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IRIS-T

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/24 05:00 UTC 版)

IRIS-T
種類 短距離空対空ミサイル
製造国 ドイツ
 スウェーデン
イタリア
性能諸元
ミサイル直径 127mm
ミサイル全長 2.94m
ミサイル全幅 45cm
ミサイル重量 87.4kg
弾頭 HE破片効果
射程 25km
推進方式 固体燃料ロケット
誘導方式 中間慣性誘導(INS)+
赤外線画像(IIR)
飛翔速度 M3
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IRIS-T(アイリスティー)は、ドイツディール・ディフェンス社・スウェーデンSAAB社・イタリアアレニア社によって開発された短距離空対空ミサイル。派生型として後述の地対空ミサイル仕様も存在する。第3世代サイドワインダーの後継として開発された。

なお、IRIS-Tとは、赤外線画像システム・推力偏向制御(Infra Red Imaging System Tail/Thrust Vector-Controlled)のアクロニムである。

経緯

1980年代の時点で、西ドイツイギリスAIM-132 ASRAAM開発のパートナーであった。しかし、ドイツ再統一後、過小評価していたAA-11 アーチャー(R-73)の多量な備蓄から顕著な能力を確認した。特に探索・捕捉(シーカー)、追跡能力などはるかに能力があり、運動性もより優れていることが判明した。これらの事実はドイツにASRAAMにおける機動性の欠如した一定軌道の推力など一部の設計に疑問をもたせた。その結果、イギリスと協定を結ぶことができず、1990年にドイツはASRAAM計画から降りた。

ドイツのディール・ディフェンス社は、自社開発したミサイルサイドワインダーに敗れたため、各種サイドワインダーのライセンス生産を行ってきた。AA-11の対抗としてサイドワインダーを赤外線画像シーカーへ換装したIRISを提案したが、ドイツ空軍はこれを承諾しなかった。そのため、BGTは独自でIRIS-Tを計画し、1995年6月に承諾された。

同年、ドイツはギリシャイタリアノルウェースウェーデンカナダと協力してIRIS-Tの開発計画を発表した。なお、後にカナダは計画から脱退したが、2003年スペインがプロジェクトに加わった。2005年12月5日に最初のIRIS-Tがドイツ空軍に引き渡された。

IRIS-T開発のワークシェア協定
ドイツ:46%
イタリア:19%
 スウェーデン:18%
ギリシャ:13%
残りはカナダ、ノルウェーの両国間で分割した。

2025年1月30日、ドイツ連邦軍装備情報技術運用庁は改良型であるIRIS-T ブロックIIの開発・量産契約をDiehl Defenceに対して発注した[1]

特徴

IRIS-T構造図
シーカー部の挙動
IRIS-Tの交戦可能域

上記のとおり、本ミサイルの開発はAIM-132 ASRAAMから派生していることもあり、技術的には、同ミサイルや、同様の経緯で開発されたアメリカAIM-9Xとの類似点が多い。

前任者である第3世代サイドワインダーと比べての主な差異は、名称のとおり、

赤外線画像システム
赤外線画像(IIR)誘導方式を導入。ただし、128x128ピクセルのフォーカル・プレーン・アレー(FPA)方式を採用した上記の2機種と異なり、128ピクセルの線型アレイ方式を採用している。
尾部制御
制御翼を後部に移動するとともに、推力偏向制御(TVC)を導入

の2点である。前者は誘導精度の増強と赤外線妨害技術への抗堪性向上(IRCCM能力の増強)、後者は機動性の向上をもたらした。

また、このほか、オフボアサイト射撃能力の強化も重要である。IIR誘導システムのシーカーは90度の視野角があり、このため、尾部制御化による機動性向上とも相まって、従来通りの発射前ロックオン(LOBL)方式で運用した場合も、在来機よりも交戦可能域は拡張されている。中間慣性誘導(INS)方式の導入によって発射後ロックオン(LOAL)能力も獲得しており、LOAL方式で発射した場合、機体側に装備されたヘッドマウントディスプレイ(HMD)による照準システムと併用することで、交戦可能域はさらに拡張することができる。

また、サイドワインダーを搭載、使用できる航空機は大きな改造を行うことなくIRIS-Tも搭載、使用できる。

運用

 
ウクライナで使用されているIRIS-T SLM中距離地対空ミサイル

2011年までに4,000発が生産される計画である。

運用国と搭載機

 オーストリア[2]

ユーロファイター タイフーン

ベルギー

ドイツ[3]

ユーロファイター タイフーン
IRIS-T SLM - 2025年時点で試験中[4]

 エジプト

IRIS-T SL - レーダーにはHensoldt TRML-4Dを採用している[5]

ギリシャ[6]

F-16

イタリア

ユーロファイター タイフーン

オランダ

 ノルウェー

F-16
NASAMS

サウジアラビア

南アフリカ共和国[7]

スペイン

EF-18A/B、ユーロファイター タイフーン

 スウェーデン

400発を購入し、2009年11月からRb 98の名称で配備している[8]JAS39 グリペンの標準短射程AAMであり、空対空戦闘時にはAMRAAM(Rb 99)×4発とIRIS-T(Rb 98)×2発を搭載するのが典型的な装備パターンである[8]
2025年6月にはIRIS-T SLM地対空ミサイルシステムの導入を決定しており、2028年から2030年に納入予定である[9]

スイス

2025年7月に、地対空型のIRIS-T SLMを5システム発注した[10]

 ウクライナ

後述の地対空ミサイル仕様が供与されている。

派生型

IDAS
IRIS-Tをベースに開発中の潜水艦発射式対空ミサイル。潜水艦にとって脅威である対潜ヘリコプターを排除する。
IRIS-T SL(surface-launched)
地上発射型の地対空ミサイル仕様。ドイツ陸軍では中距離拡大防空システムに組み込まれる予定。
短距離防空ミサイルのIRIS-T SLSは12 kmの射程・射高であり、中距離のIRIS-T SLMは40 kmの射程と20 kmの射高、IRIS-T SLX(長距離)はIRとRFのデュアル誘導方式で80 kmの射程と30 kmの射高である[11]
LFK NG
SysFla野戦防空システム向けに開発されている近距離防空ミサイル

脚注

注釈

出典

  1. ^ Gareth Jennings (2025年1月31日). “Diehl launches IRIS-T Block II development and production”. janes.com. 2025年2月3日閲覧。
  2. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. p. 74. ISBN 978-1-032-50895-5 
  3. ^ IISS 2024, p. 98.
  4. ^ Feierliche Indienststellung des Waffensystems IRIS-T SLM”. ドイツ国防省 (2024年8月30日). 2025年7月20日閲覧。
  5. ^ Egypt displays IRIS-T SL system for first time”. janes.com (2024年10月10日). 2024年10月14日閲覧。
  6. ^ IISS 2024, p. 102.
  7. ^ The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2023-02-15) (英語). The Military Balance 2023. Routledge. pp. 476-478. ISBN 978-1-032-50895-5 
  8. ^ a b 嶋田 & 竹内 2017, pp. 38–39.
  9. ^ Sweden Becomes Latest ESSI Country to Opt for IRIS-T SLM”. ASDNews (2025年6月25日). 2025年6月26日閲覧。
  10. ^ armasuisse Switzerland Procures IRIS-T SLM”. ASDNews (2025年7月22日). 2025年7月24日閲覧。
  11. ^ IRIS-T SLM GBAD system | Egypt's choice to boost air defence - PHOTOS & VIDEO” (2021年12月20日). 2022年12月29日閲覧。

参考文献

  • The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7 
  • 青木謙知 『軍用機ウエポン・ハンドブック - 航空機搭載型ミサイル・爆弾450種解説』 イカロス出版、2005年、26-27頁、ISBN 4-87149-749-6
  • 嶋田久典、竹内修『世界の名機シリーズ JAS39 グリペン〈増補版〉』イカロス出版、2017年10月30日。 ISBN 978-4-8022-0411-8 

関連項目




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