WKB近似
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物理学、特に量子力学において、WKB近似(WKBきんじ、英: WKB approximation)、またはWKB法とは、シュレディンガー方程式の半古典論的な近似解法の一つ[1][2]。プランク定数を古典力学と量子力学を結びつける摂動パラメーターとみなした摂動であり、古典力学と量子力学の対応関係を説明する新たな観点を与える。WKBの名は、量子力学の研究の中で理論の発展に寄与した3人の物理学者ウェンツェル(Wentzel)、クラマース(Kramers)、ブリルアン(Brillouin)らの頭文字に因むものである。なお、応用数学者で地球科学者であるジェフリーズ(Jeffreys)も独自にこの手法を考案し、多くの問題に適用したことから、その名を加え、WKBJ近似とも呼ばれる。WKB近似は最高階の導関数に摂動パラメーターが乗じられた特異摂動問題を扱う手法の一つであり、シュレディンガー方程式のみならず、より一般的な線形微分方程式の特異摂動問題にも応用される[3]。
- ^ L. D. Landau and E.M. Lifshitz (1981), chapter.VII
- ^ 猪木、河合(1994), 第10章
- ^ 柴田(2009).
- ^ N. Froeman and O. Froeman(2002), chapter.1
- ^ Francesco Carlini, Ricerche sulla convergenza della serie che serva alla soluzione del problema di Keplero, Milano.(1817)
- ^ Joseph Liouville, "Sur le développement des fonctions et séries," Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1 pp. 16–35 (1837)
- ^ Green, George and others (1838). “On the motion of waves in a variable canal of small depth and width”. Transactions of the Cambridge Philosophical Society 6: 457-462 .
- 1 WKB近似とは
- 2 WKB近似の概要
- 3 歴史
WKB近似
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 09:27 UTC 版)
波動関数を以下のようにある関数の指数関数を取って表わすものとする。 Ψ ( x ) = e Φ ( x ) {\displaystyle \Psi (x)=e^{\Phi (x)}} Φ ″ ( x ) + Φ ′ ( x ) 2 = 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) . {\displaystyle \Phi ''(x)+\Phi '(x)^{2}={\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right).} Φ ′ ( x ) {\displaystyle \Phi '(x)} は実部と虚部に分けることができる。 Φ ′ ( x ) = A ( x ) + i B ( x ) {\displaystyle \Phi '(x)=A(x)+iB(x)} ここで、A(x) および B(x) は実値関数とする。 上の第二式にこれを代入し、左辺の虚部が零となる必要があることを用いると、次を得る。 A ′ ( x ) + A ( x ) 2 − B ( x ) 2 = 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) {\displaystyle A'(x)+A(x)^{2}-B(x)^{2}={\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)} . この方程式を半古典近似を用いて解くには、各関数を ℏ {\displaystyle \hbar } の羃級数に展開する。この方程式の実部を満たすためには、羃級数が少なくとも ℏ − 1 {\displaystyle \hbar ^{-1}} から始まる必要があることがわかる。古典極限の振舞いを良くするためにはプランク定数の次数はなるべく高い方がよいので、次のように置くこととする。 A ( x ) = 1 ℏ ∑ k = 0 ∞ ℏ k A k ( x ) {\displaystyle A(x)={\frac {1}{\hbar }}\sum _{k=0}^{\infty }\hbar ^{k}A_{k}(x)} B ( x ) = 1 ℏ ∑ k = 0 ∞ ℏ k B k ( x ) {\displaystyle B(x)={\frac {1}{\hbar }}\sum _{k=0}^{\infty }\hbar ^{k}B_{k}(x)} また、最低次の項については次のような拘束が課せられる。 A 0 ( x ) 2 − B 0 ( x ) 2 = 2 m ( V ( x ) − E ) {\displaystyle A_{0}(x)^{2}-B_{0}(x)^{2}=2m\left(V(x)-E\right)} A 0 ( x ) B 0 ( x ) = 0 {\displaystyle A_{0}(x)B_{0}(x)=0} ここで、二つの極端な場合について考察する。 Case 1 振幅の変化が位相に比べて遅い場合、 A 0 ( x ) = 0 {\displaystyle A_{0}(x)=0} および B 0 ( x ) = ± 2 m ( E − V ( x ) ) {\displaystyle B_{0}(x)=\pm {\sqrt {2m\left(E-V(x)\right)}}} は古典的運動に相当する。次の次数までの項を解くと、次を得る。 Ψ ( x ) ≈ C e i ∫ d x 2 m ℏ 2 ( E − V ( x ) ) + θ 2 m ℏ 2 ( E − V ( x ) ) 4 {\displaystyle \Psi (x)\approx C{\frac {e^{i\int dx{\sqrt {{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(E-V(x)\right)}}+\theta }}{\sqrt[{4}]{{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(E-V(x)\right)}}}} Case 2 位相の変化が振幅に比べて遅い場合、 B 0 ( x ) = 0 {\displaystyle B_{0}(x)=0} および A 0 ( x ) = ± 2 m ( V ( x ) − E ) {\displaystyle A_{0}(x)=\pm {\sqrt {2m\left(V(x)-E\right)}}} はトンネリングに相当する。次の次数までの項を解くと、次を得る。 Ψ ( x ) ≈ C + e + ∫ d x 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) + C − e − ∫ d x 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) 4 {\displaystyle \Psi (x)\approx {\frac {C_{+}e^{+\int dx{\sqrt {{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)}}}+C_{-}e^{-\int dx{\sqrt {{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)}}}}{\sqrt[{4}]{{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)}}}} どちらの場合でも、近似解の分子を見れば古典的折り返し点 E = V ( x ) {\displaystyle E=V(x)} 付近で破綻することが瞭然だろう。このポテンシャルの丘から遠いところでは、粒子は自由に振動する波と類似の振る舞いを示す。ポテンシャルの丘のふもとでは、粒子の振幅は指数関数的に変化する。これらの極限における振る舞いと折り返し点を考慮すると、大域解を得ることができる。 はじめに、古典的折り返し点を x1 とし、 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) {\displaystyle {\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)} を x1 周りの羃級数で展開する。 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) = v 1 ( x − x 1 ) + v 2 ( x − x 1 ) 2 + ⋯ {\displaystyle {\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)=v_{1}(x-x_{1})+v_{2}(x-x_{1})^{2}+\cdots } この初項のみを採れば線形性が保証される。 2 m ℏ 2 ( V ( x ) − E ) = v 1 ( x − x 1 ) {\displaystyle {\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)=v_{1}(x-x_{1})} この近似を用いると、x1 近傍について次の微分方程式を得る。 d 2 d x 2 Ψ ( x ) = v 1 ( x − x 1 ) Ψ ( x ) {\displaystyle {\frac {\mathrm {d} ^{2}}{\mathrm {d} x^{2}}}\Psi (x)=v_{1}(x-x_{1})\Psi (x)} これはエアリー関数を用いて解くことができる。 Ψ ( x ) = C A A i ( v 1 3 ( x − x 1 ) ) + C B B i ( v 1 3 ( x − x 1 ) ) {\displaystyle \Psi (x)=C_{A}Ai\left({\sqrt[{3}]{v_{1}}}(x-x_{1})\right)+C_{B}Bi\left({\sqrt[{3}]{v_{1}}}(x-x_{1})\right)} この解を全ての古典的折り返し点について用いることで、上の極端な場合の解を繋ぐ大域解を得ることができる。古典的折り返し点の片側で2つの係数が与えられれば、逆側の2つの係数はこの局所解を用いてそれらを繋ぐことで決定することができる。 したがって、エアリー関数解は適切な極限の元で sin, cos 関数と指数関数に漸近する。 C , θ {\displaystyle C,\theta } , C + , C − {\displaystyle C_{+},C_{-}} の関係式は次のように得られる。 C + = 1 2 C cos ( θ − π 4 ) {\displaystyle C_{+}={\frac {1}{2}}C\cos {\left(\theta -{\frac {\pi }{4}}\right)}} C − = − C sin ( θ − π 4 ) {\displaystyle C_{-}=-C\sin {\left(\theta -{\frac {\pi }{4}}\right)}} これらの係数が決まれば、大域解が得られる。したがって、一つのポテンシャル障壁をトンネリングする粒子の透過係数(英語版)は以下のように得られる。 T ( E ) = e − 2 ∫ x 1 x 2 d x 2 m ℏ 2 [ V ( x ) − E ] {\displaystyle T(E)=e^{-2\int _{x_{1}}^{x_{2}}\mathrm {d} x{\sqrt {{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left[V(x)-E\right]}}}} ここで、x1, x2 はポテンシャル障壁にある二つの古典的折り返し点である。 矩形障壁の場合は、この式は次のように簡単化できる。 T ( E ) = e − 2 2 m ℏ 2 ( V 0 − E ) ( x 2 − x 1 ) = V ~ 0 − ( x 2 − x 1 ) {\displaystyle T(E)=e^{-2{\sqrt {{\frac {2m}{\hbar ^{2}}}(V_{0}-E)}}(x_{2}-x_{1})}={\tilde {V}}_{0}^{-(x_{2}-x_{1})}}
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WKB近似
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ϵ {\displaystyle \epsilon } を微小パラメータとする2階常微分方程式 ϵ 2 d 2 y d x 2 = A ( x ) y ( x ) {\displaystyle \epsilon ^{2}{\frac {d^{2}y}{dx^{2}}}=A(x)y(x)} は、 A {\displaystyle A} の変化がゆっくりとみなせるならば、指数関数型の解 y ( x ) ∼ exp ( ± 1 ϵ A ( x ) ) {\displaystyle y(x)\sim \exp \left(\pm {\frac {1}{\epsilon }}{\sqrt {A(x)}}\right)} により近似できる。この考察に基づく常微分方程式の漸近級数解の理論はWKB近似として知られる。これはもともとジョゼフ・リウヴィルらによって19世紀から用いられていたが、量子力学においてシュレディンガー方程式の近似解法としてWentzelらによって用いられたことからWKB近似として知られるようになった。また光学(幾何光学、物理光学)における幾何光学近似あるいは物理光学近似とも対応している。
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