場の量子論 場と粒子

場の量子論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/01 02:40 UTC 版)

場と粒子

場は時空間のあらゆるところで定義され、波動を引き起こす能力がある[3]。空間全域に広がる場がエネルギーを得て振動すると、粒子のように振る舞う[4]。現代物理学における粒子とは、エネルギーが局在化している状態[5]波束)、または場に付随するエネルギー量子[3]のことである。

場の量子論ではこのように粒子を広く捉えることで、以下のような特徴[3]を持つ粒子を場の立場から考えている。

  • 各瞬間で局在しており、数えられる。
  • 生成・消滅し、粒子数は変化する。粒子は必ずしも安定ではない。
  • 1個の粒子はスピンを持つ。
  • 物質を構成する粒子と力を伝達する粒子の2種類に分けられる。
  • 反粒子が存在する。

成立史

背景

ジェームズ・クラーク・マクスウェル古典電磁気学では、粒子(荷電粒子)が場(電磁場)を生み、場が粒子に力を与える。これは、場の理論の最初の定式化である。

原型

1927年から1928年、ポール・ディラックによる古典電磁気学の量子化、オスカル・クラインパスクアル・ヨルダンユージン・ウィグナーおよびウラジミール・フォックによる生成消滅演算子が形成され、場の量子論の原型をヴェルナー・ハイゼンベルクヴォルフガング・パウリが創った。

ハイゼンベルクは、場において粒子が力を伝えるという見解を打ち出した。これが湯川の強い力(中間子)、フェルミの弱い力(電子)の元となる。しかし、湯川が提唱した強い力のモデルに対しては、ハイゼンベルクやボーアは否定的であった。

相対論的共変・繰り込み

ハイゼンベルクおよびパウリらが作った原型は相対論を満たすが、相対論的共変形式を満たさなかった。1943年、朝永振一郎が超多時間理論でこれを解決する。これは1932年にポール・ディラックが提唱した多時間理論(相互作用をしている電子一つ一つに独立な時間を与える)の電子の生成・消滅を含まないという欠点を改めたものである。また、リチャード・ファインマン経路積分を完成し、またジュリアン・シュウィンガーもこの問題を独立に解決する。

ゲージ理論

ゲージ理論の概念は、1918年のヘルマン・ワイルのアイデアに端を発する。ワイルは時空点ごとに「ゲージ」(ものさし)を与え、時空点が変わっても理論が変わらないようラグランジアンを決める(ゲージは一種の自由度で、理論不変なようにゲージ自由度を与える)ことを要求し、電磁場の導出を試みたが、実験と合わなかった。1927年、フリッツ・ロンドンは、長さを位相に変え、ゲージ理論の有効性を証明した。

1954年、楊振寧およびロバート・ミルズはゲージ対称性を非アーベル群に拡張した理論を定式化した(非可換ゲージ理論)。(ヴォルフガング・パウリ内山龍雄も独立して同様の理論を発見している。発表が遅れたため、パウリや内山らは非可換ゲージ理論の発見者と見なされない。)内山龍雄重力場を含む形に拡張した(このため、ヤン=ミルズ=内山理論と呼ぶ人もいる)。この非可換ゲージ理論は、後に量子色力学ワインバーグ=サラム理論を定式化する際に用いられた。

クォーク模型

1964年、マレー・ゲルマンユヴァル・ネーマンおよびジョージ・ツワイクにより独立にクォーク模型が見出された。この原型は坂田昌一による坂田模型と、そのフレーバー変換を群論形式で記述する方法を確立した大貫義郎らによるIOO理論SU(3)である。(これはクォーク模型の原型における対称性を群論で記述した最初の事例であり、素粒子論の核で群論を使う以後の流れを決定づける。

量子力学での群論の最初は、ヘルマン・ワイル1927年である。原子スペクトルの対称性を記述[6]。また、1939年、ユージン・ウィグナー原子核をSU(4) で記述する[7]。しかしこれは素粒子論の核での使用ではなかった。これらは、素粒子の基本構造に迫るものではなく、素粒子研究で注目を浴びなかった。

自発的対称性の破れ

ゲージ理論では、ゲージ対称性を満たす場合、必然的にゲージ場の質量がゼロになる。しかし、光子を除く現実の粒子は質量を持ち、質量が力の及ぶ範囲を決める。1964年、これを救ったのが、ピーター・ヒッグスらのヒッグス機構で、南部陽一郎自発的対称性の破れを使い解決した。

自発的対称性の破れの概念は、ハイゼンベルクが強磁性体モデルにおけるスピンのSU(2)回転対称性について論じたのが始まりとされる。1960年に南部は、超伝導BCS理論をヒントに対称性の自発的破れの概念を場の量子論において定式化した。[8][9]

量子色力学・ワインバーグサラム理論

量子電磁力学 (QED) は可換ゲージ理論である。一方、量子色力学 (QCD) およびワインバーグ=サラム理論は非可換ゲージ理論である。量子色力学は3つの場のからみ合いであり、ゲージも3×3の行列となり、QEDの可換ゲージから、非可換ゲージにかわる。

弱い力と電磁相互作用は、1967年、場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式のワインバーグ=サラム理論により統一される。

強い力は、クォーク模型の完成後、1971年にヘーラルト・トホーフトの非可換ゲージの繰り込み可能性の証明を経て、1973年に繰り込み群を使ったデイビッド・グロスらによって場の量子論の枠組みで非可換ゲージ形式の量子色力学 (QCD) が完成する。

理論の詳細

場の量子化

量子力学では古典的に書き下した運動方程式を元に、位置や運動量を非可換な行列ないしは演算子と考える事で、量子論の描像を得る。これを正準量子化と呼ぶ。場の量子論では同様の方法を、場という物理量に対し適用する。これにより、時空間上の位置をパラメーターとして持つ場の演算子が得られる。

特に自由場の理論(場同士が一切相互作用しない理論)において、この方法で定義された演算子の各振動数モードは、独立した調和振動子とみなす事ができる。この系の量子的なふるまいは生成消滅演算子によって記述される。

摂動論と繰り込み

正準量子化によって厳密な場の時間発展を記述できるのは、自由場など少数の例に限定される。量子電磁力学のような複雑な理論を扱うには通常、摂動論の考え方を用いる。これは相互作用描像などを用いて、相互作用のある場の時間発展を自由場の演算子の積に展開する方法である。

場の量子論における演算子積の計算は、仮想粒子を含む多数の項を、運動量保存や対称性などを考慮してまとめあげる、かなり煩雑なものとなる。これを視覚的に表すツールとしてファインマンダイアグラムがある。

また、摂動計算では仮想粒子の取りうる運動量すべてを積分する必要があり、これによって計算結果が無限大に発散する紫外発散の問題が起こる。この問題への処方として繰り込みが用いられる。

非摂動論的な方法

摂動論は相互作用が弱い事を仮定した議論であり、結合定数の強い領域には上手く適用できない。特に量子色力学の低エネルギー領域においては、カイラル対称性の破れなどの物理について摂動論では議論する事ができない。そのため、以下に示すような非摂動論的な方法も、並行して用いられる。


  1. ^ 清水明『新版 量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―』サイエンス社、2004年。ISBN 4-7819-1062-9 
  2. ^ 新井朝雄「場の量子論の数理 : Mathematical Aspects of Quantum Field Theory」応用物理, Vol3, No.4, P.292-306 (1993).
  3. ^ a b c 長島順清『素粒子物理学の基礎I』朝倉書店〈朝倉物理学大系〉、2002年。ISBN 4-254-13673-0 
  4. ^ 吉田伸夫『素粒子論はなぜわかりにくいのか~場の考え方を理解する』技術評論社、2013年。ISBN 978-4774161310 
  5. ^ 坂本眞人『場の量子論-普遍性と自由場を中心として-』裳華房〈量子力学選書〉、2014年。ISBN 978-4785325114 
  6. ^ Wigner Biography Archived 2011年9月23日, at the Wayback Machine.
  7. ^ Ann. of Math. (2) 40 (1939), 149-204
  8. ^ 南部理論と物性物理学
  9. ^ Symmetry and Symmetry Breaking


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