBなどを除き採用しているメーカーは少なくなっている。
- クロスボルトの構造や形状はメーカーにより様々で、グリーナーの元設計では機関部上部のダボに丸い孔が開けられており、太い円柱型の横栓が交差するように貫通する構造であるが、ウェストリー・リチャーズなど後発のメーカーは機関部上部のダボの後端に切り欠きを設けて、この切り欠きに扇型の横栓を引っ掛ける構造を採用する例が多かった[67]。戦前の日本ではこの2種の構造を総称して「三重止め」と呼ばれたが、欧米圏では前者の構造のみをグリーナー・クロスボルトと呼び、後者の構造はサード・ファスナーやサード・バイトなどと称して区別が行われていた[67]。なお、サード・ファスナーを採用するメーカーの中には、外見上は単一又は二重止めのように見えるが、機関部を開いた際にのみ機関部上部のダボが目視可能な「隠し三重止め(ヒドゥン・サード・バイト、コンシールド・サード・ファスナーとも)」と呼ばれる構造を採用する例も存在していた[68]。
- 人形首(ドールズ・ヘッド)
- グリーナー・クロスボルトの構造からクロスボルト機構を省き、機関部上部にダボのみを残したもの。閉鎖は機関部下部の二重止め機構と、機関部上部のダボの差込により成立するが、機関部上部側のダボの特徴的な形状から、この名称が与えられた。英国のウェストリー・リチャーズにより開発されたが、製造に手間が掛かる上に脱包に不便があったことから、今日ではほとんど採用されていない[66]。
- 複合銃
- 元折式散弾銃のうち、複数ある銃身の一つ又は複数がライフル銃身であるもの。水平又は上下二連銃身の片方がライフルであるものや、水平又は上下二連散弾銃に1本から2本のライフル銃身を配置して三連以上の銃身とするものなどが存在する。ライフル銃身は一般的にスラッグ弾頭で撃ち倒した獲物の止め刺しに用いるため、組み合わされる口径は比較的小口径で装薬量も少ない物が選ばれることが多い。この型式は極めて高価であることが多いため、日本ではほとんど普及していない。
手動連発式散弾銃
2017年現在、日本の銃刀法施行規則及び鳥獣保護法施行規則上は、下記の手動連発式及び半自動散弾銃は弾倉2発、薬室1発の計3発まで装填できるため、狩猟用として広く用いられている。海外では箱型弾倉、管状弾倉共により大容量の替え弾倉や延長弾倉が用意されている場合もあるが、日本国内で所持することは禁じられている。
- ボルトアクション - 日本では村田式散弾銃で親しまれた形式。
- ポンプアクション - レミントンM1100に対するレミントンM870など、半自動式を手掛けるメーカーが平行して手掛けることが多い。
- レバーアクション
半自動散弾銃
日本では1971年(昭和46年)の銃刀法及び鳥獣保護法施行規則改正までは、ブローニング・オート5をはじめとする半自動散弾銃は管状弾倉に4発まで装填可能であったため、薬室の1発と合わせて5連発であり、水平二連や上下二連に対して自動五連銃と呼ばれた[69]。米国では反動利用式が主流であった1960年代中ごろまでは管状弾倉を延長し、5連発以上に改造[注釈 21]して鳥猟を行うことが当たり前であったが、1918年(大正7年)に米連邦法として施行された1918年連邦渡り鳥条約法(連邦鳥類規正法、MBTA)に基づき、第二次世界大戦後に合衆国魚類野生生物局は狩猟で用いる半自動散弾銃の最大装填数を3発まで[注釈 22]と規定し、連邦各州も次第にこの規制に基づく州法を適用していった[70]。日本は1970年(昭和45年)にMBTAを基にした日米間条約である渡り鳥条約に批准し、翌1971年(昭和46年)に銃刀法及び鳥獣保護法施行規則を改正する形で半自動散弾銃の弾倉装填数を最大3発に規制。この時、従来の自動五連銃は銃砲店などで装填数減少のための改造を施すよう通達が行われ[71]、その後最大2発の現行法に至るまで同様の措置が行われた。なお、米国では護身のために半自動散弾銃やポンプアクション式散弾銃を所持する者も多いことから、銃器メーカーの多くは管状弾倉内に弾倉を分解しなければ取外し不能な樹脂製のプラグを挿入したり[72]、管状弾倉に横からピンを打ち込むなどの方法[73]で装填数を制限して出荷しており、狩猟銃として用いない場合には装填制限を所有者の任意で解除することが許容されているのが現状であるが、狩猟・有害鳥獣駆除・標的射撃以外の用途で散弾銃を使用することが許されていない日本では、制限を解除する行為は銃刀法及び武器等製造法違反であり、銃刀法第13条に基づき年に一度行われる銃砲全国一斉検査[74]や、大日本猟友会が所轄する狩猟指導員による猟場の巡回指導などによってこうした違法改造に対する厳しい監視体制が敷かれている。そのため、豊和工業など一部の国産メーカーでは国内向け仕様において弾倉そのものを短縮して制限の解除自体を行えない対策を施す例も見受けられた。
- 反動利用式(ロングリコイル、銃身後退式)
- 発射の反動を直接利用して銃身を後退させ、その作用で遊底も同時に後退させることで排莢と次弾装填を行う形式。初期の自動散弾銃で採用されていた形式であるが、装弾を変更してもガスピストンの調整により容易に回転の調整が可能なガス圧利用式の普及によって現在では少数派となっている。この形式の超高級品としては、イタリアのコスミ・アメリコ・アンド・フィグリオが、中折開閉の反動利用式オートを製造している。
- ガス圧利用式(ガス・オペレーテッド、ガスオート)
- 発射の際のガス圧を銃身からガスピストンに誘導して遊底を後退させ、排莢と次弾装填を行う形式。現在の自動散弾銃で主流となっている形式であるが、散弾重量によって火薬量が異なる散弾銃装弾独特の事情により、初期の物は装弾の不適合によって回転不良を起こす場合が多かった。現在では各メーカーが独自のガスピストンを開発し、軽装弾から重装弾まで特に機関部の調整なしに回転することを謳っている銃も多いが、銃の整備状態による作動の可否や、装弾メーカーによる銃との相性は依然存在するため、使用の際には十分な銃の整備と弾の選定が必要である。
- イナーシャ・オペレーション(慣性利用方式)
- ベネリ社の自動散弾銃で採用されている形式。発射の反動を利用して銃身を少量後退させ遊底に内蔵した反発スプリングを圧縮、この反発スプリングの反発により遊底を後退させ排莢と次弾装填を行う。ロングリコイルの一種とも言える形式であるが、反発スプリングを内蔵した独自の遊底構造によって、高速な回転速度と多種多様な装弾への対応を両立している。
- なお、イナーシャ・オペレーションに類似した「遊底に可動式のボルトフェイスを設け、反動を利用して機関部を回転させる」半自動連発機構は、1900年代初頭にスイスのシェーグレン散弾銃(スジョーグレン散弾銃とも)や、ドイツのラインメタル半自動散弾銃[75]が存在しており、戦前の日本にごく少数輸入された記録が残る。両者とも銃身は固定式なのがイナーシャ・オペレーションとの違いで、前者は「機構が未完成であるが、試験的に販売する」という触れ込みで信頼性に乏しく、後者にいたっては陸軍技術本部に持ち込まれて研究が行われるも、当時の日本人銃工や大日本帝國陸軍の技術将兵達にはついに回転の理屈が理解できなかったという曰く付きの代物で、ブローニング・オート5が持て囃された戦前の日本では全く定着せず[76]、銃身後退の要素をベネリが導入するまでは双方とも忘れ去られた存在になっていた。
その他
- 替え銃身
- 本来その散弾銃が持っている銃身とは別の銃身長やチョーク、薬室長を持つ交換用銃身のこと。日本の銃器行政上は「一挺の許可銃に付随してn本の替え銃身が存在する」という形で所持許可証に記載され、所有者の意向により替え銃身の本数を追加または削除して記載変更することも可能となっている。一般的には銃身交換が容易な半自動式やポンプアクションにオプション品やアフターマーケット品として設定されることが多いが、構造上テイクダウンが可能な全ての散弾銃に設定が可能な概念であり、元折二連散弾銃においても銃器メーカーによっては同一の銃身長ながらも複数の番径の銃身をセットにした商品が設定されている場合もある。元折二連散弾銃は機関部と銃身の間に厳密な摺り合わせ加工が必要とされるため、同一メーカーの同一モデル間であっても廃棄銃から銃身のみを替え銃身として転用することは容易ではなく、ほとんどは銃器メーカーにより販売時点で「複数銃身セット」という形で出荷されている。
- スラッグ銃身
- スラッグ弾を撃つために作られた銃身で、銃身交換が容易な半自動式やポンプアクション向けに設定されていることが多い。全長は短めで細かな調整が可能なアイアンサイトが装着されており、銃口は平筒か改良平筒が殆どである。メーカーによっては散弾銃身より銃身が肉厚に作られていることもある。一般的には滑腔銃身であることが多いが、米国の銃身メーカーであるハスティング社がパラドックス・フルライフル銃身を発売したことで、日本でも後述のハーフライフル銃身が規定として定められることになった。
- ハーフライフル銃身
- 狩猟用銃を中心に、主にサボット弾を発射する目的で銃身にライフリングが刻まれたものがラインナップされているが、日本の銃刀法上は散弾銃に認められるライフリングは銃身長の1/2までとされているため[注釈 23]、輸入銃において本国ではライフル銃身(フルライフル銃身)として販売されているものであっても、このような形態に加工をしなければならない。ライフリングを短縮する後加工を施す場合、銃口側にライフリングを残す「先残し」と、薬室側にライフリングを残す「後残し」と呼ばれる手法のいずれかが用いられるが、銃刀法上は特別な規定は明記されていない。一般的には後残しの方がスラッグ弾の弾道特性が良好になるとされている。
- なお、日本の銃刀法上は、ボルトアクションや元折散弾銃などで銃身交換が容易に行えず、事実上サボット弾しか発射できない構造のハーフライフル銃はライフル銃及び散弾銃以外の猟銃として、一般の散弾銃とはやや異なる取扱い[注釈 24]を受けることになる。銃身交換が容易な構造で、替え銃身の登録により散弾実包の発射も可能な状態となっている自動散弾銃などはこの規定には該当せず、散弾銃として区分が行われる。
- リブ(樋鉄)
- 銃身の上部に蝋付けで取り付けられた平鉄板。銃口を目標に向けた後、樋鉄が目線に対して水平となるように頬付けすることで目標に対する照準が「ある程度」合わせられる仕組みで、実弾を発射するライフル銃ほど厳密な目当て(照準合わせ)を必要としない散弾を発射する散弾銃ならではの機構である[77]。そのため、散弾銃でも実弾の発射に特化したスラッグ銃身やハーフライフル銃身には樋鉄が取り付けられていないことが多い。樋鉄は厳密にはそれ単独で照準が成立できる機構であるが、銃口を目標に向ける際の視認性を向上する目的で樋鉄先端に照星(先目当)、樋鉄の水平取りを行う際の視認性を向上する目的で樋鉄の中間部分に中間照星が取り付けられていることも多く[78]、樋鉄を挟む形で取り付けるファイバー・オプティックサイトやスコープマウント、果てはウェーバー・レール・マウントなどのピカティニー・レールも存在しており、樋鉄はレール・システム (銃器)の構成部品の一つとしても活用されている。一般的に樋鉄の上面には日光の乱反射を防ぐ目的で、様々な意匠の艶消し加工[79]が施されていること(光線除樋鉄、マテッド・リブ)が多いが、かつては安価なモデルではこの加工が施されていないもの(プレーンリブ)も存在した。
- 樋鉄は通常、銃身に対して高さが平行な形状のもの(フラットリブ)が取り付けられるが、一般的により幅広(ワイドリブ)で、より嵩高(ハイリブ)のものほどクレー射撃には適しているとされているため、銃身に対して高さが徐々に隆起していく形状(ライズリブ)や、段階的に高さが変化する形状(ステップド・リブ)といったものも用いられている[78]。嵩の高い樋鉄の場合、中実の鉄板(ソリッドリブ)を用いると重量が嵩むことや、多数の発射で銃身と共に過熱して陽炎が立ち上りやすくなることから、橋脚や櫛のような多数の支柱を設けて樋鉄全体を銃身より浮かせることで放熱性を向上させたもの(ベンチレーテッド・リブ、ベンチリブ)が採用されることが多い。しかし、嵩が高いベンチリブは目当てが容易な反面、外部からの衝撃で変形しやすいという弱点も存在しているため、狩猟用銃身では強度の高さと軽量さの両立を狙った中空素材のソリッドリブが用いられることも多く、この傾向は「嵩高なリブは頬付けが正確にできない故に目線が高い射手(ヘッドアップ)の象徴」と蔑視された米国の伝統的な狩猟者の間でより顕著であった[80]。
- なお水平二連銃の場合、左右銃身の接合部分が単身銃や上下二連における後付けの樋鉄と同じ役割を果たすため、「リブ無し銃身」という概念が存在しない。したがって、「マテッド・リブを装備した水平二連銃」というと、「半円形の断面形状を呈する左右銃身の接合部分に直接艶消し加工を施したもの」と、上下二連などと同様に「左右銃身の接合部分上に平型断面の光線避樋鉄を後付けしてあるもの」の2種類が存在することになる。日本においてはミロク製水平二連を多種ラインナップしていたKFCでは、マテッド・リブは前者のタイプを「樋型光線避」、後者のタイプを「平型光線避」または「光線避樋鉄」と分類していた[81]。水平二連における樋鉄の後付けは、英国のE.J.チャーチル[82]により20世紀前半頃から始められ、その後ドイツなどの欧州諸国や米国に水平二連が広まる過程で主流の方式として定着した[83]。そのため、水平二連における後付け樋鉄でも特に平型のものはチャーチル・リブ[84]と呼ばれることがあり、これに対してそれ以前より存在したリブ無しの水平二連やこれに準じた半円形の断面形状を持つ嵩高な後付け樋鉄のことをスワンプド・リブ[85]やコンカーブ・リブ[83]、あるいは英国式[83]などと呼称して区分するようになった。
- ペアー・ガン
- 全長、重量その他の諸元が全く同じ2挺以上の散弾銃を1つのセットとしたもの。貴族社会であった欧州の狩猟用水平二連散弾銃で設定される概念で、射手であるハンター(王族・貴族などの富裕層)に装填手(従者、召使い)が随行し、ペアー・ガンを用いて射撃と装填を分担することで、二丁拳銃や長篠の戦いの三段撃ちのように高速度で多数の射撃が行えるようになる。なお、ペアとなったそれぞれの銃には番号が割り振られて打刻・象嵌されており、ガンケースもペアー・ガンを収納するための専用品が誂えられるため、ペアを分断・散逸させてしまうとその価値が大きく毀損されてしまうとされる。英国などの老舗銃器メーカーでは創業以来の製造銃器の諸元がシリアルナンバー毎に子細に残されているケースがあり、この場合は現に所有しているその銃器メーカーの散弾銃を持ち込んで依頼を行うことで、元来単一のものや、ペアが散逸した散弾銃をペアー・ガンとして作り直すことも可能となっている[86]。
- 半自動式散弾銃やポンプアクションなど弾倉を持つ散弾銃が登場すると、ペアー・ガンの概念は下火となり一部の高級品に見られるのみとなったが、これらの弾倉付散弾銃においてもギネス世界記録のクレー射撃部門など、制限時間内に可能な限り多くの射撃を行う必要がある競技の際には、複数挺の弾倉付散弾銃を予め用意した上で射手と装填手の役割を分担して競技に臨むケースが存在する[87]。
- ただし、いずれのケースにおいても銃器の所持許可の制度上、所有者以外の人間が他人の銃を手に取ることが許されない日本では、概念として成立し得ない形態でもある。
- 水中発射器
- 英語でパワーヘッドやバングスティック(bang stick)と呼ばれる猟具の一種で、サメやワニなどの危険な水中生物に対して用いられる。持ち手の一端に薬室が取り付けられ、安全装置を解除した状態で薬室先端を標的に強く押し付けると撃発が行われ、発射口が標的に密着した状態で銃弾が発射される。弾薬としては散弾装弾のほか、拳銃実包やライフル実包を使う製品も存在する。構造上単発であり、また水中で使う場合は弾薬に防水処置を施しておく必要がある。
- ブリーチ式
- マスケット銃やライフルド・マスケットをブリーチローダーに改造したスナイドル銃や、トラップドア・スプリングフィールドなどの蝶番式小銃は、元々散弾銃の24番に近い58口径という大口径が用いられていたため、19世紀後半にボルトアクションに置き換えられた際にバックショットを発砲するための散弾銃代わりに用いられていたことがあり、今日でもデビッド・ペデルソリやA.ウベルティなどにより410番などのレプリカ散弾銃として製造が続けられている。
- 二連散弾銃では、フランスのダルヌ (銃器メーカー)が銃身が固定式で、ブリーチが後方にスライドすることで薬室の開閉を行う水平二連を製造している。
注釈
- ^ 1855年、水戸藩の銃工により創始された阪場銃砲製造所を前身とする。SKBはSaKaBaの略字である。1980年に一度倒産、翌年、銃器製造部門が笠間市の地元企業の合同出資の元で新SKBとして再編された。
- ^ "ニッコー"ブランドを展開。後に販売部門がニッコーアームズ、製造部門が米国ウインチェスター社と合弁でオリン晃電社となり、ウインチェスター散弾銃のOEMなどを行っていたが、1980年に破綻。ニッコーブランドでの展開は1981年までで終了し、オリン晃電社は1985年にオーケー工業への商号変更を経て1991年までウインチェスターのOEMを継続した。
- ^ 昭和40年代中期に豊和工業の傘下に入り、1990年代中期に豊和の散弾銃事業撤退によりブランド消滅
- ^ SKBの商標自体は2017年現在も米国ネブラスカ州オマハのGuns Unlimited社が保有している。2010年代初頭には旧新SKB工業より買収した設計図などを元に、新SKB時代のモデルの復活生産の可能性を模索したが、欧州では価格面で受託製造が可能な銃器メーカーが現れずこれを断念。2017年現在は、OEM供給元をトルコのアクダス社とアクス社の2社に変更し、両者の散弾銃をバッジエンジニアリングする形でSKBブランドでの販売を継続している。
- ^ アメリカ合衆国では、潜水採食性カモ類の17%以上が鉛中毒被害に陥っているとする統計がある。また、日本では、1985年2月にコハクチョウの死体が発見されたのが最初の発見例とされている。1990年には、美唄市宮島沼で、ハクチョウ類18羽・マガン69羽などの大量死が発生している
- ^ アメリカ合衆国に生息するハクトウワシは、中毒死した水鳥や弱った水鳥を経由して鉛を摂取し、1960年以降だけでも少なくとも144羽が鉛中毒で死亡したとされている
- ^ 明治天皇が愛用した散弾銃は、ドライゼ銃で知られるヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼと、その息子フランツ・フォン・ドライゼにより創業されたドライゼ武器工場(Waffenfabrik von Dreyse、1901年にラインメタルに吸収合併)製の12番有鶏頭サイドロック水平二連で、後の陸軍元帥である大山巌により欧州留学の際に発注され、帰国の折に献上されたものであった。なおドライゼ武器工場では銃身が水平方向に開閉する独特な元折散弾銃も手掛けていたが、明治天皇の散弾銃は一般的な上下開閉型の元折式である。
- ^ 当時の日本は食肉産業や畜産業の未成熟から、マタギなどの職業狩人や庶民にとって狩猟は趣味ではなく、生活の糧の一つという位置付けであった。
- ^ 森繁、三船、三橋は映画人ガンクラブ以来のメンバーでもあった。
- ^ 日本では今村銃砲店がこの改造を請け負っている。
- ^ 銃用雷管も日本独自の「村田1号規格雷管」を使用する。現在では昭和金属工業がはやぶさ雷管としてこの規格の雷管の市場供給を続けている。
- ^ なお雷管は真鍮薬莢とは異なり「エレー規格中型雷管」を使用した。これは現在の209規格雷管とほぼ同じものである。
- ^ 日本固有の事情として、平成12年以降わな猟での「止め矢」が公式に解禁されてからは、射殺の際の肉の破損を最小限に留めるために止め矢専用銃としてこの口径が用いられることが多い。
- ^ バードショット・バックショット散弾は世界各国で寸法や号数表記がまちまちであるが、ここでは日本での流通量が多いアメリカ規格を中心に記述する。
- ^ 着弾の弾痕からキーホールとも呼ばれることもある。
- ^ ディスカーディング・サボットの概念自体は、APDSやAPFSDSとも共通しており、その英語名称にも単語として含まれている。
- ^ 真鍮薬莢では散弾を装填した後に、オーバーショットカードと呼ばれる紙蓋を莢口に被せるか、散弾表面に蝋を垂らして莢口付近のみを固めることで散弾の脱落を防止する処置が行われるため、後者の脱落防止策を選択した場合には仮に散弾全体を蝋で固めてしまっても外見で判別することは困難である。
- ^ 但しルール上1つのクレーに1発しか撃てないアメリカントラップでは元折単身型の競技銃、3つのクレーを同時に射撃するトリプルトラップでは狩猟用の自動散弾銃やポンプアクション散弾銃が用いられる。
- ^ 海外では自然環境の中にクレー放出機を置き、文字通り「フィールドを歩きながらクレーを撃つ」スタイルが楽しめる射撃場が存在するが、日本では単に通常のトラップ・スキート射撃場で公式競技とは異なる距離の射台からクレーを撃つスタイルが大半である。
- ^ ただし、日本の銃関連法規上は競技銃も狩猟用銃も全て一律に「狩猟銃」として規定されている。
- ^ 日本でも戦前の1938年(昭和13年)の津山事件にて、9連発に改造されたブローニング・オート5が凶器として用いられるなど、猟銃の改造手段として一定程度の認知はされていた。
- ^ 当初は弾倉のみ3発まで、つまり薬室を含めると4連発までは許容されうると解釈されていたが、後に薬室を含めた最大装填数が3発までと解釈が変更され、2018年現在は弾倉2発・薬室1発の3連発銃までが米国内で合法的に使用可能な狩猟用散弾銃とされている。
- ^ この規定は、明治時代に軍用の村田銃を民間へ放出した際に施した銃身への加工が根拠となっている。
- ^ 銃刀法の技能講習において、クレー射撃ではなくライフル銃と同じく静的射撃を行う。
- ^ 現状、夜明け前に他県の猟場などに向かうといった事例の場合、「共同管理場所」を事実上24時間営業にしなければ対応が不可能である。共同管理化により日常の分解整備や挙銃練習などが困難となり、現時点でも自分の所持する銃の分解整備法や操作法の理解が薄く、銃検査の際の事故が後を絶たない実情がさらに悪化する懸念もある。なお、各県毎に個々人の平均所持挺数がまちまちの個人零細の銃砲店に地域全ての狩猟銃を管理させるのは用地的な無理が非常に大きい。先台のみの共同管理案も、特に上下・水平二連銃などで全く同じ銃種でも互換性がない作りの先台が多い現状では、管理の際の紛失や引き渡しの際の取り違えによるトラブルの多発などかなりの困難が予想される。
- ^ 個人情報の保護に関する法律施行以降は、銃砲店や猟友会が警察に名簿照会を依頼することも事実上不可能となり、年に一度所轄署で行われる「銃検査」の会場に帯同して来訪した所持者に入会を勧める程度の対応しかできないのが現状である。
出典
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