離散時間の第1基本定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/01/27 16:23 UTC 版)
「資産価格付けの基本定理」の記事における「離散時間の第1基本定理」の解説
離散時間の場合は概要で説明した通りの定理が成立する。簡単な証明を記す。 リスク中立確率の存在から裁定取引の非存在 背理法を用いる。そもそも裁定取引とは現時点で組成にかかる費用が0で将来の利益が必ず非負であり、さらに正の確率で正の利益をもたらすポートフォリオのことを指す。このような裁定ポートフォリオの時点 における割引価値を とすれば、 かつ将来の時点 において、 かつ である。ただし、 は実際の確率を表す確率測度であり、 はカッコ内の事象が起こる確率である。すると、リスク中立測度 が存在するので、 の下での期待値を とすれば、リスク中立測度の下で全ての割引ポートフォリオの価値はマルチンゲールとなるので が成り立つ。ここでリスク中立測度は実際の確率測度と同値であるので、 である事象 について が成り立ち、また逆も成立する。よって なので、 であり、したがって である。つまり である。ここで、 より、 であることも言える。そうでなければ、 となるからである。したがって再び確率測度の同値性を用いれば、 から が言える。これは最初に仮定した が裁定取引であること、つまり であることと矛盾するので、このようなポートフォリオは存在しない。つまりこの金融市場に裁定取引は存在しないと言える。この証明は連続時間の場合にも容易に拡張が可能である。 裁定取引の非存在からリスク中立確率の存在 この証明は一般には閉凸集合に対するハーン=バナッハの分離定理を用いる。ヒューリスティックな説明を行えば、初期費用0で実行可能なポートフォリオのペイオフからなる集合と裁定取引であるようなペイオフの集合が、裁定取引が存在しない場合は分離される。するとハーン=バナッハの分離定理により非負値の線形作用素の存在が言える。この作用素は初期費用0で実行可能なポートフォリオのペイオフからなる集合の要素については0を返し、裁定取引であるようなペイオフの集合の要素については正の値を返すので、価格付け関数としての条件を満たしている。また、この作用素は標準化することで現実の確率測度と同値な確率測度の期待値オペレーターと見なせるので、その確率測度がリスク中立確率測度になるのである。離散時間かつ状態数が有限の場合はこの議論でそのまま証明できるが、状態数が無限であったり、連続時間の場合は数学的な議論の精緻化が必要になる。しかし、そのような応用的な場合でも基本的にはハーン=バナッハの分離定理により非負値の線形作用素の存在を示すという方向性は変わらない。
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