雪後にて天翔ける腋鮮しや
作 者 | |
季 語 | |
季 節 | 冬 |
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評 言 | 成田千空の第五句集『忘年』までに収められた俳句の季語は「雪」がもっとも多く百二十四句に至る。次が「白鳥」の四十六句である(矢本大雪編『千空歳時記』より)。最後の第六句集『十方吟』を含め、発表された句には、雪も白鳥も更に多くなるはずである。 さて、本句。季語は雪であるが「天翔ける腋(鳥)」にウエイトがあるのは当然である。そしてこの鳥は「白鳥」だと思う。当然、雪との季重なりを避けたもので、これで白鳥を連想してくれる確信が千空のなかにあったような気がする。しかし、公平に見てこれが白鳥だと断言できるのは、千空の諸句に親しんだ人々の特権かも知れないが、単なる憶測でもあるまい。「天翔ける腋」が鳥であろう事を前提にして、かなり大きな鳥で、さし当り鶴か白鳥のような鳥と限定されてくるだろう。釧路辺りの丹頂鶴でも確かによさそうであるが、千空が釧路に行った記録はなさそうである。また、「雪後にて」は、かなりの積雪の上の降雪と見るのが普通であれば、釧路は極寒の地ではあっても豪雪地帯ではない。それに、千空は単なる想像で俳句を詠む人ではない。 白鳥ならば、千空の住んだ五所川原市の近くに岩木川や十三湖など何ヶ所かの飛来地があって、おそらく何十回も吟行したはずである。この句の眼目は「腋鮮しや」にある。この「鮮しや」は、暗い吹雪の去った雪後の白無垢と呼応させたもので、雪晴れの青空を腋の下まで見せて翔ける大翼を提起している。それが浮寝鳥とはまた異なる「雪後の新鮮さ」と見たものであろう。他に二句掲げておく。 雪やぶは女性の丸さ奥津軽 白鳥千羽東へひらく海と空 |
評 者 | |
備 考 |
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