青空や花は咲くことのみ思ひ
作 者 |
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季 語 |
花 |
季 節 |
春 |
出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
句集『花影』 平成八年刊。 桂信子の俳句が好きです。直接謦咳に接したこともなく、温容を仰いだことはないが、「ほんとうの俳句」と言い切った俳人と同じ時代に生きてきたことだけで、充分に幸せと思う。手元におく『桂信子全句集』を開く度に、この稀有な俳人を景仰する方々の、どれほどの思いと力と時間が寄り合ってこの大冊を成したかと思わずにはいられない。中でも巻末の「全句季語別索引」は読む者にとってはまことに有り難い頁である。 花、桜またまたそれに係わる句は、信子作品のテーマとして最も多いのではないだろうか。句集順、年代順の「花」の句を読み継いでゆくと、「湯上がりの肌の匂へり夕ざくら 『月光抄』」「憂きままのひととせ長し散るさくら 『女身』」から「ごはんつぶよく嚙んでゐて桜咲く 『草樹』」を経て「晩年の思ひとはこれ夕ざくら 『草影』」「今死ねば浄土に花の散り敷かむ 『草苑』」まで、花もまた人と同様に年年歳歳同じからぬ相で作者の前に立ち現れてくる。掲句を収める『花影』のあとがきに「~桜の花が年と共にひとしおなつかしく思われ」ると信子は記している。さまざまの作者の思いを託されて咲き続けてきた年々の花は、ここに至って真青な空の下にただひたすらに無心に咲いている。 桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり 岡本かの子 総身の花をゆるがす春の樹にこころ乱してわれは寄りゆく 斉藤 史 さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり 馬場あき子 現代短歌の中の桜の絶唱である。信子の句はこれにくらべるとまことに静謐である。作者は花と共に年を重ね、花は作者とともに齢を重ねてゆく。 一心に生きてさくらのころとなる 『草影』 |
評 者 |
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備 考 |
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