ラッコの保護活動 カムチャッカ近郊

ラッコの保護活動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/17 02:11 UTC 版)

カムチャッカ近郊

19世紀より以前、千島列島には20,000 - 25,000頭のラッコが住み、カムチャッカ半島コマンドルスキー諸島にも多く住んでいた。「大いなる狩猟(Great Hunt)」以後は、この地域に住むラッコはわずか750頭となっていた[13]2004年現在、かつての生息地全域でラッコが見られるようになり、27,000頭にまでなった。このうち、約19,000頭が千島列島に住み、2000から3500頭がカムチャッカ半島に、5,000から5,500頭がコマンドルスキー諸島に住んでいる[13]。ここに来て増加はわずかに遅くなり、ほぼ環境収容力に達したものと見られる[13]。ロシアでのラッコ生息数の復活成功は、広範囲かつ長期間の保護によるものであり、島からの人間の移住が大きく影響している[13]

アラスカ

1930年代、アラスカのアリューシャン列島プリンス・ウィリアム湾の辺りにラッコの生息地に適した土地が発見された。アムチトカ島のラッコ生息地は禁猟区に指定され、個体数が増加した[14]1960年代半ば、アムチトカ島は核実験に使用され、ラッコを数多く殺すことになった。1968年アメリカ原子力委員会は大規模核実験を前にして、数百頭の動物を他の場所に移すことを決めた。それを受けて1960年代、ラッコは700頭が移され、その経験から科学者達は動物を安全によそに移す方法を学んだ[15]1973年、アラスカのラッコ頭数は、100,000から125,000頭に上ると推定されている[16]

ラッコの豊かな毛皮のせいで、かつては大規模な狩猟の的となり、今は油流出の被害を受けやすくなっている。

アリューシャン列島の衰弱

ここ数十年で、西アラスカアリューシャン諸島のラッコ頭数は急落している。1980年代、この地域に住むラッコは55,000 - 100,000頭いたが、2000年には6,000頭にまで減った[17]。この理由として、反論も多いが、シャチによる捕食によるものとする説がある。この説を裏付ける証拠としては周囲の状況がある。まず、頭数が減少するような病気や飢えが発生していた形跡がない[17]。そして、減少が大きかったのはシャチがたびたび観察される地域であり、のようにシャチがいないところでは減少が少なかった[18]

アラスカに生息するシャチの種の中には海洋哺乳類を好んで食べる種類がある。そのようなシャチは、アザラシアシカ、小型のクジラコククジラの子供などを食べる。ラッコは小型で毛が多いので、シャチにとってあまり魅力が無いエサだが、クジラに比べてシャチの頭数が多いことが、何千ものラッコがシャチに捕食されたことの証拠の一つに挙げられる。

"sequential megafauna collapse"(大型生物の連鎖崩壊)と呼ばれる理論によると、シャチがラッコの捕食を始めたのは、かつてエサとしていた動物が減ってしまったことによる。つまりこの理論では、大型クジラが1960年代の商業捕鯨で減少してしまい、そのためシャチはゼニガタアザラシトドの捕食を始めたために1970年代から1980年代にはそれらも減少し、ついにはより小型の動物がシャチのエサとなってしまった、と説明する[19]。ただし、ラッコの減少がシャチの捕食によるものかどうかの結論は出ておらず、直接それを証明する証拠は出ていない[18]

エクソンバルディーズ号原油流出事故により、油の厚い膜がプリンス・ウィリアム湾を覆った。

エクソンバルディーズ号原油流出事故

1989年エクソンバルディーズ号原油流出事故により、プリンス・ウィリアム湾のラッコは壊滅的な打撃を受けた。油にまみれた1000頭ものラッコの死骸が見つかっており[20]、実際の被害はこの何倍にも上ると見られている[6]。2,000頭から6,000頭が死亡したと見られている。それでも、350頭ほどは救出され、5ヶ月ほどの間リハビリを受けている[21]。精神安定の治療を受け、毛皮を洗い、手入れを受けた。油を飲んだラッコに対しては、活性炭が投与された。もっとも手当てを受けた350頭のうち助かったのは200頭ほどであり、多くは放された後に死んでしまっている[21]。この事故で救われたラッコの数は少なかったが、油の被害にあったラッコの治療法が進歩したのがせめてもの救いである。エクソン・バルディーズ号原油流出信託評議会による2006年の報告書によると、ラッコはこの事故の影響を未だに受けている種のひとつとされている[22]

現在の状況

2006年現在、アラスカには73,000頭のラッコがいると見られている。2005年夏、アメリカの絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(絶滅危惧種法)により、ラッコは「西南アラスカ地域個体群」のうちの「絶滅危惧種」に認定されている[23]。1年以上後、アリゾナに本拠を置く生物多様性センターは、米国魚類野生生物局 (United States Fish and Wildlife Serviceに対し、同局が絶滅危惧種法に定められた「生息地の保護」を行わなかったとして、訴訟を起こしている[24]

ブリティッシュコロンビア、ワシントン、オレゴン

1969年から1972年にかけて、89頭のラッコが流されて、あるいは運ばれて、カナダブリティッシュコロンビア州バンクーバー島西海岸に来ていた。それが順調に増えて、あるいは人間の保護を受けて、2004年には3,000頭以上となり、生息地も同島のトフィーノ (enからケープ・ スコット州立公園 (enにまで広がっている[25]。しかしながら、ラッコを人工的に保護することについて、カナダの先住民族であるファースト・ネーションの意見を調べていなかった。人工的に移されたラッコは、生態系をかつての姿に改善した。しかし、ラッコが甲殻類やウニを捕食したため、地元の先住民族はラッコの復活をよく思わなかった[26]

1989年、ブリティッシュコロンビア海岸の中央部に、ラッコの生息地域が発見された。2004年に300頭が確認されている。この生息地域は、他の生息地域とは孤立しており、ここに住むラッコが人工移植したラッコが流れ住んだものなのか、あるいはかつての狩猟の生き残りであるのかはよく分かっていない[25]。ラッコはカナダでは絶滅危惧種法(SARA)で保護されている[27]。ただし2007年4月、カナダ野生動物絶滅危惧種の現況委員会 (enは、この地域でのラッコの繁殖力が強いことを考慮して、SARA法の中での位置づけを「絶滅危惧種」(threatened)から「特別懸念種」(special concern)に格下げした[28]

1969年1970年に59頭のラッコがアムチトカ島からワシントン州に移され、2000年には504頭、2004年には743頭が確認されている[8]。同州は1981年、ラッコを絶滅危惧種 (endangered species) に指定している[8]1970年代、93頭のラッコがオレゴン州の海岸に移されたが、1980年代初頭にはいなくなっている。逃げたのか死んだのかは分かっていない[15]


  1. ^ VanBlaricom, p. 53
  2. ^ Nickerson, pp. 47-48
  3. ^ VanBlaricom p. 69
  4. ^ Estes (2000). "Enhydra lutris". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2006. International Union for Conservation of Nature. 2006年5月11日閲覧
  5. ^ a b c Sea otter AquaFact file”. en:Vancouver Aquarium Marine Science Centre. 2007年12月5日閲覧。
  6. ^ a b Reitherman, Bruce (Producer and photographer) (1993). Waddlers and Paddlers: A Sea Otter Story - Warm Hearts & Cold Water (Documentary). U.S.A.: PBS.
  7. ^ Sea Otter”. British Columbia Ministry of Environment, Lands and Parks (1993年10月). 2008年2月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月13日閲覧。
  8. ^ a b c Final Washington State Sea Otter Recovery Plan”. Washington Department of Fish and Wildlife. 2007年11月29日閲覧。
  9. ^ National Marine Sanctuary Frequently Asked Questions
  10. ^ Ecoscenario: Monterey Bay National Marine Sanctuary Archived 2011年4月10日, at the Wayback Machine.
  11. ^ City of Monterey | Harbor | Monterey Bay National Marine Sanctuary
  12. ^ Olympic Coast National Marine Sanctuary History
  13. ^ a b c d Kornev S.I., Korneva S.M. (2004) Population dynamics and present status of sea otters (Enhydra lutris) of the Kuril Islands and southern Kamchatka. Marine Mammals of the Holarctic, Proceedings of 2004 conference. p. 273-278.
  14. ^ Silverstein, p. 43
  15. ^ a b Silverstein, p. 44
  16. ^ Nickerson, p. 46
  17. ^ a b Aleutian Sea Otter population falls 70% in eight years”. CNN (2000年7月6日). 2006年5月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月4日閲覧。
  18. ^ a b Schrope, Mark (15 February 2007). “Food chains: Killer in the kelp”. Nature 445: 703–705. doi:10.1038/445703a. http://naturereprints.com/nature/journal/v445/n7129/full/445703a.html. 
  19. ^ Chanut, Françoise (2005年5月9日). “Lacking a decent meal, killer whales reach for the popcorn”. Currents online. カリフォルニア大学サンタクルーズ校. 2007年12月4日閲覧。
  20. ^ a b Sea Otters at Risk”. Monterey Bay Aquarium. 2008年5月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年12月5日閲覧。
  21. ^ a b Silverstein, p. 55
  22. ^ “Damage of Exxon Valdez endures”. Associated Press. (2007年1月31日). http://www.usatoday.com/news/nation/2007-01-31-exxon-alaska_x.htm 2001年12月25日閲覧。 
  23. ^ Sea Otters – Southwest Alaska Sea Otter Recovery Team (SWAKSORT)”. U.S. Fish and Wildlife Service – Alaska. 2008年2月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年1月15日閲覧。
  24. ^ Pemberton, Mary (Tuesday, December 19, 2006; 10:27 PM). “Lawsuit Seeks to Sheild (sic) Alaska Sea Otter”. The Washington Post. http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/12/19/AR2006121901355.html 2008年1月5日閲覧。 
  25. ^ a b Barrett-Lennard, Lance (2004年10月20日). “British Columbia: Sea Otter Research Expedition”. Vancouver Aquarium. 2007年12月11日閲覧。
  26. ^ Okerlund, Lana (2007年10月4日). “Too Many Sea Otters?”. 2007年1月15日閲覧。
  27. ^ Aquatic Species at Risk - Species Profile - Sea Otter”. 水産海洋省 (カナダ). 2007年11月29日閲覧。
  28. ^ Okerlund, Lana (2007年10月5日). “Taking Aim at Otters”. 2007年1月15日閲覧。
  29. ^ Silverstein, p. 41
  30. ^ a b c d e Kreuder, C. et al (2003). “Patterns of Mortality in Southern Sea Otters (Enhydra Lutris Nereis) from 1998 - 2001”. Journal of Wildlife Diseases 39 (3): 495–509. 
  31. ^ Sea Otters: Species Description”. Alaska SeaLife Center. 2007年1月15日閲覧。
  32. ^ a b c Leff, Lisa (2007年6月15日). “California otters rebound, but remain at risk”. Associated Press. http://www.mailtribune.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20070615/LIFE/706150317 2007年12月25日閲覧。 
  33. ^ “Balance sought in sea otter conflict”. CNN. (1999年3月24日). オリジナルの2001年4月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20010424094953/http://www.cnn.com/NATURE/9903/24/otters.enn/ 2008年1月25日閲覧。 
  34. ^ VanBlaricom, p. 62
  35. ^ “Parasite in cats killing sea otters”. NOAA magazine (NOAA). (2003年1月21日). http://www.magazine.noaa.gov/stories/mag72.htm 2007年11月24日閲覧。 
  36. ^ “Monterey Bay’s sea otter sleuth”. Via Magazine. http://www.viamagazine.com/top_stories/articles/seaotter_savior07.asp 2007年12月5日閲覧。 





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ラッコの保護活動」の関連用語

ラッコの保護活動のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ラッコの保護活動のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのラッコの保護活動 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS