トゲバンレイシ 人間との関わり

トゲバンレイシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/10 02:45 UTC 版)

人間との関わり

栽培

トゲバンレイシの果実は食用とされており、世界中の熱帯域で広く栽培されている。トゲバンレイシは、人間によって新世界から旧世界へ初めて移入された熱帯作物の1つとされる[5]。果実生産は多くはなく、1本の木あたり1年に1-20個(それぞれ重さは平均1キログラム以上)である[5]。栽培においては、人工授粉することで結実良好になり、果実の形が整う[5][4]

トゲバンレイシは、種子によって増やす。種子の発芽能はすぐに低下するため(6ヶ月)、果実から収穫した後に早く播種する必要がある[8]。新しい種子であれば、発芽率は85-90%に達する[8]

病虫害としては炭疽病(Colletrotrichia)、青枯病(Pseudomonas)、黒斑病(Phytophthora)、白斑病(Cercospora)、果実腐敗(Gliocladium)、さび病(Phakopsora)、コバチBephrata, Bephratelloides)、Cerconota, Thecla)、カメムシAmblypelta)、ミバエカイガラムシハダニなどが知られている[8]

トゲバンレイシの大きな果実と酸味、チェリモヤの芳香と甘みを組み合わせた品種作出のため両種の交雑が行われているが、トゲバンレイシとチェリモヤ、またはバンレイシギュウシンリなどとの交雑はいずれも成功していない(2008年現在)[8]。これは、トゲバンレイシが、食用となるバンレイシ属の他種と遺伝的に遠縁であるためであると考えられている[8]

インドネシアフィリピンでは、酸味が強い系統と甘みが強い系統が存在し、後者は種子が少ない[8]

食用

収穫された果実は3-5日後に完熟し、冷蔵でもその後2-3日しか保存できない[5]。また果皮は柔らかく、傷つきやすい[5]。これらの理由のため、トゲバンレイシの利用はふつう産地周辺に限られ、また大規模な産業とはなっていない[5]

トゲバンレイシの香りは、「イチゴパイナップルの組み合わせに、バナナココナッツを思わせる下にあるクリーミーな香りと対照的な酸っぱい柑橘系の香りが加わった物」とされることがある[要出典]。甘味とさわやかな酸味があり、果汁が非常に多い[要出典]。サワーソップ(soursop)の名は、酸味があることに由来する[5]。そのまま生食、または加工してシャーベットアイスクリームゼリージャム清涼飲料や発酵飲料とされる[2][5][9][10](下図3a-c)。インドネシアでは、果肉を煮て砂糖と混ぜて甘いケーキ(dodol sirsak)とする[5]フィリピンでは、若い果物を野菜として利用することがある[5]

3a. 露店でのトゲバンレイシ(コロンビア
3b. トゲバンレイシのジュース(右から2番目)
3c. トゲバンレイシのワイン

薬用

トゲバンレイシの種子樹皮果実民間薬として利用されることがある。インドジャマイカハイチブラジルペルーなどでは、発熱、神経過敏、潰瘍、腎臓症、痙攣に対して用いられ、また寄生虫駆除剤や強壮剤中絶薬とされることがある[5]。また種子は殺虫剤収斂剤、魚毒として用いられることもある[5]

健康へのリスク

トゲバンレイシなどバンレイシ科の植物はアセトゲニンの1種であるアンノナシンイソキノリンアルカロイドを含んでおり、これが人間の健康に悪影響を与える可能性がある。西インド諸島の一部では非定型パーキンソン症候群が頻発することが知られているが、これがトゲバンレイシの摂取と関係がある可能性が示されている[5][11][12][13][14][15]

英国がん研究所英語版によれば、トゲバンレイシはTriamazonという商品名で売られている未認可ハーブ薬の成分である[16]。Triamazonは医薬品として認可されておらず、あるイギリスの業者は、その製品を販売したことで、未認可医薬品の販売など4つの訴因で有罪判決を受けた[17]

名称

トゲバンレイシは、英名(soursop)に基づいてサワーソップ[3]やシャシャップ[2][18]、ササップ[4]とよばれることがある。その他に英名では graviola や prickly custard apple ともよばれる[5]

スペイン語では guanábana、guanabana、guanábano、sapote agrio、ポルトガル語ブラジル)では graviolaフランス語では corossolier、フィリピン語ではguayabanoインドネシア語では sirsak、nangka seberang、nangka belanda などとよばれる[5]。これらの現地名に基づいて、日本語でグアナバナ、グラビオラ、グラヴィオーラ、グヤバノ、シルサックなどと表記されることもある[要出典]。またマレーシア語での durian belanda に基づいてオランダドリアンともよばれる[4]


  1. ^ a b Annona muricata”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年8月25日閲覧。
  2. ^ a b c d トゲバンレイシ(刺蕃茘枝). コトバンクより2022年8月26日閲覧
  3. ^ a b 植田邦彦 (1997). “バンレイシ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. pp. 100-107. ISBN 9784023800106 
  4. ^ a b c d e f g 保有熱帯果樹遺伝資源. 国際農林水産業研究センター. (2019). https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/publication/manual_guideline/manual_guideline62-_-.pdf 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as Annona muricata”. Invasive Species Compendium. CABI. 2022年8月26日閲覧。
  6. ^ a b c 岸本修 (1989). “Annona”. In 堀田満ほか. 世界有用植物事典. 平凡社. pp. 92-93. ISBN 9784582115055 
  7. ^ a b c d e f g h i Flora of China Editorial Committee. “Annona muricata”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年8月26日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h Janick, J. & Paull, R. E., ed (2008). “Annona muricata”. The Encyclopedia of Fruit & Nuts. CABI. pp. 44-46. ISBN 9780851996387 
  9. ^ バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント (監修) 山本紀夫 (監訳) (2010). 世界の食用植物文化図鑑. 柊風社. p. 91. ISBN 978-4903530352 
  10. ^ 中村三八夫 (1978). “トゲバンレイシ”. 世界果樹図説. 農業図書. pp. 68–70. ASIN B000J8K81E 
  11. ^ Lannuzel, A., Michel, P. P., Höglinger, G. U., Champy, P., Jousset, A., Medja, F., ... & Ruberg, M. (2003). “The mitochondrial complex I inhibitor annonacin is toxic to mesencephalic dopaminergic neurons by impairment of energy metabolism”. Neuroscience 121 (2): 287-296. doi:10.1016/S0306-4522(03)00441-X. 
  12. ^ Champy, P., Melot, A., Guérineau Eng, V., Gleye, C., Fall, D., Höglinger, G. U., ... & Hocquemiller, R. (2005). “Quantification of acetogenins in Annona muricata linked to atypical parkinsonism in Guadeloupe”. Movement Disorders 20 (12): 1629-1633. doi:10.1002/mds.20632. 
  13. ^ Lannuzel, A., Höglinger, G. U., Champy, P., Michel, P. P., Hirsch, E. C., & Ruberg, M. (2006). “Is atypical parkinsonism in the Caribbean caused by the consumption of Annonacae?”. Parkinson's Disease and Related Disorders 70: 153-157. doi:10.1007/978-3-211-45295-0_24. 
  14. ^ Caparros-Lefebvre, D. & Elbaz, A. (1999). “Possible relation of atypical parkinsonism in the French West Indies with consumption of tropical plants: a case-control study”. The Lancet 354 (9175): 281-286. doi:10.1016/S0140-6736(98)10166-6. 
  15. ^ フランス食品衛生安全庁(AFSSA)、コロソル(Annona muricata L.)及びその調製品のリスクについて意見書を提出”. 食品安全関係情報データベース. 内閣府 (2010年4月28日). 2022年8月23日閲覧。
  16. ^ BriefingWire, Can Graviola cure cancer?, Cancer Research UK
  17. ^ Messenger Newspapers, 29th September 2010
  18. ^ 鈴木創、鈴木直子「小笠原諸島におけるオガサワラオオコウモリの食性」『小笠原研究』第8巻第41号、首都大学東京小笠原研究委員会、2014年、1-11頁。 


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