キリストの幕屋 キリストの幕屋の概要

キリストの幕屋

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/18 04:16 UTC 版)

主に二世の満13歳を集め、熊本県阿蘇市にて火渡りや神への祈りなどをさせるバル・ミツワー(ユダヤ教における成人式)なども行う。幕屋結婚といわれる団体内での慣習がある。女性は三つ編みを頭に巻きつけた髪型をしている[1]

データ

1961年(昭和36年)に宗教法人「キリスト聖書塾」として届け出ている(当初は熊本県知事所管、後に文部科学大臣所管の単立宗教法人)。

歴史

原始福音・キリストの幕屋(以下「幕屋」と略称)は、1948年手島郁郎[3]が日本で起こした、無教会運動の1つである[4][注 1]。「幕屋」とは、砂漠に住むイスラエルの民にとっての神が在する移動式の聖所のことである[1]。ミッション系諸教会の厳格な教義や内村鑑三の弟子たちの無教会運動の主知主義にも不満を抱いていた[4]手島は、1948年に自分で独自の運動を始めた。

1949年になると手島は、当初は自身と直弟子の間でのみ行っていた異言神癒などを自身が熊本で主宰していた聖書研究グループの間にも導入するようになった[1]。この事は、無教会運動のグループとの間に全面的な亀裂を生んだ[1]。1950年にグループのメンバーに使徒行伝に書かれたような霊的現象が起こった。後にこの事件は「幕屋ペンテコステ」と呼ばれるようになる[1]。手島は、自分の運動が無教会主義の伝統の1つに連なると主張し続けたが、内村鑑三の後継者たち(矢内原忠雄高橋三郎ら)からは「幕屋」は異端である、無教会主義で特に強調されていた事柄(罪の赦し、キリストの復活、キリストの再臨)から手島は逸脱し、病気治しと異言に心酔している、との理由で批判が続いた[1]。この批判のあと、手島は機関紙『生命之光』の表紙から、無教会主義に関しての言及を取りやめるようになった[1][注 2]。土着化した日本の多くのキリスト教グループと同様に「幕屋」も、自分たちが、救いに至るための唯一のグループであるとまで強い自己主張はしていない[6]

運動の当初、手島は無教会主義の運動に忠実で、ヘブライ語ギリシア語による聖書研究を重視していたが、1961年に初の世界巡礼(インドアメリカ合衆国ギリシアイスラエル)を行って以降、西洋教会よりも、イスラエル、特にそこに在住するユダヤ人を重視するようになりだした[7]。また、手島や「幕屋」の国家主義的傾向はこの頃から強まりだしたようである[8]

イスラエルを訪問した幕屋の巡礼団。
信者の一人が手島郁郎の肖像を掲げている。

手島は翌1962年から、若い弟子たちをイスラエル留学へ送りだし、そこでヘブライ語を学ばせ、キブツでも働かせることを始めた[8]。また、弟子を2人組にして、金も着替えも持たせずに伝道旅行に送りだすようになった[8]。これらは、20世紀末になっても続けられている[8]。手島とイスラエルの関係はその後も強まり、年に1度の聖地巡礼を組織した他、イスラエルの高位聖職者を定期的に「幕屋」の会合に招待したり、日本国内のユダヤ人指導者をもてなすなどした[8]。特に、1967年第3次中東戦争以降、手島はイスラエル国家支援のための数々の活動を行っている[8]

手島が1973年に亡くなった後、「幕屋」は複数の指導者によって運営されるようになった[9]。これらの指導者の中で、最有力人物は手島の後妻である手島千代と目されている[9]。手島の死後彼らは、更にイスラエルとの関係を強化し、キリスト教のユダヤ教的起源をより強調するようになった[8]。例えば、1988年にはエルサレムに幕屋センターを開設し、そこで日本語講座や日本文化講座を設ける、ヘブライ語研究の書籍・資料の出版社の運営、イスラエル学者の文献の翻訳などがあげられる[10]

活動

無教会主義の流れを汲み、旧約・新約聖書に学んでキリスト教の純化を願い、ヘブライ的な「イエス・キリストの原始の福音」に帰るとして「原始福音」と称している。手島は「何も原始福音というものは私の発明ではありませんから、私がお教えするというわけにはいかぬ。これは一人一人キリストの前に跪いて、キリスト御自身から自ら受け取る以外にない」という。また機関誌の巻末に掲げる「我らの信条」に現されている様に日本の伝統的な思想を日本人の先祖の心として尊重する[注 3]

生前、手島は形骸化した教会を批判したりしたが、それは、教会はキリストの体だからこそ、健全な体でいて欲しいという主張であった。また、教会組織ではなく、初代教会のようなキリストの愛によって繋ぎ合わされた有機的教会を目指した。現在も各地に幕屋があり、祈祷会などの集会を持ち、日曜日に地域ごとに集まり集会をする[要出典]

機関紙『生命之光』を毎月、約10数万部発刊している[要出典]誰でも持ち帰れるように、よくガードレールバス停などに吊るされている[要出典]。また、テレビの宗教番組生命之光」がCS衛星放送スカパー!のCh.216 ベターライフチャンネルと110度CSデジタル放送スカパー!e2インターローカルTV194Chで放送されていた。かつては地上波でも放送されていた[要出典]


注釈

  1. ^ 手島郁郎は内村鑑三などに師事していた
  2. ^ ただし、20世紀後半になって再び「幕屋」は、自分たちが無教会主義の1派であると機関紙で主張するようになり出した[5]
  3. ^ 「幕屋」のメンバーがイスラエルユダヤ教に関心を抱くのは日ユ同祖論を支持するからというコメントがしばし見受けられる。[要出典]手島は、渡来系氏族である秦氏、とくに秦河勝と古代ユダヤ人の関係を指摘する佐伯好郎の学説などに興味を抱いている。また、日本書紀に現れる言葉から「八紘一宇」や「高天原の平安」などの語を、自前の賛美歌の歌詞に織り込むなど関心を示している。[要出典]
  4. ^ 教義によれば、啓示は旧約・新約聖書によって完了しており、それ以後の啓示は存在しない。
  5. ^ これらの苦行は、1958年3月の年次総会から、手島によって導入された[18]
  6. ^ 例えば、内村鑑三の無教会運動は、武士道や儒教の影響下にあった。また、松村介石道会陽明学や神道、川合信水基督心宗教団は儒教、仏教、山岳修行、強健術、大槻武二聖イエス会念仏や祖先崇拝、仲原正夫の沖縄キリスト教福音センターでは沖縄シャーマニズムが取り入れられており、西洋の正統教会とは異なったキリスト教になっている[12]
  7. ^ 「幕屋」指導者層の中心とみられる手島千代は、神武天皇が国民の父であり、天意に基づいて国を統治していた、と主張している[21]
  8. ^ 手島千代は、これは、日本国民が誇りを取り戻すための1つの手段だと主張している[21]
  9. ^ ただし、「幕屋」と「つくる会」に呼び込んだのは 藤岡信勝のグループである、という別の証言も存在する[28]
  10. ^ 一例として、1998年(平成10年)の「つくる会」のシンポジウムの時と比べて、2002年開催の戦争論2のシンポジウムの時には、「幕屋」信者の参加者が大きく増えていたという証言がある[32]。 1998年時は「もっといろんな人がいて明るーい感じだった」というが、2002年時には「参加者が明らかに違うって感じ」だったという[32]
  11. ^ ただし、2006年に起きた「つくる会」の内紛で会長が小林正になってからは、「幕屋」よりも統一教会の影響力の方が強まったとも言われている[33]
  12. ^ 第三次中東戦争ではイスラエルに対する多大な物的支援を惜しまず(このためユダヤ基金の「黄金の書」に記されている)、第四次中東戦争では手島が中心となってイスラエル支持のデモを行った
  13. ^ エクレシアとは、家庭運動の意味である[39]

出典

  1. ^ a b c d e f g M.マリンズ『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』トランスビュー、2005年、160頁。ISBN 4-901510-30-4 
  2. ^ a b 原始福音・キリストの幕屋 公益財団法人国際宗教研究所・宗教情報リサーチセンター
  3. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.278.
  4. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.157.
  5. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.167.
  6. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.44.
  7. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.161-162.
  8. ^ a b c d e f g M.マリンズ「キリスト教」p.162.
  9. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.327, 注7.
  10. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.163.
  11. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.69, 158.
  12. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.61.
  13. ^ a b c d e 島崎愛「歴史教科書運動を席巻したキリストの幕屋という保守宗教」『宗教問題』16号 2016年秋季号、合同会社宗教問題」、2016年、79頁、ISBN 978-4-9908526-5-8 
  14. ^ 上杉聰、「日本会議とは何かー『憲法改正』に突き進むカルト集団」、合同出版、2016年、16頁。
  15. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.160-161.
  16. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.163.
  17. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.163-165.
  18. ^ a b c d e f M.マリンズ「キリスト教」p.165.
  19. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.164.
  20. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.165-169.
  21. ^ a b c M.マリンズ「キリスト教」p.168.
  22. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.161.
  23. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.164-165
  24. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」pp.169-169
  25. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.169.
  26. ^ 小熊英二、上野陽子『〈癒し〉のナショナリズム』慶應義塾大学出版会、2003年、94-98頁。ISBN 4-7664-0999-X 
  27. ^ a b c 俵義文『〈つくる会〉分裂と歴史偽造の深層』花伝社、2008年、9頁。ISBN 978-4-7634-0512-8 
  28. ^ a b c d e f 島崎「歴史教科書運動」p.80.
  29. ^ a b c 俵義文『徹底検証 あぶない教科書 「戦争ができる国」をめざす「つくる会」の実態』学習の友社、2001年、174頁。ISBN 4-7617-1216-3 
  30. ^ 小熊・上野「ナショナリズム」p.97.
  31. ^ 小熊・上野「ナショナリズム」pp.97-98.
  32. ^ a b 小熊・上野「ナショナリズム」p.98.
  33. ^ 俵「深層」pp.19-20.
  34. ^ 小熊・上野「ナショナリズム」pp.94-95.
  35. ^ 2008年3月29日(土)「しんぶん赤旗」「キリストの幕屋」とはどんな集団?”. 2015−09−13閲覧。
  36. ^ a b M.マリンズ「キリスト教」p.217.
  37. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.321、注20.
  38. ^ M.マリンズ「キリスト教」pp.321-322.
  39. ^ a b c d M.マリンズ「キリスト教」p.280.
  40. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.194.
  41. ^ M.マリンズ「キリスト教」p.28, p.313, 注53.






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