親族相盗例の現代的問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/02 03:15 UTC 版)
「親族相盗例」の記事における「親族相盗例の現代的問題」の解説
これは、儒教的な家族観の影響を受けて、「法律は家族間の問題には関与しない(家庭内で解決させる)」という明治時代の現行刑法立法者の政策的配慮が働いていると考えられている(また、ヨーロッパにおいても「法は家庭に入らず」というローマ法以来の法諺が存在していた)。だが、当時は家庭の財産は一般的に尊属にあたる家長(父親・祖父)が占めており、他の要員である配偶者(妻・嫁)や卑属(子・孫)が独自に財産を保有している可能性が少なかったために、こうした犯罪行為の対象になる財産は家長の所有であり、家長の「懲戒権」で対応すべき問題と考えられてきた。ところが、現代では家制度の崩壊や家族の多様化によって家族の要員それぞれが財産を有する事が当たり前となってきた。 2005年に母親の死によって生命保険の受取人となった未成年者の預金を家庭裁判所から後見人に任じられた実の祖母(直系血族)と伯父夫婦(同居の親族)が横領するという事件が発覚した。この場合、親族相盗例に従えば、祖母と伯父夫婦は処罰される事はない。だが、検察官は家庭裁判所からの後見人任命の約束に反したと解釈して祖母と伯父夫婦を起訴した。この場合のような家庭内での力関係では「弱者」である若年の卑属の個人財産が年長の親族によって侵されたような場合には、親族相盗例がかえって弱者保護の妨げになってしまうケースも存在しうるのである。なお、この事件について、最高裁は、未成年後見人は家庭裁判所から選任される公的性格を有するものであるから親族相盗例の適用はないとした(最決平成20年2月18日)。 また、その他のケースとしては、事実婚(内縁)の配偶者が、親族相盗例における配偶者にあたるかという問題につき、2006年に最高裁は「配偶者」の意義を厳密に解釈し、事実婚の配偶者による窃盗には、親族相盗例を適用しない旨を決定した(最決平成18年8月30日)。
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