ズワイガニ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/01 04:08 UTC 版)
食材
冬における味覚の王様として人気が高い。塩茹で、蒸し料理、鍋料理、しゃぶしゃぶ、寿司、刺身、缶詰として食される。肉(身)、カニミソ、卵巣が食される。脱皮直後におけるズワイガニでは淡白な風味を楽しめる。
甲羅に付着する黒い粒子はカニビルの卵であり、寄生虫ではない。脱皮後の時間が長く、身入りが良い証拠と言われる場合がある。しかし、実際はカニビルの卵と身入りの良さに因果関係はない。カニビルの卵が付着していると見た目が良くないため、通販などで販売されるものはたわしなどできれいにとられている場合が多い。一方で、一般に小売りで流通するものは数が多いことから一杯ずつをたわしできれいに取ることが容易ではないため、身入りが良い証拠と言って、そのまま売られているのが実態である。
タラバガニなどの食文化を研究した『カニという道楽』(西日本出版社)の著者である広尾克子によると、1960年代半ばまでは現在のような高級食材ではなかった。干物や塩漬けにして保存できる魚類と違って、ズワイガニは缶詰以外で大消費地へ運べる冷蔵・冷凍物流が十分整備されていなかったためである。水揚げ地近くでは大きなカニは旅館や豪農が仕入れていたものの、メスや小型のカニは安く売買され、子供のおやつや畑の堆肥にされることもあった。転機となったのは1962年に大阪市道頓堀で開店したかに道楽で、創業者の今津芳雄が鍋料理「かにすき」や水に漬けたカニを冷凍物流させる方法を考案した。高度経済成長期もあって大都市圏の消費者にカニ料理が人気となり、日本海側の観光産業もカニを集客の目玉に使うようになった[23]。
観光産業
ズワイガニは人気のある食材であり、名産地へのツアーが商品として扱われる。
地方名・地域ブランド
日本各地にズワイガニの地方名があり、オスとメスでも呼び名が異なる[24][25]。地方での代表的な呼び名にエチゼンガニやマツバガニがある[25]。地方名では山形県などで本種をタラバガニと呼ぶ地域もある[25]。
また、一部の漁港では一定の基準を満たすズワイガニを地域ブランド化する動きもあり、脚に色違いのタグを取り付けられる。一定の基準を満たすものにブランド、漁獲漁船名、所属漁港が明示される。
オス
- ホッカイマツバガニ - ロシア、北海道、青森県、山形県、新潟県、富山県で水揚げされるオスのズワイガニとオスのオオズワイガニとオスのタラバガニ。
- マイセツガニ - 秋田県における男鹿漁港で水揚げされるオスのズワイガニであり、12月25日~2月末日における個体。基準は800g以上で脚が揃っているもの。
- 加能ガニ - 石川県で水揚げされるオスのズワイガニ[24]。名称は公募で決めた。
- 越前ガニ - 福井県で水揚げされるオスのズワイガニ[24]。全国で最初にタグ付けを行った。
- 松葉ガニ - 北近畿、山陰地方で水揚げされるオスのズワイガニ[26]。
府県名 (漁港名) |
地方名・ブランド名 (発祥年代) |
タグ | 経緯等 | 最高級 ブランド |
---|---|---|---|---|
石川県 | 加能ガニ | 青[28] | 公募により2006年11月1日に決定[28]。 | |
福井県 | 越前ガニ (1916年頃)[28] |
黄[28] | 「越前がに」で2007年に地域団体商標[28] | 「極」[29] |
京都府 (間人漁港) |
間人ガニ (1998年頃)[28] |
緑[28] | 間人漁港産のオスのズワイガニ[24]。 2006年に地域団体商標[28]。 |
|
京都府 (舞鶴漁港) |
舞鶴かに (2008年頃)[28] |
緑[28] | 2012年に地域団体商標[28]。 名称は濁らず平仮名で「かに」表記[28]。 |
|
兵庫県 (柴山漁港) |
柴山ガニ (2004年頃)[28] |
桃[28] | 2004年漁期からタグ付けを開始[28] | 柴山ゴールド[28] |
兵庫県 (津居山漁港) |
津居山かに (2001年)[28] |
青[28] | 2001年漁期からタグ付けを開始[28] | |
兵庫県 (浜坂漁港) |
浜坂ガニ (2010年頃)[28] |
青[28] | 漁協では「浜坂産松葉ガニ」で販売[28] | |
鳥取県 | 松葉ガニ (1845年頃)[28] |
白[28] | 「とっとり松葉ガニ」のタグを使用[28] | 「五輝星」[29] |
島根県 | 松葉ガニ | 青[28] | 隠岐諸島のカゴ漁業のものは「隠岐松葉ガニ」のタグを使用[28]。 |
なお、脱皮直後におけるオスのズワイガニはミズガニと呼ばれており[24]、福井県ではズボガニ、鳥取県ではワカマツバガニと呼ばれている[30]。
メス
- コウバコガニ - 石川県におけるメスのズワイガニ[24]。
- セイコガニ - 福井県におけるメスのズワイガニ[24]。
- セコガニ - 兵庫県におけるメスのズワイガニ[24]。
- コッペガニ - 京都府におけるメスのズワイガニ[24]。
- オヤガニ - 鳥取県、島根県におけるメスのズワイガニ[24]。
メスのカニは外子と呼ばれる成熟卵と内子と呼ばれる未成熟の卵を持っており、食材として珍重される[31]。
- ^ a b c d 三宅貞祥『原色日本大型甲殻類図鑑 II』保育社 1983年 ISBN 4586300639
- ^ a b c d 武田正倫、古田晋平、宮永貴幸、田村昭夫、和田年史「日本海南西部鳥取県沿岸およびその周辺に生息するカニ類」『鳥取県立博物館研究報告 48』29-94, March 30, 2011, ISSN 0287-1688
- ^ a b c 水産総合研究センター 『おさかな瓦版 No.2』 2004年12月
- ^ a b 武田正倫ほか『新装版 詳細図鑑 さかなの見分け方』講談社 2002年 ISBN 4062112809
- ^ 加賀料理の一つ。香箱のように小さい、子を抱くメスという子箱、日本海の香りを秘める、など語原は諸説みられる。泉鏡花の『卵塔場の天女』に近江町市場(石川県金沢市)で売られるコウバコガニが登場し、茹でられた真っ赤なカニが並ぶ美しさを 「珊瑚畑に花を培ふ趣がある」と表現されている。
- ^ a b 平成28年度ズワイガニ オホーツク海系群の資源評価 水産庁増殖推進部漁場資源課
- ^ 山崎淳、桑原昭彦「大和堆におけるズワイガニの分布と最終脱皮サイズ」『日本水産学会誌』Vol.59 (1993) No.12 P.1977-1983, doi:10.2331/suisan.59.1977
- ^ 京都府農林水産技術センター海洋センター. “ズワイガニの生態と漁業 - 成熟と産卵(応用編)”. 2011年5月27日閲覧。
- ^ 小金隆之、浜崎活幸、野上欣也「ズワイガニ幼生の生残と発育日数に及ぼす水温の影響」『日本水産学会誌』第71巻第2号、公益社団法人日本水産学会、2005年3月15日、161-164頁、doi:10.2331/suisan.71.161、NAID 110003162894。
- ^ 今攸、安達辰典「若狭湾沖に生息するズワイガニの産卵数」『日本水産学会誌』第72巻第4号、公益社団法人日本水産学会、2006年7月15日、673-680頁、doi:10.2331/suisan.72.673、NAID 110004818347。
- ^ “オオズワイガニ、浦河・様似沖で大発生 カレイ漁に打撃、巨額損害か”. 北海道新聞 (2023年5月30日). 2023年6月23日閲覧。
- ^ 水揚げされる主な魚の紹介 香住ガニ(標準和名:ベニズワイガニ) 但馬漁業協同組合
- ^ 本尾洋『日本海の幸 -エビとカニ-』(あしがら印刷出版部、1999年)60-63頁
- ^ 食材図鑑
- ^ 沖合底びき網漁業とは 水産研究・教育機構 開発調査センター
- ^ ベニズワイガニ漁業 鳥取県
- ^ 平成27年漁期TAC(漁獲可能量)設定に関する意見交換会 (PDF) 水産庁
- ^ ズワイガニ漁業(応用編)京都府
- ^ 山崎淳、宮嶋俊明、藤原邦浩、「京都府沖合における底曳網によるズワイガニ水ガニの入網数とリリース直後の生残率」『日本水産学会誌』Vol.77 (2011) No.3 P.372-380, doi:10.2331/suisan.77.372
- ^ 宮嶋俊明、岩尾敦志、柳下直己、山崎淳「京都府沖合におけるカレイ漁に使用する駆け廻し式底曳網の選別網によるズワイガニの混獲防除」『日本水産学会誌』第73巻第1号、公益社団法人日本水産学会、2007年1月15日、8-17頁、doi:10.2331/suisan.73.8、NAID 110006163730。
- ^ ズワイガニ種苗生産研究 兵庫県立農林水産技術総合センター
- ^ 平成28年漁業・養殖業生産統計
- ^ 広尾克子:高級食材カニ 出世の歩み◇かつては肥料 高度成長期に「かにすき」誕生、産地の努力で変身『日本経済新聞』朝刊2021年1月8日(文化面)同日閲覧
- ^ a b c d e f g h i j 1「ズワイガニ」ってどんなカニ? - 京都府海洋センター
- ^ a b c わが国の水産業 - 日本水産資源保護協会
- ^ マツバガニとズワイガニについての説明 - 鮮魚の産直通販:のん気な魚屋
- ^ “高級なズワイガニのブランド名と地域を知りたい”. 一般社団法人大日本水産会 魚食普及センター. 2024年1月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab “日本海西部におけるズワイガニのブランド名”. 国立研究開発法人水産研究・教育機構. 2024年1月1日閲覧。
- ^ a b c “「新潟県産ズワイガニの価格向上を目指して」-肥満度を使った新しい選別-1”. 新潟県. 2024年1月1日閲覧。
- ^ ズワイガニ - 鳥取県水産試験場
- ^ 石川県漁業協同組合. “香箱ガニ”. 2022年12月30日閲覧。
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