見かけの逆行運動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/22 06:15 UTC 版)
空の天体を観測すると、太陽や月、恒星は地球の自転によって東から西へ動くように見える。これを日周運動と呼ぶ。しかしスペースシャトルや多くの人工衛星などは西から東へ動くように見えることが多い。これらの人工天体は月と同じ方向に公転しているが、公転速度が地球の自転よりも速いために日周運動とは逆方向に動くように見える。火星の衛星フォボスもこれと似た軌道を持つ。火星の表面から見たフォボスは地球から見た月の動きとは逆の方向へ動いていく。フォボスも月も母惑星に対して順行する衛星だが、月の公転周期が地球の1日に比べて長い(約1ヶ月)のに対して、フォボスの公転周期は火星の1日に比べて短いためにこのように見える。地球の周囲を公転する人工衛星には逆行軌道を持つ衛星も少ないながら存在し、これらの衛星は地上から見ると(逆説的だが)月と同じ方向、すなわち東から西へと動くように見える。 地球から見ると、外惑星(火星、木星、土星、天王星、海王星)は空を移動しながら定期的に移動方向を変えるように見える。ある一夜での運動を見ると、全ての恒星と惑星は地球の自転に応じて東から西へと動くが、一般に惑星は恒星に対してゆっくりと東へ移動している。この運動方向が惑星にとっての順方向であり、見かけ上の順行運動と見なせる。しかし、地球は外惑星に比べて短い周期で1公転するため、地球上の我々は複数車線の高速道路を走る速い車のように定期的に外惑星を追い越すことになる。このような追い越しが起こると、追い越される外惑星は東へ動く順行運動を止め、続けて西へと後戻りするように見える。その後、地球が公転を進めて惑星を追い越し去ると、外惑星は再び西から東への順行運動を再開するように見える。 火星はこの見かけの逆行を約25.7ヶ月ごとに行なう。火星より外側の惑星はより頻繁に逆行を行なう。この逆行が起こる周期をその惑星の会合周期と呼ぶ。 この見かけの逆行運動は古代の天文学者を悩ませ、このことが planet という名前の由来の一つとなっている。planet はギリシャ語で「彷徨うもの」を意味する語から来ている。天動説の太陽系モデルでは、惑星の見かけの逆行運動は惑星が周転円と従円と呼ばれる円の上を運動するためであると説明された。その後コペルニクスらにより地動説が再発見されるまで、逆行が見かけの運動であるとは考えられなかった。 古代中国、漢の時代の天文学者は、惑星の逆行が規則的に起きることに気づいていたが、正常な運行とは認めず、災いを示す異変とみなした。彼らは、古の天下太平な世に逆行はなかったのに、兵乱があいつぐ時代に入って逆行が当たり前のようになったと考えていた。
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