名古屋市電葵町線 名古屋市電葵町線の概要

名古屋市電葵町線

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/29 00:03 UTC 版)

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葵町線・山口町線
概要
現況 廃止
起終点 葵町線起点:新栄町電停
葵町線終点:平田町電停
山口町線起点:平田町電停
山口町線終点:赤塚電停
駅数 3駅(葵町線)
2駅(山口町線)
運営
開業 1915年11月4日(葵町線)
1919年4月16日(山口町線)
市営化 1922年8月1日
廃止 1970年4月1日(葵町線)
1971年2月1日(山口町線)
所有者 名古屋電気鉄道
名古屋市交通局名古屋市電
路線諸元
路線総延長 1.1km (葵町線)
0.5km (山口町線)
軌間 1,067 mm (3 ft 6 in)
電化 直流600 V 架空電車線方式
路線図(1961年)
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路線概略図 
0.0 新栄町電停
公園線
栄町線
葵町線
名市交:東山線新栄町駅
0.5 布池町電停
1.1
0.0
平田町電停 東片端線
山口町線
0.5 赤塚電停 高岳線

名古屋電気鉄道によって建設された路線で、葵町線は1915年大正4年)、山口町線は1919年(大正8年)に開業。1922年(大正11年)に市営化され、名古屋市電気局(1945年以降交通局)の運営となった。廃止は葵町線が1970年昭和45年)、山口町線が翌1971年(昭和46年)である。

路線概況

全長は葵町線が1.058キロメートル、山口町線が0.517キロメートル(1962年3月末時点)[1]。全線が複線かつ併用軌道であった[1][2]

葵町線の起点新栄町停留場は、南北方向の名古屋市道と東西方向の広小路通愛知県道60号名古屋長久手線)が交差する新栄町交差点に設置されていた[3]。この停留場は葵町線に栄町線公園線を加えた市電3路線が集まる場所で[4]、東西方向の広小路通に栄町線、南へ伸びる市道に公園線が通り、北へ伸びる市道にこの葵町線が走っていた[3][4]。新栄町では東西の栄町線と南北の葵町線・公園線が平面交差しており、栄町線の東側(今池方面)と公園線(鶴舞公園方面)を結ぶ連絡線も存在した[2]

市電葵町線が通る市道の西側には、太平洋戦争後の戦災復興計画によって新設された幅員50メートルの幹線道路(広路11号葵町線。国道153号ないし国道19号)が並行しており、市電が通る道路は戦後裏道と化していた[5]。50メートル道路の国道19号や外堀通(市道外堀相生町線)が集まる地点が平田町(へいでんちょう)交差点で、ここに葵町線の終点平田町停留場が設置されていた[3]。新栄町と同様に3本の市電路線が集まる地点で、葵町線と山口町線、東片端線が接続する[4]。山口町線は国道19号を北北東へ、東片端線は外堀通を西へ進んでおり[3][4]、平田町では3つの路線それぞれからどの路線にも直通できる三角形状の配線とされていた[2]

平田町を起点とする山口町線は起点の次が終点赤塚停留場という短い路線である[4]。赤塚停留場は国道19号と出来町通(愛知県道215号田籾名古屋線)が交差する赤塚交差点に位置した[3]。この間の道路は1965年(昭和40年)ごろに50メートル道路へと拡張されている[6]。交差する出来町通には市電高岳線が東西方向に走行しており[3][4]、山口町線は東に折れて高岳線の大曽根方面に合流していた[2]。なお路線名にある「山口町」を称する停留場は、高岳線を赤塚から大曽根方面へ1つ進んだ場所にある[4]

歴史

開業

名古屋市内のうち葵町線沿線にあたる葵町・布池町・平田町(現在の東区代官町徳川)といった地域は、江戸時代には名古屋城城下町の一角にあたる武家町(武家屋敷地)であった土地で[7]、明治に入ってからは住宅地に姿を変えていた[8]。また山口町線沿線の赤塚町は北東の大曽根とともに名古屋城下から中山道へ通ずる下街道沿いの町として栄えた地にあたる[9]。これらの町を含む城下町北部の地域は、明治時代になっても道路の改良がなされず、交通が不便なままであった[10]。明治末期になると名古屋市により5本の幹線道路整備を整備する計画がまとめられ、1913年(大正2年)に愛知県より道路改修の許可が下りる[10]。そしてまもなく平田町から布池町にかけて幅員8(14.5メートル)の道路「葵町線」が整備され、その延長線上の布池町から広小路新栄町角までの既設私道も拡張・整備された[11]

道路建設の一方、路面電車整備は1898年(明治31年)より名古屋電気鉄道によって始められた[12]1903年(明治36年)には路線が千種まで到達し(栄町線[12]新栄町付近にも電車が通るようになった[4]。大正時代に入ると栄町線の北側にあたる地域でも路線建設が進められ、1913年(大正2年)からの2年間で5つの路線が相次いで開業した[13]。葵町線はこの時期に建設された路線の一つであり[13]、1912年(明治45年)7月23日付で新栄町 - 布池町間、1914年9月16日付で布池町 - 平田町間の軌道敷設特許が下り[14]1915年(大正4年)11月4日、新栄町停留場から布池町停留場を経て平田町停留場に至る1.06キロメートルがまとめて開通した[15][4]。このとき平田町で接続する東片端線も開業している[4]

平田町の北に位置する赤塚には西回りの高岳線が1915年3月に開通した[4]。同年2月20日付で名古屋電気鉄道に平田町から赤塚(特許地点名は山口町)までの軌道敷設特許が下りる[16]1917年(大正6年)12月ごろに平田町から山口町までの市道が幅員8間半(15.5メートル)に拡張され[17]1919年(大正8年)4月16日に平田町停留場から赤塚停留場に至る山口町線が開業をみた[18][4]

市営化とその後

1922年(大正11年)8月1日、名古屋電気鉄道市内線を名古屋市が買収・市営化し名古屋市電気局(後の交通局)が引き継いだことで名古屋市電が成立した[19]。これにより葵町線・山口町線は名古屋市電の路線となっている。

市営化後、1922年12月に運転系統の改訂が実施され、葵町線には行幸線明道橋(後の明道町)から平田町・新栄町を経て御黒門線門前町(後の大須)に至る系統、山口町線には線内で完結する平田町 - 赤塚間の系統が設定された[20]。明道橋 - 門前町間の系統は路線延伸に伴い1924年(大正13年)3月より名古屋駅前を発着する循環系統となり[21]、以後太平洋戦争後の一時期を除いて廃線まで運転が続けられた[22]。また平田町 - 赤塚間折り返しの系統は1926年(大正15年)4月改正で葵町線・高岳線直通の系統に改められている(当初の設定区間は岩井町線水主町 - 大曽根間)[23]

1953年(昭和28年)12月30日、平田町連絡線(延長54メートル)が開業した[1]。これに伴い東片端線・山口町線・高岳線という経路で運行される系統も出現した(下記#運転系統参照)。

廃止

名古屋市電は1950年代末に路線網・輸送人員ともに最盛期を迎えたが、1961年(昭和36年)には市営地下鉄の建設と引き替えに1985年(昭和60年)までにおおむね撤去するという方針が国の都市交通審議会で示された[24]。その上、事業の大幅な赤字化や市営バスの急速な拡大、自動車の普及による交通事情の変化など市電を取り巻く環境が変化したことから、1965年(昭和40年)3月、市交通局は地下鉄建設推進・バスの拡充とその一方での市電の段階的廃止を盛り込んだ「名古屋市交通事業の5カ年計画」を発表する[24]。同計画では1969年度までの5年間で廃止すべきとして7線区計23.3キロメートルを取り上げており、その中で葵町線および公園線の平田町 - 鶴舞公園間は1969年度に廃止すべき路線とされた[25]。廃止の理由は、別途バスを運行することで十分輸送できるためとされている[25]。同区間は1970年(昭和45年)4月1日付で廃止された[26][4]

葵町線廃止に先立つ1967年1月、市交通局は先の5カ年計画を延長した「交通事業の長期計画」を策定して1975年度までの市電全廃を決定し、さらに翌1968年(昭和43年)12月には市電全廃の時期を1973年度に前倒しした[24]。市電全廃決定後、1971年(昭和46年)2月1日付で明道町線菊井町から御成通線上飯田までの廃線に伴い山口町線も廃止となった[27][4]

路線名と区間について

路線名について見ると、平田町 - 赤塚間(山口町線)開業前の1917年末時点では新栄町 - 平田町間の1.060キロメートルを「葵町線」と称していた(新栄町 - 門前町間は「公園線」)が[28]、赤塚開業後の1919年末時点では赤塚 - 門前町間の4.710キロメートルをまとめて「公園線」と称する[29]。1922年8月の名古屋市電成立時も同様に赤塚 - 門前町間が「公園線」とされていた[30]

市営化後の1923年末時点では、「葵町線」は新栄町 - 平田町間の1.057キロメートルとなり、平田町 - 赤塚間の0.517キロメートルは「山口町線」となった[31]。しかし3年後の1926年末時点では、「葵町線」は新栄町 - 赤塚間の1.575キロメートルを指しており山口町線という路線名はなくなっている[32]

戦後、1952年(昭和27年)の時点では引き続き新栄町 - 赤塚間の1.575キロメートルを「葵町線」と称する[33]。しかし1962年3月末時点では前述のとおり新栄町 - 平田町間の1.058キロメートルは「葵町線」、平田町 - 赤塚間の0.517キロメートルは「山口町線」である[1]


  1. ^ a b c d 『交通事業成績調書』昭和36年度63-68頁
  2. ^ a b c d 『名古屋市電が走った街今昔』18-19頁(「名古屋市電全線路線図」)
  3. ^ a b c d e f g 位置は『名古屋市全商工住宅案内図帳』住宅地図・1965年)に基づく。道路名・交差点名は『ゼンリン住宅地図』(2016年)および名古屋市緑政土木局路政部道路利活用課「名古屋市道路認定図」(2016年8月26日閲覧)から補記。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n 『日本鉄道旅行地図帳』7号24・54-61頁
  5. ^ a b 『名古屋市電(中)』34頁
  6. ^ 『名古屋市電(中)』45頁
  7. ^ 『角川日本地名大辞典』23 68・1036・1193頁
  8. ^ 『東区史』63頁
  9. ^ 『東区史』189-190頁
  10. ^ a b 『名古屋都市計画史』上巻299-307頁
  11. ^ 『名古屋都市計画史』上巻310-311頁
  12. ^ a b 『名古屋市電(上)』4-7頁
  13. ^ a b 『名古屋鉄道社史』72頁
  14. ^ 『名古屋鉄道社史』730・734頁(巻末年表)
  15. ^ 『市営五十年史』585頁(巻末年表)
  16. ^ 『電気軌道事業買収顛末』68頁
  17. ^ 『名古屋都市計画史』上巻320-321頁
  18. ^ 『市営五十年史』587頁(巻末年表)
  19. ^ 『名古屋市電(上)』7-8頁
  20. ^ 『市営十年』61-62頁および巻頭「電車運転系統図(市営当初)」
  21. ^ 『市営十年』62-63頁
  22. ^ 『名古屋市電(上)』39頁
  23. ^ 『市営三十年史』後編95・98頁
  24. ^ a b c 『名古屋市電(上)』14-19頁
  25. ^ a b 『名古屋市交通事業の5カ年計画』7-9頁
  26. ^ 『市営五十年史』648頁
  27. ^ 『市営五十年史』650頁
  28. ^ 『名古屋市統計書』第19回、1919年、290頁。NDLJP:974459/199
  29. ^ 『名古屋市統計書』第21回、1921年、293頁。NDLJP:974460/198
  30. ^ 『電気軌道事業買収顛末』62頁
  31. ^ 『名古屋市統計書』第25回、1925年。NDLJP:974482/10
  32. ^ 『名古屋市統計書』第28回、1928年。NDLJP:1466302/212
  33. ^ 『市営三十年史』後編34頁
  34. ^ a b c 『日本鉄道旅行地図帳』7号58頁
  35. ^ 位置は『名古屋市全商工住宅案内図帳』(住宅地図・1965年)
  36. ^ 『市営十五年』、「電車運転系統図」による
  37. ^ 『市営三十年史』、「電車運転系統図昭和27年3月現在」および後編133-135頁
  38. ^ 『名古屋市電(上)』28頁
  39. ^ 『名古屋市電(中)』8頁
  40. ^ 『名古屋市電(中)』10頁
  41. ^ 『名古屋市電(中)』20頁
  42. ^ 『名古屋市電(中)』38頁
  43. ^ 『昭和34年度乗客交通調査集計書 (I)』、「路面電車終日乗車人員路線図表」「路面電車終日降車人員路線図表」「路面電車終日通過人員路線図表」ほか
  44. ^ 『昭和41年度乗客交通調査集計書 (I)』、「路面電車終日乗車人員路線図表」「路面電車終日降車人員路線図表」「路面電車終日通過人員路線図表」ほか


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