静謐な神聖表現
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/17 17:45 UTC 版)
『アンシデイの聖母』には「フィレンツェ時代」のラファエロの作品に見られる、当時のウルビーノ絵画における厳格な神聖表現の強い影響があり、マリアが座る玉座の上部には「万歳、キリストの母 (Salve Mater Christi )」という銘が刻まれている。また、「聖母と比較すると、幼児キリストや洗礼者ヨハネのほうが、ラファエロ後期の「ローマ時代」を思わせる、より自然な姿形と感情表現で描かれている」といわれている。 ナショナル・ギャラリーのラスキンは、『アンシデイの聖母』はラファエロの最高傑作の一つであり、キリスト教教義の高みを具現化した作品だとし、その理由を何点か列挙した。まず、作品の出来栄えがほぼ完璧で、数世紀にわたって高く評価され続けてきたことを挙げている。描かれている金細工の表現は本物と見まごうほどだが、作品全体を調和させる効果があるとする。つぎに、人物像が穏やかさに満ちて描かれていることと、人物像の精神性、内面性が豊かに描きあげられていると評価している。そして最後に、苦悩や忌まわしさいった観る者に不快さを催させるものがかけらも見られない、心地よさ、充足感、美しさを描き出した作品であるとしている。 『アンシデイの聖母』に描かれている、風景を含むあらゆるモチーフは、静謐と聖性とを想起させるものとなっている。 聖母マリアは幼児キリストに無私の愛を注ぎ、 幼児キリストは無垢な信頼を聖母に向け、 黙想にふける洗礼者ヨハネは霊的な魂の遍歴を示し、 バーリの司教ニコラウスは宗教的学識を象徴し、そして、 穏やかな風景と無限に広がる青空は、神との親和を表している。 また、聖ニコラウスの足元に転がる3つの玉のようなものは、キリスト教教義の聖三位一体の象徴あるいは、ニコラウスの伝承にある、貧家の娘を救うために投げ入れた金の詰まった袋ではないかと考えられる。
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