負性インピーダンスとは? わかりやすく解説

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負性抵抗

(負性インピーダンス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/18 05:03 UTC 版)

蛍光灯は負性微分抵抗を持つ素子の1つである[1][2]。点灯中に蛍光灯に流れる電流が増加すると、両端の電圧は低下する。蛍光灯が送電線に直接つながれていると、電圧低下がさらなる電流増加を招き、アークフラッシュ英語版によって破壊されてしまう[3]。これを防ぐため、蛍光灯は安定器英語版を介して送電線に接続される。安定器は正のインピーダンスを追加することで蛍光灯の負性抵抗を打ち消し、電流を制限する。

電子工学において、負性抵抗(ふせいていこう、: negative resistance, NR)は、一部の電気回路や素子が持つ特性で、端子間の電圧が増加すると、流れる電流が減少するものを指す[4][5]

負性抵抗の振る舞いは、印加電圧が増えるとオームの法則により電流が比例して増加し抵抗値が正となる通常の抵抗器とは対照的である[6]。通常の抵抗器は、正の抵抗に電流が流れると電力を消費するが、負性抵抗は電力を発生する[7][8]。負性抵抗は特定の条件下で電気信号の電力を増加させて増幅機能を担うことができる[3][9][10]

負性抵抗は限られた数の非線形電子素子でしか見られない。非線形素子では抵抗の定義が2種類ある。「静的抵抗」は電圧

ガンダイオード。負性微分抵抗を持つ半導体素子の一つで、マイクロ波を発生する電子発振器に利用される。

定義

図の I–V 曲線において、点Aでの「静的抵抗」はBの勾配の逆数を言い、「微分抵抗」は接線Cの勾配の逆数を言う。

電気素子や電気回路の端子間抵抗は、端子間に任意の電圧

I–V 平面は受動素子が属する象限(白)と能動素子が属する象限()に分かれる[24][25]
  • 静的抵抗: static resistance、または chordal resistance「弦抵抗」、absolute resistance「絶対抵抗」、または単にresistance「抵抗」):抵抗の一般的な定義と同じく、電圧を電流で割った値をいう[3][18][23]
図1: 「オーミック」な線形抵抗の I–V 曲線。電気回路で通常みられる種類の抵抗である。電流は電圧に比例し、そのため静的抵抗と微分抵抗はどちらも正で値は等しい。
図2: 一部()で負性微分抵抗を持つ I–V 曲線[23]。点Pにおける微分抵抗
図3: 電源の I–V 曲線[23]。第2象限()において電流は正電極から流れ出すため、電気エネルギーは素子から回路に向けて与えられる。たとえば点Pは
図4: 「能動抵抗」[24][35][36] とも呼ばれる負性線形抵抗[8])の I–V 曲線。能動素子であるため静的抵抗は負となり、微分抵抗も同じく負である。
正の静的抵抗では 電源では 受動的な負性微分抵抗では

種類と呼称

  • 受動的な負性微分抵抗素子(前掲の図2)最もよく知られているタイプの「負性抵抗」。受動2端子素子で、I–V 特性曲線には右下がりに折れ曲がった部分があり、そのため一部の動作範囲では電圧が上昇すると電流が減少する[41][42]I–V 曲線は負性抵抗領域を含めて I–V 平面の第1象限と第3象限に収まっており[15]、静的抵抗は常に正[21]。例としては気体放電管トンネルダイオードガンダイオードがある[43]。これらの素子は内部電源を持たず、一般に外部からポートに与えられた直流電力を交流電力に変換して動作するため[7]、ポートには目的の信号と同時に直流バイアス電流を印加する必要がある[37][39]。紛らわしいことに、一部の著者は[17][39][43] この種の負性抵抗を増幅機能の存在から「能動」素子と呼んでいる。ユニジャンクショントランジスタなど、3端子素子の中にもこのカテゴリに含まれるものがある[43]。詳しくは負性微分抵抗節で解説する。
  • 能動的な負性微分抵抗素子(前掲の図4)端子に正電圧を印加すると(ある動作範囲で)それに比例する「負の電流」が発生するもの。回路設計によって実現できる[3][26][44][45][46]。前項の受動素子とは異なり、I–V 曲線は原点を通過する部分が右下がりであるため I–V 平面の第2象限と第4象限にも伸びている。これは素子が電力を生成していることを表している[24]トランジスタや正帰還を備えたオペアンプのような増幅素子はこのタイプの負性抵抗を持つことができ[26][37][42][47]フィードバック発振器アクティブフィルタに利用される[42][46]。これらの回路はポートから正味の電力を生み出すため、内部に直流電源を備えるか、別に外部電源に接続する必要がある[24][26][44]回路理論では「能動抵抗」と呼ばれる[24][28][48][49]。受動負性抵抗と区別するために「線形 (linear) 負性抵抗」[24][50]、「絶対 (absolute) 負性抵抗」[3]、「理想 (ideal) 負性抵抗」、「純粋 (pure) 負性抵抗」[3][46] と呼ばれることがあるが、電子工学では単にポジティブフィードバックもしくは再生回路と呼ばれることが多い。詳しくは能動抵抗節で解説する。
電池は通常の動作範囲で負の静的抵抗[20][23][32](赤)を持つが、微分抵抗は正である。

通常の電源が「負性抵抗」と呼ばれることもある[20][27][32][51](前掲の図3)。能動素子は静的抵抗が負になるのだが(負の静的抵抗節を参照)、電池発電機、あるいは正帰還ではない増幅器など、ほとんどの電源は直流であれ交流であれ正の微分抵抗(内部抵抗)を持つ[52][53]。したがってこれらは1ポート増幅器として機能するなどの特性を持たない。

負性抵抗素子の一覧

負性微分抵抗を持つ電子部品には以下が含まれる。

気体中の放電も負の微分抵抗を示す[63][64]。以下のデバイスは例である。

そのほか、トランジスタオペアンプなどの増幅素子にフィードバックをかけることで負性微分抵抗を持つ能動回路を構成できる[37][43][47]。近年では負の微分抵抗を持つ材料や素子が研究レベルで多数発見されている[67]。負性抵抗を発現させる物理的プロセスは多様であり[12][56][67]、各種の素子はそれぞれ( I–V 特性で表される)独自の特徴を持っている[10][43]

負の静的抵抗

正の静的抵抗は電力を熱に変換し[23]、周囲を温める(左図)。しかし負の静的抵抗は逆の動作を行うことができない。右図のように環境から受け取った熱を電気エネルギーに変換すると熱力学第二法則に違反する[39][44][68][69][70][71]。したがって負の静的抵抗は別に何らかのエネルギー源を必要とする。

通常の抵抗(静的抵抗

キルヒホッフの電圧則により、電池などの電源の静的抵抗(
電圧制御型(N型)。
電流制御型(S型)。

受動的な負性微分抵抗は静的抵抗が正であり[3][6][21]、正味の電力を消費する。したがって I–V 曲線が通るのはグラフの第1象限と第3象限に限られ[15]、原点を横切る。この条件があることから(ある種の漸近的なケースを除いて)負性抵抗領域は有限であり[17][77]、正抵抗領域に挟まれており、原点を含まないと言える[3][10]

分類

負性微分抵抗は以下の2種類に分けられる[16][77](右図参照)。

  • 電圧制御型(VCNR、短絡安定型[77][78][note 2]、N型)このタイプでは電流は電圧の一価連続関数、電圧は電流の多価関数となる[77]。ごく一般的なものは負性抵抗領域を1つしか持たず、全体的な曲線形はN字形となる。原点付近から電圧を上げていくと電流は増加して最大値
    トンネルダイオード増幅回路。
    バイアスした負性微分抵抗に交流電圧をかける様子。電流変化と電圧変化は逆符号(図では色で区別される)であるため、交流電力消費
    外部回路に接続した負性微分抵抗の交流等価回路[83]。負性抵抗は入力に依存する交流電流源のように機能する。出力は
    負性抵抗回路の一般(交流)モデル。負性微分抵抗素子
    電圧制御型(N型)の負荷線と安定領域。
    電流制御型(S型)の負荷線と安定領域。

    直流負荷線(図のDCL)とは直流バイアス回路によって決まる直線で、以下の式で表される。

    フィードバック増幅器で発生する能動負性抵抗の典型的な I–V 曲線[35][106]。左図はN型、中図はS型に当たる。それぞれ負性抵抗領域(部分)を持っており、電力(灰色)を発生させる。ポートに十分な大きさの電圧か電流(向きは問わない)を加えると素子は非線形領域に入り、増幅器の飽和によって微分抵抗は正となる(曲線が黒い領域)。電力を発生させられる上限の印加電圧
    負性インピーダンス変換器(左)と I–V 曲線(右)。曲線の赤い領域で負性微分抵抗を持ち、灰色の領域で電力を発生できる。

    よく知られた能動抵抗回路に、図に示す負性インピーダンス変換器(NIC)がある[45][46][115][125]。抵抗器

    空洞共振器と内部のガンダイオードからなる発振器。ダイオードの負性抵抗により空洞内にマイクロ波振動が励起され、開口部から導波管(写真には写っていない)へと放射される。

    負性微分抵抗素子は電子発振器の部品として広く用いられている[7][43][129]。負性抵抗発振器ではIPMATTダイオード、ガンダイオード、マイクロ波真空管のような負性微分抵抗素子がLC回路水晶振動子誘電体共振器英語版空洞共振器英語版のような電気共振器の両端に接続されており[117]、さらに素子を負性抵抗領域にバイアスするとともに電力を供給するための直流電源を備えている[130][131]。LC回路のような共振器はほとんど発振器と差がなく、電気的な振動のエネルギーを蓄えることができる。しかし共振器には必ず内部抵抗などの損失があるため振動は減衰して消えてしまう[21][39][115]。負性抵抗は正抵抗を打ち消すことで実質的に損失のない共振器を作り出す。そこでは共振器の共振周波数で自発的に連続的な振動が発生する[21][39]

    用途

    負性抵抗発振器はフィードバック発振器が十分に機能しないマイクロ波以上の高周波で主に使われる[14][116]。マイクロ波ダイオードはスピードガン衛星放送受信器英語版局部発振器用に用いられる低出力から中出力の発振器に組み込まれる。マイクロ波エネルギー源としての用途は広く、ミリ波[132] およびテラヘルツ波領域では事実上唯一の固体エネルギー源である[129]マグネトロンなどの負性抵抗マイクロ波真空管は出力がより高く[117]レーダー送信機や電子レンジのような用途に用いられる。ユニジャンクショントランジスタネオン灯などの気体放電灯と組み合わせると、より低周波で動作する弛張発振器を作ることができる。

    負性抵抗発振器のモデルはダイオードのような1ポート素子に限定されるものではなく、トランジスタや真空管のような2ポート素子に基づくフィードバック発振回路にも適用できる[116][117][118][133]。また近年の高周波発振器では、トランジスタがダイオードのような1ポート負性抵抗デバイスとして使用されることが多くなってきている。マイクロ波周波数ではトランジスタの一方のポートにある負荷を与えると内部フィードバックによって不安定になり、もう一方のポートに負性抵抗を示すことがある[37][88][116]。そこで高周波トランジスタ発振器の設計では、トランジスタのポートの一つにリアクタンス性の負荷を与えて負性抵抗を持たせ、もう一方のポートを共振器の両端に接続して負性抵抗発振器となるように設計する(以下参照)[116][118]

    ガンダイオード発振器

    ガンダイオード発振器の回路図。
    交流等価回路。
    ガンダイオード発振器の負荷線。
    DCL: Q点を決める直流負荷線。
    SSL: 起動時に振幅がまだ小さい間の負荷線。
    • 電圧制御型負性抵抗発振器: 電圧制御型(N型)素子は低インピーダンスのバイアスを必要とし、
      • 電流制御型負性コンダクタンス発振器:対照的に、電流制御型(S型)素子は高インピーダンスのバイアスを必要とし、
        反射増幅器の交流等価回路。
        二つのトンネルダイオード反射増幅器をカスケード接続した、8-12 GHzで動作するマイクロ波増幅器。

        広く使用されている回路の1つに、サーキュレータによって信号を分離する反射増幅器がある[86][138][139][140]。サーキュレータは3つのポートを持つ不可逆固体回路素子で、あるポートに入射した信号を隣のポートの片方に送る。つまりポート1に入射した信号をポート2へ、ポート2からの信号をポート3へ、ポート3から1へと送る。右図に示す反射増幅器ではポート1に信号が入力され、ポート2にはバイアスを含む電圧制御型負性抵抗ダイオード N がフィルター F を介して接続されており、出力回路はポート3に置かれている。入力信号はポート1からポート2のダイオードに送られるが、ダイオードから「反射」された増幅信号はポート3に流されるため出力から入力への結合はほとんどない。入出力の伝送線路の特性インピーダンス




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