ゼロ形態素
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/31 16:46 UTC 版)
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形態論において、ゼロ形態素(null morpheme または zero morpheme)とは、音声的形態を持たない形態素である[1]。簡単に言えば、ゼロ形態素は「目に見えない」接辞である。これは、ゼロ形態素と何らかの音声的実現を持つ他の形態素とを対比することで分析に有用な概念である。ゼロ形態素は、数字のゼロ(0)または空集合記号 ∅ で表される。
ほとんどの言語では、ゼロ形態素として実現されるのは接辞であり、派生形が語幹と異ならないことを示す。例えば、複数形 sheep は、語幹 sheep に複数を示すゼロ接辞が付加された組み合わせとして分析できる。ゼロ接辞を付加する過程は、ゼロ接辞付加(null affixation)、ゼロ派生(null derivation)、またはゼロ導出(zero derivation)と呼ばれる。この概念は、紀元前4世紀の古代インドのサンスクリット文法学者 Pāṇini によって、サンスクリット文法において最初に用いられた[2]。
英語
屈折
語中にゼロ形態素が存在すると考えられるのは、同じ語の他の形が異なる形態素を示す場合との対比による。例えば、英語名詞の単数形は、複数形の形態素 -s と対比されるゼロ形態素によって示される。
- cat = cat + -∅ = ROOT ("cat") + SINGULAR
- cats = cat + -s = ROOT ("cat") + PLURAL
また、英語では不規則複数形を持つ名詞において、ゼロ形態素が複数形を示す場合もある。
- sheep = sheep + -∅ = ROOT ("sheep") + SINGULAR
- sheep = sheep + -∅ = ROOT ("sheep") +PLURAL
さらに、ゼロ形態素は、英語動詞の現在時制において三人称単数を除くすべての形で現れる。
- (I) run = run + -∅ = ROOT ("run") + PRESENT: Non-3rd-SINGULAR
- (He) runs = run + -s = ROOT ("run") + PRESENT: 3rd-SINGULAR
(He) runs = run + -s = ROOT ("run") + 現在時制:三人称単数[2]
派生
一部の言語学者によれば、to clean, to slow, to warm のような英語の動詞は、ゼロ形態素によって形容詞から動詞へ転換されたものである。これは、to widen や to enable のように非ゼロ形態素を用いて形容詞から動詞に転換されるものとは対照的である。形態素が変化する場合のゼロ派生は、語類が変わる場合には転換(conversion)とも呼ばれ、英語のような分析的言語では非常に一般的である。
他の言語において
上記の区別を示す言語では、ゼロ接辞を用いて単数、現在時制、三人称を示すことは非常に一般的である。また、最も無標な格(対格言語における主格、能格言語における絶対格)にゼロ接辞を用いることも頻繁である。英語では、他の形にゼロ形態素を用いるのに対し、三人称単数に非ゼロ形態素を付す点が異例である。ゼロ形態素の特色のあるものは、ほとんどのスラヴ語における女性所有格複数である。例:ロシア語の単数主格 женщин-а(zhenshchin-a, 女性)、単数所有格 женщин-ы(zhenshchin-y, 女性の)、複数所有格 женщин-∅(zhenshchin-∅, 女性たちの)。
世界のほとんどの言語では、ゼロ形態素として実現されるのは接辞である。しかし、場合によっては語根もゼロ形態素として実現されることがある。例えば、ロシア語の単語 вы-∅-ну-ть(vynut', 「取り出す」)は、接頭辞1つ(вы-)、ゼロ語根1つ(-∅-)、接尾辞2つ(-ну-、-ть)から構成される[3]。[4]
基本的な語根要素にゼロ形態素を付加したものは、非屈折語と同じではないが、使用上は実質的に同等となる場合がある。
関連項目
脚注
- ^ “Lexicon of Linguistics”. lexicon.hum.uu.nl. 2019年12月5日閲覧。
- ^ a b "Null morpheme - Glottopedia". www.glottopedia.org. Retrieved 2019-12-05.
- ^ Russian Language Institute, question 210775
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