アセチルサリチル酸 合成法

アセチルサリチル酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/07 22:03 UTC 版)

合成法

アセチルサリチル酸の結晶体。

アセチルサリチル酸は以下の手順で合成される。

フェノールを高温と高圧の下で二酸化炭素水酸化ナトリウムと反応させて、サリチル酸の二ナトリウム塩を合成する。このカルボキシ化はコルベ・シュミット反応 (Kolbe-Schmitt reaction) と呼ばれ、フェノラートアニオンは共鳴効果によりオルト位の求核性が高まり、これが二酸化炭素に対して求核付加反応する。後処理で二ナトリウム塩を希硫酸で中和し、サリチル酸を遊離させる。

このサリチル酸に無水酢酸を作用させてアセチル化し、アセチルサリチル酸を得る。

日本での製品

現在、バイエル薬品株式会社が製造販売する「アスピリン」と、アスピリンに制酸緩衝剤(アルミニウムマグネシウム系)を加えたライオンの「バファリン」、粉末状で胃粘膜保護のため、和漢薬ケイヒ)が加えられた銭湯の広告としても有名な富山めぐみ製薬の「ケロリン」が特に知られており、それぞれ複数の後発医薬品企業から、局方品や後発品相当の製品が発売されている。ここではバイエルのアスピリンについて記載する。

バイエルアスピリン

1錠あたりアセチルサリチル酸500 mg(高用量)を含有するバイエルのシンプルな製品。日本では吉富製薬バイエル薬品を経て2001年10月から明治製菓が、2008年10月からは佐藤製薬が発売している。指定第2類医薬品である。

適応症は、解熱や頭痛・外傷痛など各種の鎮痛。ライオンバファリンAよりも、1錠あたりのアセチルサリチル酸そのものの量が多く、制酸剤を含まない事から、効果そのものは強い。ただし、への負担を軽くする制酸剤を含まないため、使用上の注意に「胃・十二指腸潰瘍を起こしている人」は服用しないようにとの但し書きがある[19]合成ヒドロタルサイトを含むバファリンの場合は、同症状の場合、医師または薬剤師に相談せよとはあるものの、服用してはいけないとは書かれていない[20]

処方箋医薬品

適応外使用で、産婦人科領域などでも抗凝血を目的に使われることがあるが、出産予定日12週以内の妊婦には禁忌である[18]

近年、大腸癌の死亡率低下作用が期待されている[21]

バイアスピリン錠100 mg

1錠あたりアセチルサリチル酸100 mgを含有する処方箋医薬品。低用量のアセチルサリチル酸を投与すると、抗血小板作用が現れることで、日本脳卒中学会・日本循環器学会から、抗血小板剤としての承認・発売要望から、平成11年2月1日付厚生省医薬審第104号通知「適応外使用に係る医療用医薬品の取り扱いについて」[22]の適応条件に本剤が該当すると判断し承認申請、2000年秋に心筋梗塞狭心症、虚血性脳血管障害の血栓塞栓形成抑制の効果で、承認・薬価収載され、2001年1月に発売された。

川崎病に対しても、臨床的に有効かつ安全な治療法であることが実証されていることから、本剤の追加効能として承認事項一部変更承認申請を行ない、その後、日本小児循環器学会から厚生労働省に対して要望書が提出され、2005年に承認、川崎病の治療にも適用が拡大された。

アスピリン「バイエル」(粉末)

乳幼児向けの投薬量が調整しやすいように、新規にアセチルサリチル酸の粉剤を開発し、2006年に発売された。川崎病の治療のほか、バイエルアスピリンと同様の解熱鎮痛にも適用されている。

歴史

フェリックス・ホフマン

ヤナギ鎮痛作用はギリシャ時代から知られていた[23]紀元前400年ごろ、ヒポクラテスはヤナギの樹皮を熱や痛みを軽減するために用い、葉を分娩時の痛みを和らげるために使用していたという記録がある[24][25]

19世紀にはヤナギの木からサリチル酸が分離された。その後、アセチルサリチル酸の出現まではサリチル酸が解熱鎮痛薬として用いられたが、サリチル酸には強い胃腸障害が出るという副作用の問題があった。しかし1897年、バイエル社のフェリックス・ホフマンによりサリチル酸がアセチル化され副作用の少ないアセチルサリチル酸が合成された。

バイエルアスピリンの広告(1904年)ヘロインなども宣伝されている。

アセチルサリチル酸は世界で初めて人工合成された医薬品である。1899年3月6日にバイエル社によって「アスピリン」の商標が登録され発売された。翌1900年には粉末を錠剤化。発売してからわずかな年月で鎮痛薬の一大ブランドに成長し、なかでも米国での台頭はめざましく、20世紀初頭には、全世界のバイエルの売り上げのうち3分の1を占めた。

しかし、第一次世界大戦のドイツの敗戦で連合国によって商標は取り上げられ、1918年、敵国財産没収によりバイエルの「商標」「社名」、そして「社章(バイエルクロス)」までもが競売にかけられた。この時から76年間、1994年にバイエルが全ての権利を買い戻すまで、米国ではバイエル社製のアスピリンは姿を消すが、しかしこの間もアスピリンは権利を買い取ったスターリング社によって製造される。その商品名には「バイエルアスピリン」がそのまま使われ、しかもバイエルクロス付きで売られ続けた。「バイエルアスピリン」というブランドがいかに人々の信頼を得ていたかを示すエピソードのひとつであったとも言える。

第一次世界大戦後のアメリカ合衆国では禁酒法大恐慌などによる社会的ストレスからアセチルサリチル酸を服用する人々が激増しアスピリンエイジという言葉が生まれたほどであった[要出典]。アセチルサリチル酸は頭痛を緩和するものの、脳がつかさどる精神疾患の治療には役立たないことが現在では知られている。しかし、当時の医学では頭痛精神疾患との関係は不明瞭であったため、アセチルサリチル酸が用いられた。

なお日本においてバイエル社は、バイエル薬品名義で1993年に小容量アスピリン製剤の「バイアスピリン」 (BAYASPIRIN) を(登録商標 第3187815号)、2002年には社名を付けた「バイエルアスピリン」(登録商標 第4717639号)および、"Bayer Aspirin"(登録商標 第4717638号)をアスピリン製剤の登録商標として再登録している。


  1. ^ a b Zorprin, Bayer Buffered Aspirin (aspirin) dosing, indications, interactions, adverse effects, and more”. Medscape Reference. WebMD. 2014年4月3日閲覧。
  2. ^ a b c Brayfield, A: “Aspirin”. Martindale: The Complete Drug Reference. Pharmaceutical Press (2014年1月14日). 2014年4月3日閲覧。
  3. ^ “Tension-type headache”. BMJ 336 (7635): 88–92. (January 2008). doi:10.1136/bmj.39412.705868.AD. PMC 2190284. PMID 18187725. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2190284/. 
  4. ^ “Treatment of acute migraine headache”. American Family Physician 83 (3): 271–80. (February 2011). PMID 21302868. 
  5. ^ “Fever”. TheScientificWorldJournal 10: 490–503. (March 2010). doi:10.1100/tsw.2010.50. PMC 2850202. PMID 20305990. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2850202/. 
  6. ^ “Reye's and Reye's-like syndromes”. Cell Biochemistry and Function 26 (7): 741–6. (October 2008). doi:10.1002/cbf.1465. PMID 18711704. 
  7. ^ “FPIN's Clinical Inquiries. Aspirin use in children for fever or viral syndromes”. American Family Physician 80 (12): 1472. (December 2009). PMID 20000310. 
  8. ^ Medications Used to Treat Fever”. American Academy of Pediatrics. 2013年2月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年11月25日閲覧。
  9. ^ “51 FR 8180”. United States Federal Register 51 (45). (7 March 1986). オリジナルの19 August 2011時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110819130409/http://www.fda.gov/downloads/Drugs/DevelopmentApprovalProcess/DevelopmentResources/Over-the-CounterOTCDrugs/StatusofOTCRulemakings/UCM078593.pdf 2012年11月25日閲覧。. 
  10. ^ Solan, Matthew (2022年5月1日). “Do you need aspirin therapy?” (英語). Harvard Health. 2022年4月21日閲覧。
  11. ^ 一般社団法人 日本血栓止血学会 » 用語集(詳細説明) アスピリン
  12. ^ がん死亡リスク、アスピリン常用で大幅減、英大研究 2010年12月7日 2010年12月15日閲覧
  13. ^ 12 ways to keep your brain young” (英語). Harvard Health (2006年6月1日). 2022年3月20日閲覧。
  14. ^ Stopping unneeded aspirin may prevent dangerous bleeding” (英語). Harvard Health (2023年3月1日). 2023年2月24日閲覧。
  15. ^ : nonpyrazolone drug
  16. ^ : pyrazolone drug
  17. ^ 英語ではアスピリンの「ピリン」は「pirin」と綴り、ピリン系の「ピリン」は「pyrine」と綴る。
  18. ^ a b アスピリン「バイエル」 添付文書” (2014年1月). 2016年7月時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月1日閲覧。
  19. ^ バイエルアスピリン 添付文書”. 2016年7月1日閲覧。
  20. ^ バファリンA 添付文書”. 2016年7月1日閲覧。
  21. ^ 大腸癌診断後にアスピリンを定期服用すると死亡率が半減する可能性 日経メディカルオンライン 2009年6月3日 2009年6月5日閲覧
  22. ^ 「適応外使用に係る医療用医薬品の取り扱いについて」” (PDF). 厚生省医薬安第104号 (1999年2月1日). 2010年5月1日閲覧。
  23. ^ 塩沢俊一『膠原病学』(第5版)丸善出版、2012年、110頁。ISBN 9784621084687 
  24. ^ Rainsford, K. D., ed (2004). Aspirin and Related Drugs. London: CRC Press. p. 1. ISBN 0-7484-0885-1 
  25. ^ パウラ・Y・ブルース『ブルース有機化学』 下、大船泰史、香月勗、西郷和彦、富岡清(監訳)(第5版)、化学同人、2009年、822頁。ISBN 4759811699 






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