ラッコの保護活動 ラッコの保護活動の概要

ラッコの保護活動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/19 02:22 UTC 版)

オリンピック海岸国立海洋保護区 (Olympic Coast National Marine Sanctuaryのラッコは1969年、1970年にアラスカから移されたものである。

その後20世紀の間に、ラッコの個体数はロシア極東部、西アラスカ、カリフォルニアの生き残りから増加した。1960年代からは、かつてラッコが生息した地域への人工的移動も進められ、北アメリカ西海岸に広く分布させることに成功した。その他にも若干だが成功した地域もあり、ラッコ保護活動は、海洋生物の保護活動 (Marine conservationとして最も成功した事業の1つと考えられている[1]

ところが近年、ラッコ生息地域として重要な2箇所で、ラッコの個体数の増加が止まり、あるいは減少が起こっている。アリューシャン列島ではここ数十年間で、大きく減少している。その原因は不明確であるが、ラッコ頭数の変化は、捕食者であるシャチ頭数の増加と傾向が似ている。1990年代、カリフォルニアでは、アラスカとは別の原因で増加が止まった。ラッコの成獣の伝染病罹患率が高まったためである。カリフォルニアのラッコがなぜ病気にかかりやすいのかは分かっていない。その他、ラッコは石油流出による汚染にも非常に弱く、その被害も報告されている。国際自然保護連合(IUCN)は、ラッコを絶滅危惧種に指定している。

背景

ラッコの個体数の増加は、絶滅間際からの回復として、海洋生物の保護として、最も成功を収めた事業の一つである。

ラッコ (Enhydra lutris) は北太平洋沿岸、すなわち北日本、千島列島、カムチャッカ半島東部、アリューシャン列島、北アメリカ、メキシコに亘って生息する海洋哺乳類 (marine mammalである。動物界の中では最も厚い毛皮を持つ。1741年から1911年の間、毛皮採取を目的としたラッコの捕獲が大流行し(「大いなる狩猟、Great Hunt」と呼ばれる)、この期間に全世界の個体数が1,000 - 2,000に激減した。それ以後、先住民による限定的な狩猟を除いて、商業狩猟のほとんどが禁止された。

ラッコは、ウニ軟体動物甲殻類、数種類の魚類を捕食する。ラッコは、その大きさに比べて活動範囲が狭いため、エサとして欠かせない種が存在する。具体的にはウニ類である。ウニは海草の森 (kelp forestを食い荒らし、沿岸侵食の原因となっている。ラッコは生態学的にこれを防ぐ役割を担っており、さらにはその愛らしさと行動の面白さのため、人々の間で種を保護し、生息範囲を拡大する努力がなされてきた。ただし、ラッコは、人間にとっても重要なアワビカニハマグリといった魚介類も捕食する。そのため、漁業団体、レクレーション団体、海岸で自給する人々から、ラッコ保護活動に対する反対運動が起こることもあり、漁師の中には法を犯してラッコを殺すこともあった[2]

ラッコの分布地域は、現在の所、不連続である。オレゴン州北カリフォルニアなどの地域には生息していない。メキシコや北日本ではしばしば目撃されるようになってきている。ラッコは人工飼育が可能なため、40以上の公共水族館動物園で人気を集めている[3]

ラッコは保温のため毛皮を清潔に保たなければならない。石油流出による汚染があると、毛づくろいの時に油を吸ってしまう。

保護問題

IUCNは、ラッコにとって大きく脅威となるのは、石油汚染 (Oil spillシャチによる捕食、密猟漁業の影響であると分析している。漁具に巻き込まれると、溺れることもある[4]。たとえ悪意が無くても、人が近くから観察することがストレスとなることもある。ラッコにとって最も大きな脅威は石油流出である[5]。ラッコは体温を毛皮で保っている。毛皮が油で濡れると毛の間の空気が抜けてしまうので、低体温症になって死んでしまう[5]。毛づくろいをしたり海水を飲んだりした際に体内に油が吸収されると、肝臓腎臓も損傷を受ける[5]

ラッコの行動範囲は狭いため、カリフォルニア、ワシントン、ブリティッシュコロンビア州などで大きな石油流出事故が発生すると、壊滅的な被害をもたらす[6][7][8]。これらの地域での石油流出防止とラッコ救済の準備をすることが、ラッコの個体数や生息範囲を増やすのに非常に重要である。

海洋保護地域 (Marine Protected Areaは、不法投棄や石油採掘が禁止されているため、ラッコの良好な生息地となっている[9][10]モントレー湾国立動物保護地区 (Monterey Bay National Marine Sanctuaryには1,200以上[11]、オリンピック海岸国立海洋保護区 (Olympic Coast National Marine Sanctuaryには500以上が生息している[12]

関連地図 1-カムチャッカ半島, 2-アムチトカ島, 3-プリンス・ウィリアム湾, 4-バンクーバー島, 5-ビッグ・サー

  1. ^ VanBlaricom, p. 53
  2. ^ Nickerson, pp. 47-48
  3. ^ VanBlaricom p. 69
  4. ^ Estes (2000). "Enhydra lutris". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2006. International Union for Conservation of Nature. 2006年5月11日閲覧
  5. ^ a b c Sea otter AquaFact file”. en:Vancouver Aquarium Marine Science Centre. 2007年12月5日閲覧。
  6. ^ a b Reitherman, Bruce (Producer and photographer). Waddlers and Paddlers: A Sea Otter Story - Warm Hearts & Cold Water (Documentary). U.S.A.: PBS 
  7. ^ Sea Otter”. British Columbia Ministry of Environment, Lands and Parks (1993年10月). 2008年2月16日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年12月13日閲覧。
  8. ^ a b c Final Washington State Sea Otter Recovery Plan”. Washington Department of Fish and Wildlife. 2007年11月29日閲覧。
  9. ^ National Marine Sanctuary Frequently Asked Questions
  10. ^ Ecoscenario: Monterey Bay National Marine Sanctuary Archived 2011年4月10日, at the Wayback Machine.
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  12. ^ Olympic Coast National Marine Sanctuary History
  13. ^ a b c d Kornev S.I., Korneva S.M. (2004) Population dynamics and present status of sea otters (Enhydra lutris) of the Kuril Islands and southern Kamchatka. Marine Mammals of the Holarctic, Proceedings of 2004 conference. p. 273-278.
  14. ^ Silverstein, p. 43
  15. ^ a b Silverstein, p. 44
  16. ^ Nickerson, p. 46
  17. ^ a b Aleutian Sea Otter population falls 70% in eight years”. CNN (2000年7月6日). 2006年5月23日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年12月4日閲覧。
  18. ^ a b Schrope, Mark (15 February 2007). “Food chains: Killer in the kelp”. Nature 445: 703–705. doi:10.1038/445703a. http://naturereprints.com/nature/journal/v445/n7129/full/445703a.html. 
  19. ^ Chanut, Françoise (2005年5月9日). “Lacking a decent meal, killer whales reach for the popcorn”. Currents online. カリフォルニア大学サンタクルーズ校. 2007年12月4日閲覧。
  20. ^ a b Sea Otters at Risk”. Monterey Bay Aquarium. 2008年5月18日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年12月5日閲覧。
  21. ^ a b Silverstein, p. 55
  22. ^ “Damage of Exxon Valdez endures”. Associated Press. (2007年1月31日). http://www.usatoday.com/news/nation/2007-01-31-exxon-alaska_x.htm 2001年12月25日閲覧。 
  23. ^ Sea Otters – Southwest Alaska Sea Otter Recovery Team (SWAKSORT)”. U.S. Fish and Wildlife Service – Alaska. 2008年2月6日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2008年1月15日閲覧。
  24. ^ Pemberton, Mary (Tuesday, December 19, 2006; 10:27 PM). “Lawsuit Seeks to Sheild (sic) Alaska Sea Otter”. The Washington Post. http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/12/19/AR2006121901355.html 2008年1月5日閲覧。 
  25. ^ a b Barrett-Lennard, Lance (2004年10月20日). “British Columbia: Sea Otter Research Expedition”. Vancouver Aquarium. 2007年12月11日閲覧。
  26. ^ Okerlund, Lana (2007年10月4日). “Too Many Sea Otters?”. 2007年1月15日閲覧。
  27. ^ Aquatic Species at Risk - Species Profile - Sea Otter”. 水産海洋省 (カナダ). 2007年11月29日閲覧。
  28. ^ Okerlund, Lana (2007年10月5日). “Taking Aim at Otters”. 2007年1月15日閲覧。
  29. ^ Silverstein, p. 41
  30. ^ a b c d e Kreuder, C. et al (2003). “Patterns of Mortality in Southern Sea Otters (Enhydra Lutris Nereis) from 1998 - 2001”. Journal of Wildlife Diseases 39 (3): 495–509. 
  31. ^ Sea Otters: Species Description”. Alaska SeaLife Center. 2007年1月15日閲覧。
  32. ^ a b c Leff, Lisa (2007年6月15日). “California otters rebound, but remain at risk”. Associated Press. http://www.mailtribune.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20070615/LIFE/706150317 2007年12月25日閲覧。 
  33. ^ “Balance sought in sea otter conflict”. CNN. (1999年3月24日). オリジナルの2001年4月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20010424094953/http://www.cnn.com/NATURE/9903/24/otters.enn/ 2008年1月25日閲覧。 
  34. ^ VanBlaricom, p. 62
  35. ^ “Parasite in cats killing sea otters”. NOAA magazine (NOAA). (2003年1月21日). http://www.magazine.noaa.gov/stories/mag72.htm 2007年11月24日閲覧。 
  36. ^ “Monterey Bay’s sea otter sleuth”. Via Magazine. http://www.viamagazine.com/top_stories/articles/seaotter_savior07.asp 2007年12月5日閲覧。 


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