量子力学における固有値問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/17 04:29 UTC 版)
「固有値」の記事における「量子力学における固有値問題」の解説
量子力学においては固有値問題が次のような形で現れる。まず、系の状態は、「状態ベクトル」というもの(波動関数ともいう)で表現されると考える。そして、その状態ベクトルは、シュレーディンガー方程式に従って時間的に変化すると考える。このとき、系が時間的に変化しない定常状態(厳密に言うと、時間的に変化するものが状態ベクトルの位相に限定される場合)、シュレーディンガー方程式は、変数分離法によって、以下のようになる: i ℏ ∂ ∂ t | x ⟩ = H | x ⟩ = ϵ | x ⟩ , {\displaystyle i\hbar {\frac {\partial }{\partial t}}|\mathbf {x} \rangle =H|\mathbf {x} \rangle =\epsilon |\mathbf {x} \rangle ,} and H | x ⟩ = ϵ | x ⟩ . {\displaystyle H|\mathbf {x} \rangle =\epsilon |\mathbf {x} \rangle .} ここで、Hは系のハミルトニアンであり、|x⟩ は状態ベクトルである。これは固有値問題そのものである。上の方程式を解くことで固有値 ε が求まる。この ε を用いて、下の方程式を解くと、状態ベクトルの位相は ϵ / ℏ {\displaystyle \epsilon /\hbar } の角速度で変化することが分かる。ところが量子力学の原理によると、系のエネルギーは、系の位相の角速度の ℏ {\displaystyle \hbar } 倍である。すなわち、この固有値 ε は、系のエネルギーに相当する。そこで、ε をエネルギー固有値、またはエネルギー準位と呼ぶ。この時、状態ベクトルxはハミルトニアンの固有ベクトルになっており、そのような状態をエネルギー固有状態という。 ハミルトニアンはエルミート演算子であり、従って、異なる固有値に対応する固有ベクトルは互いに直交している。ハミルトニアンに限らず、任意の物理量は、それぞれエルミート演算子に対応する。それらに関する固有ベクトルは、それらの物理量が確定している状態であり、その固有値が、その状態での物理量の値となる。 実際の多電子系などの数値計算においてはエルミート演算子を有限サイズのエルミート行列で近似することになる。つまり、本来、状態ベクトルのなすヒルベルト空間が無限次元であれば、行列による表現は無限行、無限列であるが、これは現実に計算することは不可能なので、有限の大きさに切断して近似的に計算が実行される。波動関数は適当な基底関数の線型結合(重ねあわせ)で表現され、求めるべき基底関数の展開係数を並べたものが、そのエルミート行列の固有ベクトルに相当することになる。展開係数の数も本来無限個必要であるが、有限の数で切断(カットオフ)される。切断は、求めるべき物理量(全エネルギーなど)が精度として十分に収束するところで行う必要がある(解くために必要な数値計算量にも依存する)。
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