ヘルスプロモーション
1986年のオタワ憲章におけるWHOのヘルスプロモーションの定義は以下の通りである。ヘルスプロモーションとは、「自らの健康を決定づける要因を、自らよりよくコントロールできるようにしていくこと」である。
ヘルスプロモーションを理解するには疾病予防との違いについての議論が参考になる。アラメダ研究で著名なブレスローはヘルスプロモーションを第三世代の公衆衛生革命と位置づけている。第1世代は感染症対策のため、プロテクションに加えてサーベイランスを加味した公衆衛生革命。第2世代は感染症に加えて、文明がもたらした慢性疾患の予防対策を加味した公衆衛生革命。ブレスローはまさにこの慢性疾患予防のためのアラメダ研究をカリフォルニアで実施し、多くの疾患が予防しうるということを示したのであった。その次に来るのが第3世代の公衆衛生革命である。サーベイランス、予防に加え、プロモーションがここでは加わってくる。
ブレスローによれば、疾病予防とは、「病気にならなくなればそれでよい」、というふうに比較的ネガティブなゴールを達成すればよい。一方ヘルスプロモーションはそれだけでは満足しない。今ある健康状態より、よりポジティブな方向に健康度を高め、それによってよりよく生きる、生き甲斐を感じる、といったゴールをめざす。1946年になされたWHOの健康の定義の前半(英文では後半)は、「健康とは単に疾病がないという状態のみをいうのではない」とある。疾病予防を行うとはこの部分に注目した活動と言える。一方、同定義の後半(英文では前半)は「健康とは身体的、社会的、精神的に良好な状態である」となっている。ヘルスプロモーションを実践するということは、疾病予防に対して、この後半の部分に注目した活動を実践する、ということである。
活動の実践にあたり、グリーンとクロイターは、健康教育と環境(またはより広い意味でのエコロジー)の改善の組み合わせをヘルスプロモーションと定義した。そして、意図的に計画して、健康に影響を及ぼしうるライフスタイルや生活条件を変えていくことがヘルスプロモーションの鍵であると述べている。そのために、個人や小集団活動への直接介入だけではなく、個人や集団をとりまく社会環境(禁煙空間の設置など)や法(たばこ税のひきあげなど)の改善などを行うことがヘルスプロモーションの特徴である。(神馬征峰)
参考資料:
ローレンス・グリーン、マーシャル・クロイター:実践ヘルスプロモーション 医学書院、 2005年
Breslow L.: From disease prevention to health promotion. JAMA 1999:281; 1030-1033.
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