アセチルサリチル酸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/07 22:03 UTC 版)
使用対象
アスピリンは、関節炎、痛風、腎結石、尿路結石、片頭痛、さらに、小規模から中規模な手術後や、外傷、生理痛、歯痛、腰痛、筋肉痛、神経痛などの鎮痛目的で使用される。この他、抗血小板薬として使用する場合もある。
頭痛
アスピリンは単独もしくは併用処方により、特定タイプの頭痛を効果的に治めるが、他のタイプの頭痛には有効性は疑問視されている。二次性頭痛、すなわち別の障害または外傷によって引き起こされる頭痛については、医療専門家による治療が必要である。
頭痛は国際頭痛標準分類(ICHD)において、緊張性頭痛(最も一般的)、片頭痛、群発頭痛と区別されている。アスピリンや他のOTC鎮痛薬は、緊張性頭痛の治療に効果的であると広く認識されている[3]。
アスピリンは片頭痛の治療における第一選択肢であり、特にアスピリン/アセトアミノフェン/カフェインの合剤は、低用量スマトリプタンと並べられる。最初に片頭痛が始まったとき、これを止めるのに最も効果的である[4]。
解熱
アスピリンの解熱効果は、疼痛軽減と同じくCOX阻害効果によるものである[5]。成人に対する解熱投与は広く確立されているが、一方で子供の発熱、ウイルス感染症、細菌感染症への使用については、米国家庭医師会、米国小児科学会、米国FDA含む多くの医学会および規制機関らは、まれにライ症候群といった深刻な病気を招きうるため、アスピリンまたは他のサリチル酸塩を使用しないよう強く勧告している[6][7][8]。1986年にFDAはアスピリン含有薬について、ライ症候群のリスクのため、青年への使用を推奨しないことをパッケージラベルに記載するよう要求した[9]。
予防用途
一般的に、心血管疾患を持たない70歳以上の人は、心臓発作や脳卒中を予防する方法として、アスピリンを避けるべきとされている。研究では、大きな健康上のメリットがないのにアスピリンを毎日服用すると、大出血のリスクが高くなることが判明した。心臓病の一次予防としてアスピリンを長期間服用していても、70歳になったら中止することを検討すべきである。2019年に米国の内科年報で40歳以上の14,000人を対象に調査したところ、心臓病のない人の約4分の1が毎日アスピリンを服用していることがわかった。このうち、約23%は医師のOKがなくてもそうしていた。さらに心配なことに、心臓病を持たない70歳以上の研究参加者の約半数が毎日アスピリンを服用していたのである。出血のリスクが高いほとんどの人は、おそらくアスピリン療法を避けるべきである。これには、消化管出血、胃潰瘍、血小板減少、血液凝固障害、関節炎やその他の炎症性疾患のために非ステロイド性抗炎症薬を服用している人などが含まれる[10]。
アセチルサリチル酸(アスピリン)はそのアセチル基が血小板シクロオキシゲナーゼを不可逆的に阻害する事により血小板の凝集を抑制して血栓の形成を妨げることから[11]、脳梗塞や虚血性心疾患を予防するために抗血小板剤として(毎日)少量のアセチルサリチル酸を処方することがある。
この他、アセチルサリチル酸の少量長期服用で発癌のリスクを減少させることができるとの報告もある[12]。
いくつかの観察研究では、低用量アスピリンが認知症、特に血管性認知症のリスクを低減する可能性が示唆されている[13]。アメリカ合衆国では疾患を持っていなくても日常的にアセチルサリチル酸を飲む人が多く、現在でもアメリカ合衆国はアセチルサリチル酸の大量消費国であり年間に16,000トン、200億錠が消費されている。
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- ^ がん死亡リスク、アスピリン常用で大幅減、英大研究 2010年12月7日 2010年12月15日閲覧
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- ^ 英: nonpyrazolone drug
- ^ 英: pyrazolone drug
- ^ 英語ではアスピリンの「ピリン」は「pirin」と綴り、ピリン系の「ピリン」は「pyrine」と綴る。
- ^ a b “アスピリン「バイエル」 添付文書” (2014年1月). 2016年7月時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月1日閲覧。
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- ^ 大腸癌診断後にアスピリンを定期服用すると死亡率が半減する可能性 日経メディカルオンライン 2009年6月3日 2009年6月5日閲覧
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- ^ Rainsford, K. D., ed (2004). Aspirin and Related Drugs. London: CRC Press. p. 1. ISBN 0-7484-0885-1
- ^ パウラ・Y・ブルース『ブルース有機化学』 下、大船泰史、香月勗、西郷和彦、富岡清(監訳)(第5版)、化学同人、2009年、822頁。ISBN 4759811699。
固有名詞の分類
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